『あの日、インターネットに何が起きたのか』技術者が語る、3.11の出来事 提供:株式会社インターネットイニシアティブ By - grape編集部 公開:2018-03-09 更新:2018-06-18 地震東日本大震災災害災害対策震災 Share Post LINE はてな マグニチュード9.0という記録的地震に加え、高さ10メートル以上の津波も発生した、東日本大震災。 建造物のみならず、各種インフラが寸断し、東北地方に大きな被害をもたらしました。 コミュニケーション手段として、いまや欠かせない存在となったインターネットも、震災の被害を受けたインフラの1つ。その復興の裏には、知られざるストーリーがありました。 あの日、インターネットに何が起きたか 震災発生直後、インターネットはどのような状態になっていたのでしょうか。国内最大級のインターネットインフラを保有する電気通信事業者、インターネットイニシアティブ(IIJ)のネットワークインフラ技術者である、サービス基盤本部の小林努(こばやし・つとむ)さんと淺野善男(あさの・よしお)さんに話を伺いました。 ーー東日本大震災の後、インターネットの回線にも影響がありましたが、具体的にどのようなことが起きていたのでしょうか。 小林:国内の通信全体は機能していましたが、被災地である東北地方の通信ケーブルの一部が地中で切断され、一時的にネットワークの機能が低下した状態に陥っていました。IIJも同様の理由から、東北地方の施設は無事でしたが回線への影響が出ました。 ーーインターネット通信網の多くは、地中を通っていますよね。 淺野:普段スマートフォンを通じてインターネットを使う方が多いので、携帯電話の電波のように空中を飛んでいるイメージを持たれることもありますが、インターネット上のデータは、地中ケーブルや、海底ケーブルといった『有線』を通って遠方へ送られています。 IIJのようなISPと呼ばれる企業は、国内外にある拠点間を結ぶ『バックボーンネットワーク網』というものを持っているのですが、拠点に集約されたデータをその有線ケーブルを伝って次の拠点、次の拠点へとリレー式に高速で運んでいるのです。 ※ISP(Internet Service Provider):インターネットへの接続サービスを提供する事業者。 震災で実感した、ネットワーク網の課題 ーー震災を受け、バックボーンネットワーク網にどのような課題が見えてきましたか。 小林:まず、阪神淡路大震災のころから地震によるケーブル切断は想定されていましたが、東日本大震災ではより広範囲で切断され、影響範囲が拡大しました。 加えて、東北地方から以南への通信ルートも、以前から不測の事態に備え二重化はされていましたが、大手町もしくは渋谷と、いずれも東京エリアを通るルートになっていました。これは直下型の地震であっても、東京の西と東で同時に被害は起こりづらいという考えからでした。 そして同様の考えのもと、日本の各拠点間でネットワーク構成が組まれていました。 しかし、実際にこれまでの想定よりも広範囲な地震が起こったことで、さまざまな冗長化の構成を見直していくこととなりました。 ※冗長化:代替用の設備を用意しておき、災害などにより障害が起きた際に代替設備に切り変えてサービスを提供し続ける仕組み。 『3.11』を教訓に、いまなお進化を続ける ーー実際にバックボーンネットワーク構成をどのように見直していきましたか。 淺野:バックボーンネットワークの中枢機能をなるべく離れた地域で冗長化しました。東京・大阪および名古屋での分散化構成です。 加えて、各拠点間の通信ルートも日本海側ルート、内陸ルート、太平洋側ルートとなるべく離して冗長化することで、いずれかのネットワークにトラブルが起きた際も、他方のルートが無事である確率を高めました。その考え方を海外拠点へのルートにも適用して経由地を東京、大阪、名古屋で分散させており、更に海外へ出た後のルートも冗長化しています(下図参照)。 2018年3月現在のバックボーンマップ(クリックして拡大) 普段当たり前のように使っているインターネット。そんな『当たり前』が保たれている裏には、小林さんや淺野さんのような技術者たちの努力があるのですね。 『もし災害が起きたら』を考えること 東日本大震災を境に、インターネットは多くの進化を遂げてきました。