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入学したのに、コロナ禍で学校に行けない高校生 登校再開日、先生が告げた言葉は…

By - grape編集部  公開:  更新:

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※写真はイメージ

2020年5~8月にかけて、ウェブメディア『grape』では、エッセイコンテスト『grape Award 2020』を開催。

『心に響く』と『心に響いた接客』という2つのテーマから作品を募集しました。

今回は、応募作品の中から『シャボン玉、はじける』をご紹介します。

学校にいけない。

そのことは予想をはるかに超えて僕の上に重くのしかかった。今までは憂鬱にすら感じられた授業が恋しくてたまらなかった。

僕は3月に中学校を卒業し、4月に高校へ入学した。が、思い描いていた高校生活はなかなか始まらなかった。

知り合いがほとんどいない高校に進学した僕はこの期間、段々と中学校の頃の知り合いとも距離が空いていき、それでいて高校での新しい出会いもなかった。すると、今までよりも自分と会話することが多くなった。

例えば、

「別れが人を強くするって言うけどホントかなぁ」

「どうだろ、今の僕は別れを経験したけど全然強くも前向きにも慣れてない気がする」

「だよね、ってことは、別れが人を強くするんじゃなくて本当は、その先にある新しい出会いへの期待が人を強くするんじゃない」

「確かに」

というような具合である。今まで気づかなかったが自分との会話は、心の中に渦巻く様々な感情を整理し、すっきりとさせてくれる。

おかげで僕の体にのしかかっているものが少し軽くなった(気がした)。

そうこうしているうちに学校ではオンライン授業が開始された。授業では先生と生徒の顔が画面に映し出され、全員がお互いを見ることはできた。しかし、先生が一方的に話す、もしくは先生が投げかけた質問に代表の生徒1人が答えるだけであった。

僕はこの状況にもどかしさを感じてならなかった。そのもどかしさはシャボン玉の中に閉じ込められたような感覚だった。

互いの姿は見ることができるのに、手を伸ばせば届きそうなのに、手を取り合うことも、肉声を交わすことも叶わない。ヘッドホンから聞こえてくる一人の生徒の声からは不安の色が滲み出ていた。

自宅でのオンライン授業が開始されてから約2か月、ついに登校の再開が決まった。パソコンの前に独り座り続ける毎日に限界を感じていた僕は救われたような気持ちになった。

そして登校日、僕は電車に乗り学校へ向かった。そして最寄り駅に着くと電車を降り改札を出た。改札から出ると、こちらに向かって歩いてくる、見覚えはあるがイメージしていた背格好とは少し違う、自分と同じ制服を着た人が目に入った。相手もこちらに気づき、目が合った。

二人の間に少しの間があった後、どちらともなく笑みがこぼれた。相手が「やっとだね」と一言、僕も「やっとだね」と一言。僕たちが学校につくまでに交わした会話らしい会話はそれだけだったが、それで十分だった。

集合場所である講堂につくと一定の間隔をとって並べられた椅子に先に来た人たちが座っていた。僕も自分の番号が書かれた席に座り、しばらくして全員がそろうと担任の先生が前に出て挨拶や連絡を一通りした。

そして最後に、「初めてこうして同じ場所に集まれたのに前だけを向いているのはもったいないから新しく出会った仲間たちで顔を合わせてみてください。」と言った。

僕たちは横を見たり、後ろを向いたりしてお互いを見た。僕は画面の向こう側に見ていた皆が目の前にいるということに不思議な感覚を覚え、またそれと同時に嬉しさが胸の底からこみあげてきて自然と笑顔になった。

周りも同じ想いだったのか皆の顔に笑顔が広がっていた。この瞬間、僕たちを隔てていたシャボン玉は笑顔とともに完全にはじけた。

grape Award 2020 応募作品
テーマ:『心に響くエッセイ』
タイトル:『シャボン玉、はじける』
作者名:正路 和也

エッセイコンテスト『grape Award 2020』の審査員が決定!

2017年から続く、一般公募による記事コンテスト『grape Award』。第4回目となる2020年の審査員には、grapeでも人気の漫画『犬と猫どっちも飼ってると毎日たのしい』シリーズでおなじみの漫画家・松本ひで吉さんが決定しました。

さらに『Jupiter』などの作詞を手がけた作詞家でエッセイストの吉元由美さんや、映画化もされた『スマホを落としただけなのに』などで人気を博する小説家の志駕晃さんも審査員として作品を読みます。

心に響く作品として選ばれるのは、どのエピソードでしょうか。結果発表をお楽しみに!


[構成/grape編集部]

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