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9歳に「意地悪だよ」と注意した大人 子供の反応に考えさせられる【きしもとたかひろ連載コラム】

By - grape編集部  公開:  更新:

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Twitterやnoteで子育てに関する『気付き』を発信している、保育者のきしもとたかひろさん。

連載コラム『大人になってもできないことだらけです。』では、子育てにまつわる悩みや子供の温かいエピソードなど、親や保育者をはじめ多くの人の心を癒す文章をお届けします。

第20回『のこりははんぶんこ』

「あ、意地悪だ」と直感的に思う。

9歳の友人が新しく買ったボールで遊んでいて、しばらくしてからボールをバッグにしまおうとした時に、そばで砂遊びをしていた5歳の妹がそのボールを使わせてほしいと言ってきた。

もうやめるところだったから貸してあげるものだと思っていると、しまいかけたボールを取り出して「まだ使ってるから」と渡さなかった。

子どもたちと関わっているとよく見かける場面だ。使っていないレゴなのに他の子が使おうとしたら急に「それ使ってる」と奪い返す。ハサミを使い終わった時に貸してと言われたら、「まだ使ってるねん」と必要のないところまで切り続ける。

意地悪ではない場合もあるだろうけれど、ただの意地悪に見える時も少なくない。

僕も子どもの頃にしたことがある。なんとなくテレビを眺めていたところ、横から妹に「チャンネル変えていい?」と聞かれて、別にその番組が見たいわけではないのに「いま見てるから」と要望を通させないようにしていた。喧嘩してたとか仲が悪かったとかではない。

新聞のテレビ欄を開いている時に「見せて」と言われて、なぜか素直に渡すのが嫌で「いま見てるから」と小学生の僕には全く面白くもないページを興味あるふりをして眺め続けたこともある。「自分は一体何がしたいのだろう」と思った記憶がある。それくらい、特に意味はないただの意地悪なのだ。

ボールを貸してと言って断られた5歳は、「貸してや」と怒りながら泣きそうに叫んでいる。泣き出されることのめんどくささと意地悪な姿に対する嫌悪があったのだろう、つい「もう使わへんねんやろ、意地悪したりなや」と言ってしまった。

すると、悲しそうに「いま貸そうと思ってたやんか」とボールを妹に手渡した。意地悪がバレてバツが悪いというよりは、自分のことを意地悪と評されたことに傷ついているようだった。

ブランコに長い間並んでいたのに、自分の番になるとひと漕ぎだけして帰ってきた。すぐ後ろに小さな子が並んでいたからだろう。そんな場面を何度も見てきた。

いつもUFOキャッチャーをする時には自分のものより誰かが喜ぶものを選ぶ。遊びに行く時には自分の行きたい場所ではなく妹の要望を優先する。やっと順番が回ってきたブランコは後から並んでいる自分より小さな子にすぐに譲ってあげる。

そんな優しい姿を知っているのに、どうして僕はあれくらいの些細な意地悪を見逃せなかったのだろう。

いや、そういう姿を知っているからこそ、君はそんな子じゃないでしょうと言いたかったのかもしれない。その小さな意地悪を、意地悪をされて傷つく子のためでなく、それをする姿を僕自身が許せないがために、咎めたのかもしれない。

些細な意地悪でも、それが膨れて広がればいじめや暴力になっていくかもしれないから、「それくらい」と見ないふりをしていいとは思わない。ただ、優しくないことは悪いことではないよね。

もし、いつも自分より誰かを優先しなきゃいけないと思って過ごしているとしたら、その小さな意地悪は、自分の思いのままに行動したり自分を優先したかったりする思いを溜めて溜めて、ぽろっと溢れてしまったものかもしれない。

そうだとしたら、僕の言った「意地悪だよ」という言葉は、日々のその子の優しさまで否定するものになるんじゃないか。「君は意地悪するような子じゃないでしょう」という目は、わがままでも自分を大切にするという道を封じるものになるんじゃないか。