しかし災害時にインターネットが使えたとしても、使い方を間違えれば様々な情報が錯綜してしまい、逆に混乱が起きてしまう恐れもあります。 では災害が起こった際に、インターネット上で私たち一人ひとりができることは何なのでしょうか。 災害の時だからこそ、適切な行動を IIJはそのような疑問に答えるべく、災害時のインターネットの使い方などを紹介する動画を公開。 動画では、誤った情報が拡散されることを防ぐための心構えを呼びかけています。 また、同時に公開された特設サイトでは、インターネット利用において、災害時にまずやるべきことをまとめています。もしもの時に備えて、動画で紹介されているポイントを改めて知っておきたいですね。 災害が起きても、普段通りの通信環境を届けたい インターネットは7年前と比べてさまざまな改善がなされているとはいえ、盤石というわけではないそうです。 小林:東日本大震災の時もそうでしたが、世の中に特別なことが起こっている時は、どうしてもネットへのアクセスが集中してしまいます。 そのような時はほかのインフラ同様キャパシティが有限なので、一時的に使いにくい状態になってしまい「ネットへの負荷が高い動画視聴や不要なSNS投稿を控えてください」と呼びかけざるを得なくなります。 しかし今後は、災害が起きても写真や動画など、どんな情報でも届けられる環境を作っていきたいと、小林さんはいいます。 小林:災害時こそ写真や動画を用いたあらゆる有益な情報で人々が安心できる環境を作りたいですし、必要とする情報を必要な人へ届けられるよう、私たちはこれからも頑張っていきたいと思います。 インターネットの構造を変えるのは、震災が起きたときだけに限りません。小林さんと淺野さんのような技術者は、通信されるデータの種類や量の増加など、あらゆる変化に応じてインターネットの構造を変え続けてきました。 「今後も、我々の手でインターネットを頑丈な社会インフラにしていきたい」と意気込む小林さんと淺野さん。どこでも、どんな時でも安心して使えるインターネット環境を提供するために、彼らの挑戦には終わりがないのかもしれません。 Internet behavior. – 災害時におけるインターネットの使い方 – [文・構成/grape編集部] Share Post LINE はてな
マグニチュード9.0という記録的地震に加え、高さ10メートル以上の津波も発生した、東日本大震災。
建造物のみならず、各種インフラが寸断し、東北地方に大きな被害をもたらしました。
コミュニケーション手段として、いまや欠かせない存在となったインターネットも、震災の被害を受けたインフラの1つ。その復興の裏には、知られざるストーリーがありました。
あの日、インターネットに何が起きたか
震災発生直後、インターネットはどのような状態になっていたのでしょうか。国内最大級のインターネットインフラを保有する電気通信事業者、インターネットイニシアティブ(IIJ)のネットワークインフラ技術者である、サービス基盤本部の小林努(こばやし・つとむ)さんと淺野善男(あさの・よしお)さんに話を伺いました。
ーー東日本大震災の後、インターネットの回線にも影響がありましたが、具体的にどのようなことが起きていたのでしょうか。
小林:国内の通信全体は機能していましたが、被災地である東北地方の通信ケーブルの一部が地中で切断され、一時的にネットワークの機能が低下した状態に陥っていました。IIJも同様の理由から、東北地方の施設は無事でしたが回線への影響が出ました。
ーーインターネット通信網の多くは、地中を通っていますよね。
淺野:普段スマートフォンを通じてインターネットを使う方が多いので、携帯電話の電波のように空中を飛んでいるイメージを持たれることもありますが、インターネット上のデータは、地中ケーブルや、海底ケーブルといった『有線』を通って遠方へ送られています。
IIJのようなISPと呼ばれる企業は、国内外にある拠点間を結ぶ『バックボーンネットワーク網』というものを持っているのですが、拠点に集約されたデータをその有線ケーブルを伝って次の拠点、次の拠点へとリレー式に高速で運んでいるのです。
※ISP(Internet Service Provider):インターネットへの接続サービスを提供する事業者。
