ボヤけたり、暗くなったり、見えにくかったり ロービジョンって知ってる? 提供:中外製薬株式会社 By - grape編集部 公開:2023-12-25 更新:2023-12-29 インタビュー視覚障害 Share Post LINE はてな 街中を歩いていると、白杖(はくじょう)を使っている人を見かけることがあります。 白杖は目が不自由な人の歩行を補助するものです。見かけた場合、進路を妨げないように立ち止まったり、道を開けたりしますよね。 ※写真はイメージ 一方で、白杖は『目がまったく見えない人が使っている』というイメージはないでしょうか。 実は目が不自由な人の中で、目がまったく見えない『全盲』の人は全体の1~2割程度で、残りの8~9割は『ロービジョン』という状態だといわれています。 ロービジョンってどういうもの? それでは、ロービジョンとはどういうものなのでしょうか。 grapeは、兵庫県神戸市の『神戸アイセンター』を訪問。視覚障がいを持つ人への支援を行う団体、公益社団法人NEXT VISIONで副理事長を務める、医師の三宅琢(みやけ・たく)先生と、常務理事の和田浩一(わだ・こういち)さんにお話をうかがいました。 インタビュアーは、フリーアナウンサーの坂本梨紗(さかもと・りさ)さんです。 坂本さん まずは三宅先生、『ロービジョン』について、教えていただけますか? 三宅先生 ロービジョンは『完全に見えないわけではないけど、見ることに何かしらの困難さがある人』を表しています。障害者手帳を持っているような重度の人から、「まったく見えないわけではないけれど、見えにくくなってきた」という人まで含んだ広い意味の言葉です。 坂本さん なるほど…このロービジョンが日常に与える影響はどんなものがあるのでしょうか? 三宅先生 例えば、相手の表情が見えなくて、コミュニケーションがしにくくなる、書いてある文字が読めないなどの『情報障がい』。また、視野が狭くなってつまづきやすく、移動するのが怖いという『移動障がい』があります。 ロービジョンは、視界がボヤけたり、暗く見えたり、一部だけが見えなかったりと、人によって症状もさまざま。 NEXT VISIONは、そんなロービジョンの人たちを支えるため、神戸アイセンター内にある『Vision Park(ビジョンパーク)』と呼ばれる空間を提供しています。 坂本さん ビジョンパークとはどのような施設なのですか? 三宅先生 この神戸アイセンターでは症状に合わせて適切な治療を行っていますが、それでも完全に視力が戻るというわけではありません。治療を受けた患者さんが「これだけしか見えないのか…」とショックを受けてしまうこともあります。そこで、完全には治らなくても、生きる上で困ることが減ったという体験ができる空間が、医療と一緒に必要だと考えました。 三宅先生 『来ただけで元気になるような空間』をコンセプトに、3年ぐらいかけて機能面を考えた結果、患者さんが欲しいのは『目が見えにくくても、すごく元気に人生を楽しんでいる人と出会う場所』ということでした。それは運動や料理をしている時かもしれないので、趣味や就労など、医療以外のすべてが処方される空間になっています。 和田さん 目立つものでいうと、クライミングウォールがあって、実際にクライミングができます。また、真ん中にはキッチンがあり、ここで料理を作ることも可能です。ほかには拡大読書器など、見えにくさをフォローするような道具を体験することもできます。 また、施設内はあえて段差がある造りになっていて、「白杖を持って歩くことで、段差があっても安心して歩けるんだ」など、学びと成長が生まれる空間でもあるといいます。 ビジョンパークは誰でも利用することができるため、目の不自由な人とそうでない人が積極的にコミュニケーションを取る場所としても活用しているのだとか。 坂本さん ロービジョンの方々と接する上で、大切にしていることはありますか? 三宅先生 とにかく、その人のプロフィールだけを見て『決めつけない』ということです。「今、何に困ってるんですか?」と「何がやりたいんですか?」しか聞きません。その上で視力や年齢は関係なく、その人がやりたいことをやれる方法を一緒に考えることを大切にしています。 和田さん 私自身も途中から目が見えなくなったので分かるのですが、視力が徐々に下がってきて「将来的にもっと見えにくくなる」と知った時、やはりショックで心が折れてしまう人は多いんです。