優しいその子には価値があって、意地悪なその子には価値がないなんて思わせてしまっているんじゃないか。優しいも意地悪もみんなが持ってるものなのに。

自分のための優しさであってほしい

真夏の茹だるような暑さの中で、片手に扇風機を持って歩いていると、前から歩いてきた女性がすれ違いざまにしゃがみ込んだ。

気になって目をやると、その女性が歩道に転がっていた蝉を、それがまだ生きていたのかどうか僕にはわからなかったけれど、歩道の脇の植え込みに移動させていた。

少ししてから「さっきの人何してたんかな」と連れ合いが聞くので、「落ちてたセミを土のところに移動させてあげてたね」と答えると、「優しいね」と返ってきた。

そうか、あれは「優しい」なのかと、初めて知った言葉のように反芻(はんすう)した。僕の知らない優しさがあるんだなと考えながら、10年以上前に地元の駅のホームで見かけた、知らないお婆さんのことを思い出していた。

そのお婆さんは蝉を片手に困っていた。声を掛けると、「踏まれたら困るからね、踏まれないところないかしら」と話してくれた。その時も思ったのだ。誰かが踏んだら、ではなく、蝉が踏まれたらと考えられるのはすごいなって。もしかしたら、優しいなって思ったかもしれない。

それから10年の間で、僕は一度も踏まれそうになっている蝉を救ったことがない。新しい優しさを知ったからといって同じことをするとは限らない。

けれど、もしかしたらそれが優しさなんだろうかとも思う。誰かに押し付けたり誰かのためだったりするものではなく、自分がその人のことを思って、時には蝉のことを思って、自分が思う行動をする。

それを、それをしてもらった誰かが、あるいは外側にいる誰かが、優しいと表現するだけなのかもしれない。

わがままに、自分の思いを通そうとして褒められることはほとんどない。

誰かになにかをしてあげたり何かを譲ったり、誰かのために自分のなにかを犠牲にすることの方が褒められるし、現に子どものそういう行動を褒めてしまう。

この世では優しいと生きにくいのに。なんて断言してしまうと、自分の受けてきたしんどさを社会のせいにして悲観しすぎだと言われるかもしれないから、あえて主観的な感想だと言っておく。

ただ、相手を思って自分が遠慮するよりも、相手のものを遠慮なく奪えるくらいの人の方が生きやすいし、蝉をいちいち助ける人よりも、気にせず蹴飛ばすまではしなくても見ぬふりをしたり気付かなかったりするくらいのほうが生きやすいというのは、大人として生きている人たちの多くが感じていることだろう。

それを知らずに大人になってしまったうちの一人として、時々思うことがある。どうして子どもの頃、誰かに優しくすると褒められたんだろう。思いやりを持つことを求められたんだろうって。

どうして、この現実を知っているのに、それでも僕は自分を犠牲にして誰かに優しくしている子を褒めてしまうんだろう。思いやりを持ってほしいと願ってしまうんだろう。

あまつさえ「優しいね、またお願いね」なんて言葉で、その行動を強化しようとまでしてしまう。

自分の分のおやつを誰かに分けてあげる姿を見て、僕は感動して「優しいね」と過剰に褒めてしまう。その子が何かを感じて思いのままにしただけの行動なのに、それに価値をつけて、意味を作って、「優しいその子」を作ろうとしてしまう。

その優しさを見て感動するのは自由だ。ただ、その優しさを評価するのは、傲慢なのではないか。どうしてその子が優しい人であってほしいって思うんだろうか。どうしてその子がわがままに振る舞っているのを許せないんだろうか。

「そうあることで、その子が幸せになったり生きやすくなったりするから」と考えたいけれど、実際のところは、ただ僕が子どもの優しい姿に感動して、ただ僕がわがままに見えるその子の姿に嫌悪感を抱いて、それを押し付けているだけに過ぎないのかもしれない。

そんなことを思うと自分が嫌な人間に感じてしまうけれど、「優しい子」と評価しすぎることで、その子に自己犠牲を強いてしまっているのなら、それをその子の存在意義のように思わせてしまうのなら、当たり前に正しいと思っていた「優しくあること」を見つめ直してみたい。