震災で実感した、ネットワーク網の課題
ーー震災を受け、バックボーンネットワーク網にどのような課題が見えてきましたか。
小林:まず、阪神淡路大震災のころから地震によるケーブル切断は想定されていましたが、東日本大震災ではより広範囲で切断され、影響範囲が拡大しました。
加えて、東北地方から以南への通信ルートも、以前から不測の事態に備え二重化はされていましたが、大手町もしくは渋谷と、いずれも東京エリアを通るルートになっていました。これは直下型の地震であっても、東京の西と東で同時に被害は起こりづらいという考えからでした。
そして同様の考えのもと、日本の各拠点間でネットワーク構成が組まれていました。 しかし、実際にこれまでの想定よりも広範囲な地震が起こったことで、さまざまな冗長化の構成を見直していくこととなりました。
※冗長化:代替用の設備を用意しておき、災害などにより障害が起きた際に代替設備に切り変えてサービスを提供し続ける仕組み。
『3.11』を教訓に、いまなお進化を続ける
ーー実際にバックボーンネットワーク構成をどのように見直していきましたか。
淺野:バックボーンネットワークの中枢機能をなるべく離れた地域で冗長化しました。東京・大阪および名古屋での分散化構成です。
加えて、各拠点間の通信ルートも日本海側ルート、内陸ルート、太平洋側ルートとなるべく離して冗長化することで、いずれかのネットワークにトラブルが起きた際も、他方のルートが無事である確率を高めました。その考え方を海外拠点へのルートにも適用して経由地を東京、大阪、名古屋で分散させており、更に海外へ出た後のルートも冗長化しています(下図参照)。
2018年3月現在のバックボーンマップ(クリックして拡大)
普段当たり前のように使っているインターネット。そんな『当たり前』が保たれている裏には、小林さんや淺野さんのような技術者たちの努力があるのですね。
『もし災害が起きたら』を考えること
東日本大震災を境に、インターネットは多くの進化を遂げてきました。しかし災害時にインターネットが使えたとしても、使い方を間違えれば様々な情報が錯綜してしまい、逆に混乱が起きてしまう恐れもあります。
では災害が起こった際に、インターネット上で私たち一人ひとりができることは何なのでしょうか。
災害の時だからこそ、適切な行動を
IIJはそのような疑問に答えるべく、災害時のインターネットの使い方などを紹介する動画を公開。
動画では、誤った情報が拡散されることを防ぐための心構えを呼びかけています。
また、同時に公開された特設サイトでは、インターネット利用において、災害時にまずやるべきことをまとめています。もしもの時に備えて、動画で紹介されているポイントを改めて知っておきたいですね。
災害が起きても、普段通りの通信環境を届けたい
インターネットは7年前と比べてさまざまな改善がなされているとはいえ、盤石というわけではないそうです。
小林:東日本大震災の時もそうでしたが、世の中に特別なことが起こっている時は、どうしてもネットへのアクセスが集中してしまいます。
そのような時はほかのインフラ同様キャパシティが有限なので、一時的に使いにくい状態になってしまい「ネットへの負荷が高い動画視聴や不要なSNS投稿を控えてください」と呼びかけざるを得なくなります。
しかし今後は、災害が起きても写真や動画など、どんな情報でも届けられる環境を作っていきたいと、小林さんはいいます。
小林:災害時こそ写真や動画を用いたあらゆる有益な情報で人々が安心できる環境を作りたいですし、必要とする情報を必要な人へ届けられるよう、私たちはこれからも頑張っていきたいと思います。
インターネットの構造を変えるのは、震災が起きたときだけに限りません。小林さんと淺野さんのような技術者は、通信されるデータの種類や量の増加など、あらゆる変化に応じてインターネットの構造を変え続けてきました。
「今後も、我々の手でインターネットを頑丈な社会インフラにしていきたい」と意気込む小林さんと淺野さん。どこでも、どんな時でも安心して使えるインターネット環境を提供するために、彼らの挑戦には終わりがないのかもしれません。
Internet behavior. – 災害時におけるインターネットの使い方 –
[文・構成/grape編集部]