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漫画『全部救ってやる』作者にインタビュー 「伝えないといけない現状がたくさんある」

By - grape編集部  公開:  更新:

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――これまで、取材のために実際に保護活動現場を体験したり、多くの保護活動者や動物愛護団体などから話を聞いたりしてきたと思います。「保護活動をする側になりたい」と気持ちが揺らいだことは、なかったのでしょうか。

久我のように活動するのはちょっと難しいですね。僕はすごく心配性なので、メンタルが持たないと思います。だからこそなのかもしれないのですが、主人公である星野は『保護活動をできない人』として描いているんです。

久我の保護活動を手伝ってはいるけれど、具体的な行動には移さないじゃないですか。例えば、譲渡可能な犬や猫がいたとしても、一時的に預かることもしていなくて。星野も僕みたいに、保護活動ができるメンタルを持ち合わせてはいないんだと思います。

そもそも、ほとんどの保護活動者がやっていることって、普通の人から見れば『特殊』なんですよね。自宅で20~30頭の保護犬の世話をしている久我が、分かりやすい象徴だと思うんですけど。

常喜寝太郎さんの写真

2匹の愛猫と暮らす常喜寝太郎さん

――『保護活動はできない』側の視点であるからこそ、より大きなリスペクトを持って保護活動者を描くことができると思います。保護活動を行う登場人物たちを描く上で、意識していることはありますか。

「保護活動をしない人はだめだ」みたいなことをいう人も中にはいると思うのですが「いや、難しいでしょ」と思います。だからこそ「保護活動者がかっこいい」っていう描き方をしてしまうと、危険な気がしているんです。

逆に「保護活動をできないことがダサい」としてしまうと、ほとんどの人を否定することになるので、あくまで保護活動者が特殊であることが伝わる描き方を心がけています。

とはいえ保護活動はできなくても、できない人なりにやれることはあると思っていて。例えば、犬や猫のことを尊い存在だと認識し、1つの『命』であると再確認するとか、そういった意識の改革ですらも大きな変化だと思っています。

――第2話で、車の運転中に風によってゴミ袋が外に放り出されるシーンがありましたよね。そのゴミ袋を、「気を付けないと、愛犬が道に落ちたビニールを食べようとする」という飼い主の言葉を思い出した星野が、とっさに川まで拾いに行くシーンを見て、かっこいいなと思いました。あそこまでできる人は中々いないだろうな、と。

漫画『全部救ってやる』の画像

Ⓒ常喜寝太郎/小学館

漫画『全部救ってやる』の画像

Ⓒ常喜寝太郎/小学館

中々できないですよね。あの行動が実際にできたらかっこいいし、「自分にはできていないな」とは思う一方で「あれだけでいいんだよな」とも思うんです。ほかの例でいえば、食べ物を残さずに食べることも保護活動だと僕は思いたいですね。

本当に小さなことではあるんですけど、ゴミをポイ捨てしないのもそうですし、動物愛護団体に1円だけ募金するのも保護活動です。

漫画の序盤に、意図的に小さな保護活動を複数描いています。星野が実際に寄付をするわけではなく、ただ募金活動者を調べるシーンについては「それだけでも保護活動なんだよ」っていう想いも込めて描きました。

――『誰かのために生きる』という同作のテーマについても聞かせてください。なぜこのようなテーマで、保護活動について描こうと思ったのでしょうか。

みんな自分のことで精一杯なはずなのに『誰かのために生きる』のは、すごく難しいことだと思うんですよね。

最初から『誰かのために生きること』に価値観を置いていたり、無理やりその価値観を強制していたりしないと「誰かのために動こう、生きよう」とはならないと思っていて。どこか損をしている気がするし「自分のために生きたほうが得なのでは」とも思うんです。

ただ『自分のために無我夢中に生きてきたことで有名人になって、有名なことを理由に周りに人が集まっている状態』と『誰かのために動き続けたことで、本当に困った時に「私も助けてもらったから」と駆けつけてくれる人たちがいる状態』を想像してみたんです。双方を比較して、どちらのほうが孤独でないかと考えると、僕は後者だなと。

『誰かのために生きること』にはすごい可能性があると感じたので、このテーマにしました。

――『誰かのために生きる』こと、すなわち保護活動は『承認欲求を満たすこと』と表裏一体なのではという問いかけも、同作を語る上で重要だと思っています。保護活動の危うさは、どのようなところにあると考えていますか。

誰かのために何かをした時に「ありがとう」といわれてしまったら、その行動の目的が気付かぬうちに『感謝の言葉が欲しいから』に変わってしまう可能性があるんですよね。それはつまり「自分の承認欲求を満たすためだよね」と。

保護活動は、同様のトラップがすごく多い活動だと思っています。例えば、犬を助けたら周囲から「ありがとう」という言葉が集まると思うんですが、それがむしろノイズになってしまう気がしていて。

「『ありがとう』をいわれたいから、もっと犬を助けよう」という気持ちが少しでも芽生えてしまった時点で、「犬を助けたい」という当初の想いよりも、承認欲求が勝ってしまっているんですよね。

承認欲求を満たすためにどんどん犬を助けてしまうがために、自らがパンクしてしまうこともあり得るんです。そういう沼が保護活動にはあるし、実際にそういうふうになっている活動者さんもいます。

漫画『全部救ってやる』の画像

Ⓒ常喜寝太郎/小学館

漫画『全部救ってやる』の画像

Ⓒ常喜寝太郎/小学館

――同作の連載開始以降、読者から届いた声の中で特に嬉しかったものがあれば教えてください。

一番嬉しいのは「保護活動について知ることができてよかった」という声です。ほかには「同作を小学校に置いてほしい」といった意見も嬉しかったですね。

具体的に「これを読んで保護活動者になりました!」みたいな変化は読者に求めていなくて。そうではなく、単純にこの作品を通じて「いろいろ知ることができた」「勉強になった」など、そういった声がありがたいと思っています。

――同作の連載を通じて実現したい、最終的な目標はありますか。

まずは、動物が好きな人以外にもこの作品を読んでもらうのが目標です。

最終目標としては、「保護活動者が抱えている犬の譲渡数が圧倒的に増えた」「むやみやたらにペットショップの悪口をいう人が減った」「処分される動物の数が減った」など、具体的なものもいくつかあります。少し大げさですけど、『世の中の当たり前』がそういうふうに少しずつ変わってほしいなと思います。

動物愛護の世界に足を踏み入れるのは、なかなか勇気がいることです。

とはいえ、少しでも興味を持ったのなら、まずは知ろうとしないことには何も始まりません。

その第一歩として、漫画のページを開いてみるのは、そう難しいことではないでしょう。

常喜寝太郎さんの写真

常喜寝太郎さん

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[文・構成/grape編集部]

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