その子の優しさを、僕は利用していないだろうか。その子の優しさを、僕は搾取していないだろうか。その子の持っている優しさは、その子が幸せになるためにあるのだろうか。

「いつもお金使ってくれるし、優しいね」と9歳に声をかけられた。

唐突にかけられた露骨な表現に驚きながらも、おもちゃを買ったり遊びに出かけたりした時の支払いのことを言っていることを理解する。理解しながらも、それを優しいと言われることに戸惑いも感じる。

少し意地悪な顔をしながら「そんなこと言って、今日もなにか買ってほしいん?」と尋ねると、「そういう意味で言ったんじゃないよ」と、大袈裟に顔を背けながら言い返してくる。「優しいなと思ったから言っただけ」と言われ、茶化したことを申し訳なく思い素直にありがとうと返す。

本人も、それを優しいと言いたかったわけではないのだろう。ただ、なにかしらの僕からの優しさを感じてくれて、それを伝えたかったのだと思ってみる。優しくされて、それが嬉しかった。それを伝えてくれた。ああ、それだけで僕は嬉しいじゃないか。

「譲ってあげたよ」「助けてあげたよ」と、褒めてほしそうに報告してくることがある。その姿を見て、さっきから悩んでいるようなことが頭にありながらも、ここで褒めないのは違うよなと考え直し、「うんうん、譲ってあげたんやね」と言葉をかける。その言葉がこれからのその子を縛らないようにと願う。

そんな時に、優しくできてえらいねって評価する必要なんかないのかもな。きみがその子を思ってやったことを見ていたよって、それを僕は優しいと感じたよって伝えるだけでいいのかもしれない。喜んでくれて嬉しいねって一緒に共感するだけでいいのかもしれない。

もしかしたら、優しくした時ではなく、優しくしていないその子を見た時にどう関わるかの方が大切なのかもしれない。

子どもとの関わりの中では、子どもの姿を見る時には、その子が我慢したり奉仕的だったりする行動ばかりを「優しい」と表現しているような気がする。

「それが優しさですよ」とまでは言わないとしても、少しわがままに見えたり身勝手に見えたりする行動について「意地悪だよ」とか「優しくしてあげなよ」とか言ってしまって、それができないその子が「優しくなくて思いやりのない子」のような言い方をしてしまうこともあるんじゃないか。

誰かが辛い思いをしてることに気づいたり、言葉にできないことを察したり、自分より弱い子を気にかけたり、そんな姿を持ちながら、一方で自分を優先してわがままであってもいいんじゃないか。

優しくしないことが、意地悪なわけではない。自分を優先することが、優しくないわけでもない。

譲りたくないのなら、譲らなくてもいいという選択も選べるようにしておきたい。自分の思いのままわがままでいられることも、大切なことだとしておきたい。

「もっと我を出しなよ」だと、優しくありたいと思っているその子を否定してしまうことになるかもしれないから、優しくなくても大丈夫だと感じられたり、わがままでいられる環境を作ったり、そんな風にバランスを取れたらいいな。

わがままっていうのは、いわば自分を大切に思う気持ちなのだから、そうやって人を大切に思う気持ちと同じくらい大事にできたらいいな。

余談ですが

車で移動している時に、後部座席のチャイルドシートに座る友人から「問題出して」とリクエストをいただいた。

たしか、簡単な足し算を覚え始めた4歳くらいの時だったと思う。いくつかの足し算の問題を出したけれど、あんまりポンポンと答えてきて面白みがないので、少し悩んでもらおうかなと、あそびの延長のつもりで文章問題を出すことにした。

「りんごが3つありました、君と僕とで1つずつ食べました。残りは何個でしょう」

突然の引き算で戸惑ったのか「りんごが3つあってー」と少し悩む素振りを見せる。

架空のりんごを僕にひとつ手渡す仕草をし、もう一つを自分で食べる仕草をしてから、両手を合わせて残りのひとつを丸く形作った。

バックミラー越しにその姿を見て「お、解けそうだな」と期待する。丸い形にした両手をパカーンと弾けるように広げて大きく叫んだ。

「のこりははんぶんこ!」

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[文・構成/きしもとたかひろ]

きしもとたかひろ

兵庫県在住の保育者。保育論や保育業界の改善について実践・研究し、文章と絵で解説。SNSアカウントやnoteに投稿している。
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