そういう人たちも元気になって、またいろいろな活動をしてもらえるように、寄り添って話を聞くことを大切にしています。 坂本さん なるほど…。 和田さん すると、少しずつ一緒に未来の話をすることが増え、元気に活動できるように変わっていくんですね。そういったきっかけをビジョンパークでつかんでいただこうと、気を付けながら伝えています。 坂本さん ロービジョンについての認知拡大や理解のために、社会にのぞむことはありますか? 三宅先生 まずは目が不自由な人もそうでない人も、お互いに自分のことをもっと理解する必要があると思っています。目が見えるからこそ見えない部分、目が見えないからこそ見える部分があり、そこに優劣はありません。一番大切なことは『分ける』のではなく『混ざる』ことです。 坂本さん 『分ける』ではなく『混ざる』ための仕組みをいかに作るかが、大事なポイントになりそうですね! 三宅先生 はい。ビジョンパークのように、目が見える人と見えにくい人が一緒に過ごすことで、「見えにくい人にはこういう工夫が必要なんだ!」と気付くなど、双方の学びを重ねることが大切かなと思います。 坂本さん 和田さんはどうでしょうか? 和田さん 私が外に出て1人で杖をついて歩いてる時に「困ってるだろう」と思って、助けてくださる人がいます。大変ありがたいのですが、例えば杖を引っ張る、背中を押す、急に身体を触るなど…こちらとしては望まない方法であることもあります。 坂本さん 確かに急に触れられたらびっくりしてしまいますよね…。 和田さん でもそれは「どうしたらいいのかが分からないこと」が原因で、お互いが一緒に生活をしたり、体験したりすることによって発見していくものです。差別や偏見という感情はなくても、今はまだ溝があります。それをなくして、お互いが当たり前に混じり合っていけるといいのかなと思いますね。 目が不自由な人もそうでない人も、より自分らしく生きられる世の中にするためには、まずは『知ること』が大切です。 その上で、お互いが意識することなく、当たり前のように助け合える世の中こそ、理想的な未来といえそうですね。 誰もがなり得るロービジョン。知らなかった人も、この機会に意識してみてはいかがでしょうか。 ロービジョンについて詳しく知りたい! [文・構成/grape編集部] Share Post LINE はてな
街中を歩いていると、白杖(はくじょう)を使っている人を見かけることがあります。
白杖は目が不自由な人の歩行を補助するものです。見かけた場合、進路を妨げないように立ち止まったり、道を開けたりしますよね。
※写真はイメージ
一方で、白杖は『目がまったく見えない人が使っている』というイメージはないでしょうか。
実は目が不自由な人の中で、目がまったく見えない『全盲』の人は全体の1~2割程度で、残りの8~9割は『ロービジョン』という状態だといわれています。
ロービジョンってどういうもの?
それでは、ロービジョンとはどういうものなのでしょうか。
grapeは、兵庫県神戸市の『神戸アイセンター』を訪問。視覚障がいを持つ人への支援を行う団体、公益社団法人NEXT VISIONで副理事長を務める、医師の三宅琢(みやけ・たく)先生と、常務理事の和田浩一(わだ・こういち)さんにお話をうかがいました。
インタビュアーは、フリーアナウンサーの坂本梨紗(さかもと・りさ)さんです。
まずは三宅先生、『ロービジョン』について、教えていただけますか?
ロービジョンは『完全に見えないわけではないけど、見ることに何かしらの困難さがある人』を表しています。
障害者手帳を持っているような重度の人から、「まったく見えないわけではないけれど、見えにくくなってきた」という人まで含んだ広い意味の言葉です。
なるほど…このロービジョンが日常に与える影響はどんなものがあるのでしょうか?
例えば、相手の表情が見えなくて、コミュニケーションがしにくくなる、書いてある文字が読めないなどの『情報障がい』。
また、視野が狭くなってつまづきやすく、移動するのが怖いという『移動障がい』があります。
ロービジョンは、視界がボヤけたり、暗く見えたり、一部だけが見えなかったりと、人によって症状もさまざま。
NEXT VISIONは、そんなロービジョンの人たちを支えるため、神戸アイセンター内にある『Vision Park(ビジョンパーク)』と呼ばれる空間を提供しています。
ビジョンパークとはどのような施設なのですか?
