繁華街を全力疾走する警察官 “スピードスター”と呼ばれた男の誇りとは?【警官エピソード】
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暴れる酔っ払いをパトカーで連行 車内の珍事件に「笑うの我慢した」「地獄の時間」かつて警察官として勤務していた筆者。当時は、年齢も性格もまったく違う『相棒たち』と、数々の現場を一緒に乗り越えてきました。 厳しい職務の中でも、思わず笑ってしまうような瞬間があるのが、この仕事の面白いところの1つです。 ...

警察と企業、どっちがやりがいがある? 両方で働いた元警察官の『本音』とは…警察官として10年間勤めたことがある筆者。現在は退職し、一般企業で働いています。 どちらの世界にも身を置いてみて感じたのは、常識や文化がまったく違うということ。 時にカルチャーショックを受けることもありますが、どちらにも...






かつて警察官として勤務していた筆者。
さまざまな『相棒』たちと、数々の危ない現場をくぐり抜けてきました。
本記事では、筆者がさまざまな人とタッグを組んできた中で、ちょっと変わった相棒を紹介します。
繁華街交番の知られざる事情!ダッシュで現場に向かう警察官
繁華街の交番の中には、意外にもパトカーやバイクがありません。
人が多く、道も入り組んでいるため、車両を使うとかえって時間がかかるからです。
そのため、基本は徒歩。ほとんどの場合『ダッシュ』で現場に向かいます。
筆者が警察官時代に出会った相棒の中に、ダッシュで誰よりも早く現場に駆けつける警察官がいました。
通称『繁華街のスピードスター』と呼ばれていた人です。
誰よりも速い!『繁華街のスピードスター』
その相棒は、基本的にぶっきらぼうな人でした。無駄なことは言わず、淡々と仕事をこなすタイプ。
けれど金曜の夜になると、どういうわけか、だんだんテンションが上がってくるのです。
相棒がくだらない冗談をしつこく繰り返し始めると「あぁ、週末の繁華街がきたな」と筆者は思いました。
多くの警察官にとって、週末の夜の繁華街は『戦場』のような場所です。
ケンカや泥酔者の対応などがひっきりなしに続き、気が休まる暇もありません。
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そんな中でも相棒は、どこか楽しそう…。交番の中で軽くストレッチを始めたり、外を見ながら「今日も走るぞ」と笑っていたりしたのを覚えています。
地図いらずの『人間ナビ』
相棒のすごいところは、繁華街の地形と店の場所を完全に把握していたことです。
多くの警察官は、110番通報が入るとまず地図を確認したり、マップアプリを開いたりして場所を調べます。
しかし彼は違いました。
「110番通報、ケンカの模様。場所は〇〇町…」
通報が入った瞬間には、もう交番を飛び出して走り出しているのです。
勤務していた交番の管轄で、事件や事故現場へ一番に到着するのは決まって彼でした。
実は、普段から繁華街を歩くのが好きだったようで、休みの日にもよく街の雰囲気を見て回っていたそうです。
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普通の警察官なら、休みの日まで自分の勤務エリアを歩くことはなかなかありません。
そんな日々の積み重ねもあり、彼は店や通りの位置を誰よりも正確に覚えていたのです。
とんでもない脚力
地理を把握していることでスタートが早いのはもちろんですが、彼のすごさは『その後のダッシュ力』にもありました。
初めて筆者が同じ交番に勤務した日のことです。
繁華街の地理にまだ不慣れだった筆者に、彼は優しく声をかけてくれました。
「まだ道が分からないと思うから、俺についてきたらいいから!」
「そんな気構えなくても全然大丈夫だよ」
その気遣いが本当に嬉しく、頼もしさを感じたのですが…。
一瞬で姿を消した『相棒』
ほどなくして110番通報が入りました。内容は「〇〇市××町でケンカ」。聞き覚えのある町名でしたが、場所はうろ覚え。
彼と一緒に交番を出たその瞬間、筆者は「これなら安心してついていける」と思いました。
しかし、交番の目の前の通りを曲がったところで、もう見失っていたのです。
結局、息を切らしながら現場付近で無線を飛ばし、「場所はどこですか」と確認するはめに…。
着いたころには、すでに彼が状況を聞き終えていました。
そんな『スピードスター』の姿は、夜の繁華街でも有名に。
通報を受けて交番からダッシュするたびに、「おー!今日も走っているぞ!」と声援を送る人までいたほどです。
『初動のプロ』としての誇り
交番の警察官は、ほとんどの現場でもっとも早く到着します。
そこから、事故なら交通課、窃盗なら刑事課と、事案を引き継ぎ、また次の現場へ…。
専門性がないと言われれば否定はできませんが、言わば『初動のプロ』なのです。
そんな初動が何より大切な交番のエースである彼に、ある日、飲みの席で仕事へのこんな思いを聞いたことがありました。
俺はあまり仕事ができるとは思っていない。書類もしょっちゅう訂正されるし、よくほかの部門の人から怒られる。
だからこそ、1分でも1秒でも、誰よりも早く着きたいんだ。ここだけは誰にも負けたくない。
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普段は感情を表に出さない彼が、仕事への誇りを真っ直ぐに語る姿に、筆者は胸を打たれました。
誰よりも早く現場に駆けつける『繁華街のスピードスター』。誰よりも市民を思う熱い警察官は、今日も全速力で駆け抜けていることでしょう。
記事執筆 りょうせい
元警察官。警察歴10年。
交番勤務を経て、生活安全課の捜査員として勤務。
行方不明やDVなどの「人身関連事案」を対応しつつ、防犯の広報・企画業務を兼務。
現在は警察の経験を生かし、Xや音声配信(StandFM)にて、防犯情報を発信中。
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[文・構成/りょうせい]