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書き始めて50年以上! 版画家 岩田健三郎さんが毎日綴る『ヘラヘラつうしん』

By - grape編集部  公開:  更新:

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『天空の城・竹田城跡』の最寄駅がある路線として知られ、鉄道マニアにも人気のJR播但線。その甘地駅の駅前公園に木版画の作品が展示されています。

描かれているのは「播但線の父」として知られる内藤利八氏と、J R播但線全18駅の風景。

木版画独特の太い線で描かれたほのぼのとした作風の版画が、訪れる人々を楽しませてくれます。

※甘地駅前公園

さらに2021年6月には、内藤利八没後100年事業として、この版画が図案に使われた記念切手が兵庫県の市川町から発売されています。

※内藤利八没後100年記念切手

この版画の作者は、兵庫県姫路市を拠点に活動している版画家・岩田健三郎さんです。

岩田さんは生まれも育ちも姫路市。版画家として活動する一方で、兵庫県の広報番組のテレビレポーターを務めたり、播磨の食に携わる人たちと地産地消の活動に取り組んだりと、地元に根ざした活動をしています。

昭和22年生まれの岩田さんは、小さな頃から絵を描くのが大好き。幼少期から、ご近所に住んでいた洋画家の尾田龍氏に師事しました。

そして高校卒業後は、大阪市立美術館 美術研究所に入学。そこで美術を学んでいくうちにイラストレーションを手がけるようになり、版画と出会ったのです。

上手にならない努力?

新聞コラムのイラストの仕事をしていた岩田さんは、印刷の締め切りに間に合わせるために版画を取り入れたのだそうです。

なぜか分かりますか。

岩田さん:
絵はいつまでも描き込めるけれど、版画はずっと彫っていると最後には何もなくなって真っ白になってしまう(笑)。

だから、版画を彫るのには加減がある。どれくらいの時間で彫り終わるかが大体分かるんですよ。

そして版画には、絵にはない面白さがあるといいます。

岩田さん:
一点だけの絵と違って、版画は何枚も摺(す)れる。そしてそれを人に届けていけるのが面白いんです。

また、「どこをどれだけ彫ってどこで止めるか。その加減で仕上がりは全く違うものになる。そこがすごく面白い。だから今まで続けてこられたんだと思います」と語ってくれました。

さらに「下絵を上手に彫るだけではダメ。勢いとパワーが必要で、下手がいい」のだとか。師事していた尾田先生も「上手になるなよ。テクニックを見せる絵はつまらないから」と、いつもいっていたそうです。

「子どもの素直な絵が一番素晴らしいんですよ」と岩田さん。どうしても、いつの間にかうまくなってしまうため、70代になってもなお、先生の教え通り上手にならない努力をしているのです。

「頑張る」と「忙しい」は嫌い!

岩田さん:
「頑張る」のは嫌いです。頑張らないといけない時代に生まれたからこそ、あえて『頑張らない』んです。

だから「自分が頑張ってるなと気付いたらやめたくなる」と岩田さん。

「『頑張る』じゃなく『楽しむ』。忙しくない生き方をしたほうが楽しいと思うんです」と語ってくれました。

岩田さん:
だって「忙しい」という字は「心を亡くす」と書くんですよ。

なるほど。

とかく、忙しくしていることや頑張ることに価値を見出しがちな世の中ですが、岩田さんのように「頑張らないで楽しむこと」を大切にしてみると、今までとは違う世界が見えてくるのかもしれませんね。

毎日更新!『ヘラヘラつうしん』

頑張ることが嫌いな岩田さんが、楽しみながら50年以上ずっと続けていることがあります。

それが『ヘラヘラつうしん』です。

『ヘラヘラつうしん』は、現在ウェブサイト上でブログとして毎日投稿しているものなのですが、最初に作ったのは美術研究所に通う20歳の頃。

岩田さん:
歩いていると近所の人に『今何してるんや』とか『これからどこ行くんや』と聞かれて。適当に答えておけばいいのに、いちいち説明してたんですよ。

それが何回も続くとだんだん面倒になって(笑)。

そこで、話す代わりにガリ版印刷したものを配ったのが『ヘラヘラつうしん』というわけ。

だから、内容は岩田さん自身が出会った人や出来事が中心。絵や版画はもちろん文章も手書きで、これはウェブサイト上のブログになっても変わりません。

4人目のお孫さんを初めて抱っこした時のことや、新型コロナのワクチンを接種したことなど、身近な話題がほのぼのとした絵ともに岩田さんならではの視点で綴られている『ヘラヘラつうしん』。

味のある手描き文字で綴られた飾らない文章、素朴な絵や版画には「見る人に楽しんでもらいたい」という岩田さんの思いが込められています。

コロナ禍で気づいた大切なこと

新型コロナウィルス感染症が流行し始めてからは、人と会うことが制限され、姫路市内で開講している岩田さんの版画教室も中断を余儀なくされました。

そんなコロナ禍でのやり取りはもっぱらハガキ。「特に知らせることもなく意味のないハガキのやりとりが楽しい」と、『ヘラヘラつうしん』の中でも読者や友人とのハガキのやりとりが紹介されています。

そして「ハガキだからこそいえるようになった言葉がある」と岩田さんは教えてくれました。それは「会いたいな」という言葉。

「面と向かってはいえなかったこの言葉がハガキなら書ける。そしてその言葉を書くことで、用もなくいつでも会えることの貴重さ、大切さに気づかされました」と話してくれました。

「今」を綴る『ヘラヘラつうしん』

「『ヘラヘラ』は縦に書くと『今今』って読める。だからぴったりの名前だね」といわれたことがあるという岩田さん。その名の通り、岩田さんが「今」面白いと思うことを詰め込んで、これからもまだまだ続きます。

ぜひ一度覗いてみてください。岩田さんのあたたかな絵や版画、文章に触れることで、毎日を楽しく過ごすための「大切な何か」に気付けるかもしれません。


[文/ハラアキコ・構成/grape編集部]

出典
ヘラヘラつうしん

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