この神戸アイセンターでは症状に合わせて適切な治療を行っていますが、それでも完全に視力が戻るというわけではありません。治療を受けた患者さんが「これだけしか見えないのか…」とショックを受けてしまうこともあります。
そこで、完全には治らなくても、生きる上で困ることが減ったという体験ができる空間が、医療と一緒に必要だと考えました。
『来ただけで元気になるような空間』をコンセプトに、3年ぐらいかけて機能面を考えた結果、患者さんが欲しいのは『目が見えにくくても、すごく元気に人生を楽しんでいる人と出会う場所』ということでした。
それは運動や料理をしている時かもしれないので、趣味や就労など、医療以外のすべてが処方される空間になっています。
目立つものでいうと、クライミングウォールがあって、実際にクライミングができます。また、真ん中にはキッチンがあり、ここで料理を作ることも可能です。ほかには拡大読書器など、見えにくさをフォローするような道具を体験することもできます。
また、施設内はあえて段差がある造りになっていて、「白杖を持って歩くことで、段差があっても安心して歩けるんだ」など、学びと成長が生まれる空間でもあるといいます。
ビジョンパークは誰でも利用することができるため、目の不自由な人とそうでない人が積極的にコミュニケーションを取る場所としても活用しているのだとか。
ロービジョンの方々と接する上で、大切にしていることはありますか?
とにかく、その人のプロフィールだけを見て『決めつけない』ということです。「今、何に困ってるんですか?」と「何がやりたいんですか?」しか聞きません。
その上で視力や年齢は関係なく、その人がやりたいことをやれる方法を一緒に考えることを大切にしています。
私自身も途中から目が見えなくなったので分かるのですが、視力が徐々に下がってきて「将来的にもっと見えにくくなる」と知った時、やはりショックで心が折れてしまう人は多いんです。
そういう人たちも元気になって、またいろいろな活動をしてもらえるように、寄り添って話を聞くことを大切にしています。
なるほど…。
すると、少しずつ一緒に未来の話をすることが増え、元気に活動できるように変わっていくんですね。
そういったきっかけをビジョンパークでつかんでいただこうと、気を付けながら伝えています。
ロービジョンについての認知拡大や理解のために、社会にのぞむことはありますか?
まずは目が不自由な人もそうでない人も、お互いに自分のことをもっと理解する必要があると思っています。目が見えるからこそ見えない部分、目が見えないからこそ見える部分があり、そこに優劣はありません。
一番大切なことは『分ける』のではなく『混ざる』ことです。
『分ける』ではなく『混ざる』ための仕組みをいかに作るかが、大事なポイントになりそうですね!
はい。ビジョンパークのように、目が見える人と見えにくい人が一緒に過ごすことで、「見えにくい人にはこういう工夫が必要なんだ!」と気付くなど、双方の学びを重ねることが大切かなと思います。
和田さんはどうでしょうか?
私が外に出て1人で杖をついて歩いてる時に「困ってるだろう」と思って、助けてくださる人がいます。
大変ありがたいのですが、例えば杖を引っ張る、背中を押す、急に身体を触るなど…こちらとしては望まない方法であることもあります。
確かに急に触れられたらびっくりしてしまいますよね…。
でもそれは「どうしたらいいのかが分からないこと」が原因で、お互いが一緒に生活をしたり、体験したりすることによって発見していくものです。
差別や偏見という感情はなくても、今はまだ溝があります。それをなくして、お互いが当たり前に混じり合っていけるといいのかなと思いますね。
目が不自由な人もそうでない人も、より自分らしく生きられる世の中にするためには、まずは『知ること』が大切です。
その上で、お互いが意識することなく、当たり前のように助け合える世の中こそ、理想的な未来といえそうですね。
誰もがなり得るロービジョン。知らなかった人も、この機会に意識してみてはいかがでしょうか。
ロービジョンについて詳しく知りたい!
[文・構成/grape編集部]