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【『ラストマン』感想8話】福山雅治と大泉洋、積み重ねた信頼の再確認

By - かな  公開:  更新:

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Twitterを中心に注目ドラマの感想を独自の視点でつづり人気を博している、かな(@kanadorama)さん。

2023年4月スタートのテレビドラマ『ラストマン』(TBS系)の見どころを連載していきます。

かなさんがこれまでに書いたコラムは、こちらから読めます。

ある程度生きていれば、誰しも触れてほしくない傷、ずっと隠しておきたいことの一つや二つある。

誰かへの不義理だったり、忘れられない恨みだったり、それは加害かもしれない、被害かもしれない。

隠しておきたいことを誰かが無理に暴こうとするとき、咄嗟に逃げるか、激しく怒るか。

さらに、もしそれが簡単に縁の切れない信頼している誰かなら。

アメリカから交換研修制度を利用して日本にやってきたのは、全盲のFBI捜査官・皆実広見(福山雅治)だった。

皆実はアテンド担当の護道心太朗(大泉洋)を相棒に、盲目ながら高い能力で捜査一課の難事件をいくつも解決していく。

当初は渋りながら皆実に同行していた心太朗との間にも、バディとして阿吽の呼吸が生まれつつある矢先、心太朗は皆実の来日の経緯と自分をアテンドに指名した理由を知ってしまう。

それは、心太朗の実の父親・鎌田國士(津田健次郎)が起こした41年前の強盗放火殺人と深くかかわっていた。

犯罪者の息子という過去を頑なに思い出したくない心太朗は皆実に失望し、バディの仲は断絶してしまう。

そんな中、皆実と吾妻(今田美桜)はバスジャックの現場に居合わせることになり、皆実は犯人・清水拓海(京本大我)の銃で肩を撃ち抜かれて重傷を負う。

バディはバラバラ、皆実は重傷、犯行現場のバスに乗り合わせたことすら知らせるすべがない。八方塞がりの中、バスジャック犯の奇妙な要求が明かされる。

やはり今回は、互いに離れ、意思疎通の手段が限られた状態であっても、それぞれを信じて相手のために成すべきことを果たすバディのありように胸が熱くなった。

血まみれのハンカチに書かれたシンディーという皆実だけが呼ぶ名、銃弾の数を伝えられれば必ず制圧してくれると信じる心太朗の奔走。

共に、ある理由にすれ違いがあったとしても、互いの能力と犯罪に立ち向かう真摯さへの信頼は、既に揺るがないだけの積み重ねが二人にはあった。

今回、ゲストとしてバスジャックの犯人を演じたのはアイドルグループ『SixTONES』の京本大我。

名もない群衆から無責任に投げつけられた悪意で、仕事も家族も失った青年の絶望と狂気を哀しく演じきった。

今作、ラストマンは3話の俳優殺人では不倫のイメージダウンより正当防衛の殺人を選ぶ展開、5話のインフルエンサー殺人事件では『SNSで力を得るために同業者を排除する』等、SNSや世論の評価と、刑事事件としての重大さのズレやねじれを問うエピソードが多く扱われている。

今回は、同姓同名というだけでネットのデマで生活全てを破壊された青年の復讐劇である。

しかしいざ真実の箱を開けてみたとき、特定の犯人は存在せず、ネットで無責任に石つぶてを投げた人々はどこまでも他人事で、何ともいえない空しい解決になった。

これらはSNSと人の権利の関わりが整備されようとしている過渡期としての『いま』を捉えたストーリーの数々だと思うと興味深い。

逮捕の瞬間、手錠をかけたのは永瀬廉演じる護道泉。犯人として手錠をかけられたのは京本大我。

二人ともアイドルとしての存在感と、有望な若手俳優としての顔を持つ。

『正しさや善』を体現する刑事が、『虚実の狭間で大衆の無責任な言葉に晒され傷つく存在』として犯人を捕らえるそのシーンは、ともにアイドルとしての側面を持つだけに、鋭く胸をつかれる瞬間だった。

バスジャックの解決後、帰国する予定を目前に、皆実は再び心太朗に41年前の事件を共に追ってほしいと説得する。

皆実の元妻・デボラ(木村多江)の話から、皆実が心太朗を求めたのは利用したいからではなく、同じ過酷な事件のサバイバー、同志として求めたのだと知った心太朗は過去に向きあう決意を固める。

「結果、知らなければよかった現実を突きつけられるだけかもしれませんよ。皆実さんにとっても」

噛みしめるように確かめる心太朗の言葉に思う。

父が心底憎くて過去を封じたのではない、もしも父が悪人ではないと微かな希望を手にしたとして、その希望がもう一度砕かれるのが怖かったのかもしれないと。

だが、どんな事実にも私たちは揺らがないという皆実の言葉が力強く響いた。

それは、誰かが隠しているものだ。誰かが隠したいことは、返せば他の当事者にとって暴く価値のあるものだということだ。深く隠されているなら深いほどに。

二人が開く重い扉の向こうには何が待っているだろうか。


[文・構成/grape編集部]

かな

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