いつも駅前でたむろする少年3人 110番通報の内容に、新人警察官「心を打たれた」【実話】
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地域によっては夜になると、コンビニエンスストアの前や公園などでたむろする若者たちを見かけることがあるでしょう。
地域の安全のため、状況に応じて警察官は彼らに声をかけ、速やかな帰宅をうながすことがあります。
警察官として10年勤務した筆者はかつて、日常的に非行少年グループを取り締まっていました。
本記事では、そんな非行少年たちとの間に生まれた、心温まるエピソードを紹介します。
非行少年と新人警察官
筆者が以前、神奈川県の住宅街で交番勤務をしていた時のことです。
神奈川県のとある小さな駅前には、夜になると必ずといっていいほど、同じ顔ぶれの少年3人組(A・B・C)がたむろしていました。
彼らは深夜の徘徊や喫煙で補導されることもしばしば。
警察官になって間もない頃だった筆者は、怖いもの知らずということもあり、彼らに対して物怖じせずに声をかけました。
初めて接した時もその後も、「ここでたむろするな」と突き放すのではなく、「事件に巻き込まれてほしくないから声をかけている」と、思いやる気持ちを忘れずに伝えていた筆者。
その言葉が響いたのか、彼らは次第に筆者にだけ心を開いてくれるようになりました。
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心を開き始めた非行少年たち
その場で指導するだけでなく、ほんの少しだけ世間話を交わすようにしたところ、「学校が楽しくない」「家庭環境が悪い」という悩みを打ち明けてくれるようになったのです。
悩みを聞くまでは、なぜ非行に走るのか理解できませんでしたが、背景を知ることで少しずつその理由が見えてきました。
筆者は彼らに、毎回こんなふうに伝え続けていたのです。
たくさん遊んでもいい。自分を強く見せたっていい。でも、自分を誇示するために『悪いことをする』のは、カッコよくもなんともない。
徐々に非行少年たちとの絆が生まれつつあることを感じていた筆者。
しかし、補導しても徘徊や喫煙はなかなかやめてくれないことに頭を悩ませていました。
痴漢事件が発生…犯人は?
そんなある日、「〇〇駅付近で痴漢を捕まえた」という110番通報が入りました。
「〇〇駅?あそこはいつも彼らを補導している駅じゃないか!」
「まさか…あいつらが事件を…」と、胸騒ぎを覚えながら現場へ向かうと、いつもの3人組のうち2人と、涙ぐむ女子高生を発見。
Aの姿が見当たらず、BとCに所在を聞くと「Aならあっちにいるよ」といわれ向かうと、Aと50歳ほどのスーツの男が並んでいました。
筆者が「何があった?」と尋ねると、Aは「この人がさっきの女子高生に痴漢をしてしまったっていうから、警察が来るまで一緒にいました」と答えたのです。
なんと彼らは協力して犯人を確保していたことが判明。ほどなくして、スーツの男は痴漢の容疑で逮捕されました。
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非行少年たちから学んだこと
取調べの中で分かったのは、彼らがただ犯人を取り押さえただけではないということ。
「間違っていたら本当にすみません。あなた、痴漢をしませんでしたか?」と、犯人の男に敬語で丁寧に声をかけていたのです。
AだけでなくBもCも、口下手ながら女子高生のそばに寄り添い、不安を和らげていたといいます。
筆者は少し涙ぐみながら取調室へ走り、Aに「かっこいいぞ」と声をかけました。
するとAは「当たり前じゃん、知ってる知ってる」と、照れ臭そうに答えていましたが、明らかに嬉しそうな様子。
補導してもなかなか徘徊はやめてくれませんでしたが、伝えてきたことは間違っていなかった。確かに彼らに筆者の思いは届いていたのです。
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非行少年に迷惑をかけられたり、怖い思いをさせられたりしたことがある人もいるはずです。もちろん、彼らにも反省すべき点はあり、筆者も手放しに彼らを許そうというつもりはありません。
しかし、非行に走る少年たちの裏には、家庭や学校などで起きているさまざまな事情があります。
彼らをただ叱るのではなく、理解し、寄り添うこともまた、防犯につながるのではないでしょうか。
[文・構成/りょうせい]
記事執筆 りょうせい
元警察官。警察歴10年。
交番勤務を経て、生活安全課の捜査員として勤務。
行方不明やDVなどの「人身関連事案」を対応しつつ、防犯の広報・企画業務を兼務。
現在は警察の経験を生かし、Xや音声配信(StandFM)にて、防犯情報を発信中。
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