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漫画『全部救ってやる』作者にインタビュー 「伝えないといけない現状がたくさんある」

By - grape編集部  公開:  更新:

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常喜寝太郎さんの写真

飼い主と幸せに暮らすペットが数多くいる一方で、里親に恵まれず、行き場を失った動物も山程います。

保護動物保護活動について漠然と理解しているつもりでも、実際にはほんの一部しか知らない人は多いでしょう。

株式会社小学館の漫画アプリ『マンガワン』で連載中の『全部救ってやる』は、東京でスタイリストを目指す主人公・星野スズと動物保護活動家の久我を軸に、保護活動の実態を丁寧に描いた作品。

動物愛護団体による募金活動のほか、多頭飼育崩壊や『闇バイト』を想起させるペットビジネスの闇など、テレビ番組などではなかなか知り得ない『陰』の部分も描かれています。

漫画『全部救ってやる』の画像

Ⓒ常喜寝太郎/小学館

grapeは、作者の常喜寝太郎(つねき・ねたろう)先生にインタビューを実施。

動物の保護活動を題材にしようと思った理由や、「個人が保護活動とどう向き合うべきか」などについてうかがいました。

常喜寝太郎さんの写真

作者の常喜寝太郎さん

動物の保護活動の実態を描く『全部救ってやる』常喜寝太郎インタビュー

――まず、動物の保護活動を漫画にしようと思ったきっかけを教えてください。

16歳の頃、当時通っていた画塾の先生が保護活動をやっていて、その先生からのお願いで保護猫を迎え入れることになったんですけど、ある時「保健所に行ってみない?」と声をかけてもらったんです。

でも当時は『処分』のイメージが強く、正直見るのが怖くて断っていました。動物が好きな割には、そういった現場からはずっと目を背けてきたので「これでいいのかな」と思っていたんですよね。

そこで、僕自身が強い関心を持っていたのはもちろん、同じような考えの人が多くいることもあり「伝えないといけない現状がたくさんある」と感じて、題材にしてみようと思ったのがきっかけです。

漫画『全部救ってやる』の画像

Ⓒ常喜寝太郎/小学館

――2025年1月時点で発売されている最新第2巻までは、作中に登場する動物のほとんどが犬ですよね。また、次点で猫もちらほらと登場しているイメージですが、何か理由はあるのでしょうか。

理由としては2つあります。1つ目は、久我のモデルになった保護活動者の焼田蓉子(やきた・ようこ)さんが、犬メインのボランティアだからです。焼田さんと話していると、飛び出すエピソードのほとんどが犬なんですよね。

もう1つは、圧倒的に犬や猫と暮らしている飼い主が多いからです。

現時点では第2巻までしか発売されていませんが、全10巻ある作品だとしたら、まだ冒頭じゃないですか。序盤は、身近な動物をテーマにしたほうが読者にとってもやさしいと思っていて、意図的に犬や猫を多く登場させています。

――第1話で、夜道で車を運転する星野が急ブレーキをかけて、1匹のカエルをひいてしまうのを免れるコマに衝撃を受けました。あのシーンは、何をヒントにして生まれたのでしょうか。

漫画『全部救ってやる』の画像

Ⓒ常喜寝太郎/小学館

漫画『全部救ってやる』の画像

Ⓒ常喜寝太郎/小学館

僕が高校生だった頃、画塾の先生と一緒に車に乗って田んぼ道を走っていた時の実話をもとにしているんですよね。運転中の先生がいきなりブレーキを踏んで「カエルがいるやん、どけてきて」っていったんです。雨が降っているのに(笑)。

1匹どころではない大量のカエルたちを、1時間くらいかけてどかし続けながら車で移動した当時があまりにも印象的だったので、あのシーンが生まれました。

――同じく第1話で、保護活動現場にいる久我が、誤って潰しかけた虫を優しく拾い上げているシーンも印象的でした。このコマを描いた意図はありますか。

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Ⓒ常喜寝太郎/小学館

虫も、犬や猫と同じように生きているし「悪い奴ではないんだよな」と思うんですよね。描いた理由は、シンプルにそれだけです。

昔、虫について少し調べたことがあって。人間がなぜ虫を嫌うかというと、単純に「何をしてくるか分からないから」なんですよね。

例えば、セミを気持ち悪がる人は多いじゃないですか。セミが飛ぶ時にする『おしっこ』が身体にかかったらすごく嫌な気持ちになると思うんですけど、実は、ほとんどがエサとして体内に取り入れた樹液らしいんです。そう考えたら、少しは気持ち悪さが和らぎませんか。

だから本当に『知らないだけ』なんです。人間が勝手に気持ち悪いと認識してしまっているだけな気もするので、「虫ももちろんいじめたくないな」と思っています。

――今おっしゃっていた『知らないだけ』というワードは、保護活動の世界においても通じるものがありそうですね。街中で動物愛護団体が募金活動をおこなっているのをよく見かけますが「よく知らないから」という理由で、寄付に踏み切れない人も多いと思います。そうした人たちに向けて、何かアドバイスはありますか。

こうした漫画を描いていると「どの団体に募金したらいいの?」とよく聞かれるんですよ。もちろん、知り合いの募金活動者であれば紹介できるんですけど、知らない団体について「あそこはどう?」と聞かれても、答えようがないんです。

実際に募金活動者本人と会ってみたり、その活動者のSNSを見たりして「応援できるな」と思ったら寄付に踏み切ればいいと思っています。

街中で募金活動者を見かけた際に「どうせ詐欺でしょ」と平気でいう人がいるじゃないですか。「なんで決めつけるんだろう、調べてもいないのに」と僕は思うんですよね。つまり『保護活動者待ち』といった受け身の姿勢ではなく、まずは自分で調べてみることが大切だと思います。

漫画『全部救ってやる』の画像

Ⓒ常喜寝太郎/小学館

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Ⓒ常喜寝太郎/小学館

――同作は、保護活動の実態を知ることができるのはもちろん、各登場人物のキャラが立っているのも見どころですよね。キャラクターを作る上で、心がけていることはありますか。

個人的に『勧善懲悪もの』はあまり好きではないので、『明らかな悪者』を描かないようにしています。「その人にはその人の目線があるよな」と思っているからです。

是枝裕和(これえだ・ひろかず)監督の映画『怪物』を観た時にも、同じようなことを感じました。この漫画を描く上で、どこかであの作品は意識していますね。

――それでいうと、第3話で初登場する、悪質なペットビジネスの世界で暗躍する鈴木は『明らかな悪者』であるように感じられるのですが、見る角度を変えれば善人になり得るのでしょうか。

漫画『全部救ってやる』の画像

Ⓒ常喜寝太郎/小学館

確かに、鈴木は悪質なペットビジネスに加担しているので『唯一の凶悪』的な感じが漂っていますよね。ただ、彼には彼なりの人間性がしっかり宿っていて、『ただ動物を虐待するだけの薄っぺらい人間』ではなく、鈴木なりの信念があります。

彼は、自らが「楽しい」と思うことを何よりも優先してしまうキャラクターです。だからこそ「何が楽しくて、こういうふうにやっているのか」といった理由があるんですよね。

鈴木は今、何かの目的のために悪質なペットビジネスに加担してお金を貯めているじゃないですか。もし万が一、貯まったお金を震災発生時などに全額募金したら、彼に対する見方が大きく変わると思っています。

「動物と人間の命、どっちが大切か」みたいな問いかけがあった時に、鈴木が強く主張するかもしれませんし、面白いキャラクターだと思っています。

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