「日本はアートに対する感度が低い」 最前線のアーティストが語る日本の現在
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2018年8月18日と19日に、音楽イベント『SUMMER SONIC』(以下、サマーソニック)が開催されます。
サマーソニックは、ほかの国内の音楽イベントと比べると規模も大きく、毎年、国内外で活躍する豪華アーティストが出演することで有名。
今年も、元OASISのノエル・ギャラガーや、BECKなど、そうそうたるアーティストが出演予定です。
しかし、2018年のサマーソニックはライブ以外にも、ぜひ注目してほしいものがあります。
それは、日本を代表するグラフィックアーティストたちのライヴペイティングを見ることができる、『SONICART』(以下、ソニッカート)です。
サマーソニック開催を目前に控え、ソニッカート代表の沼野高明さんと、アドバイザーを務める水野健一郎さんに、ソニッカートの見どころや裏話を聞きました。
プロのライブペインティングを楽しめるソニッカート
ソニッカートが始まったのは、2005年から。
サマーソニックを主催する株式会社クリエイティブマンプロダクションの清水直樹社長の「アートを取り入れたい」という思いから始まりました。
当時、サマーソニック以外の音楽イベントでも、ライブペインティングはあったものの、プロのアーティストによるものはなかったといいます。
沼野さん:
ソニッカートが始まる前から、ほかの音楽イベントでもライブペインティングはありました。しかし、それはイベントに出店している飲食関係者が空きスペースで行うようなものでした。
サマーソニックでは、ちゃんとプロの人が描いているところから見てもらえるようにしようというのが、ソニッカートのスタートです。
その後、ライブペインティングだけでなく、来場者へのボディペインティングやオブジェの展示、フォトスポットにできる作品展示など、内容は開催回数を重ねるごとに進化しています。
しかし、やはりソニッカートのメインはアーティストのライブペインティング。
2018年のサマーソニックでは、ポスターで使用しているキャラクターを描いた早川モトヒロさんが、来場記念になるフォトブースをペイントしていくなど、新しい取り組みも行われます。
なお、出演しているアーティストは、3年で交代する仕組みになっており、アーティストの人選に携わっているのが水野さんです。
水野さん自身、グラフィックやアニメーションをはじめ、多様な手法で作品を制作するアーティストであり、2012年からソニッカートのアドバイザーに就任。
もともとはアーティストとして出演していたものの、水野さんは「僕は野外フェスなどで描くようなタイプではない」と語ります。
しかし、ライブペインティング自体は「意味のあること」と感じているのだそうです。
水野さん:
ライブペインティングとして人前で描いているところを見せるのは面白いと思います。
それに、僕自身も好きな作家さんやアーティストさんが描いているところを見たいですし、意味のあることだと感じています。
――出演アーティストを選ぶ際の基準は。
水野さん:
フェスとかで描きたがる人は、方向性が結構決まってきてしまうんです。当然といえば当然ですが、絵よりも自己主張のほうが大きくなってしまう傾向があります。
沼野さん:
ストリートアート風がイベントの雰囲気には合いやすいですが、そうなるとそれぞれのアーティストの作風に違いがなくなるんですよ。そうはならないようにしています。
ライブの醍醐味
2018年で13年目を迎えるソニッカート。
アーティストとしても参加している水野さんと、ソニッカートを取り仕切る沼野さんにとって、印象的な開催年はあったのでしょうか。
――印象に残っていることは。
水野さん:
やはり1年目の雰囲気は強く心に残っています。
最初はコンコースではなく、幕張メッセの中だったんです。休憩所になっている広くて暗い場所で、絵には照明が当たっているんですが、観客の顔は暗くて分からない状況でした。
でも、人がたくさんいるのは感じるんです。見られているという意識と、キャンバス(ボード)から手に伝わるカオスな音の振動にゾクゾクしました。
一方、この質問に対して言葉をにごしたのは沼野さん。
出演アーティストの中には短時間で描き終える人や、まったく描かない人もいたそうで、ソニッカートを通しさまざまなアーティストとの出会いがあったといいます。
沼野さん:
とはいえ、それも含めてライブペインティングだと僕は思います。
そう語る沼野さん。予想外のことが起こることも、ライブペインティングの魅力の1つです。
あらかじめ完成した作品を展示したほうが、イベントの進行はスムーズになるかもしれません。しかし、あえてライブペインティングで『過程』を見せることにも意義があるといいます。
――描く過程を見せることの意味は。
水野さん:
2日間で完成度の高い作品となると、それはなかなか難しいです。サイズも大きいですし。
だから、出来上がったものを見せるというよりも、過程を見せたほうが絶対面白いかなとは思いますね。
――観客視点でのアイディアなのか。
水野さん:
それは選んだ作家さんにまかせています。僕は、過程を見せることを意識して、描いたものを何度も消したりとかします。
完成間近だと思っていた人が、次に作品を見た時には違う絵になっていたとか…そういうのを意識して、変化するように描いています。
だけど、しっかり下書きをして黙々と絵の具を塗っていく人もいますね。僕も1年目はそうでした。
沼野さん:
僕は素人感覚で見ているんですけど、美術で習う描きかたは基本の過程が決まっていますよね。その点、ソニッカートのアーティストはみなさんバラバラです。
「あ〜、こんな手法もあるんだな」とか、美術が好きな人から見るとライブのほうが驚きは多いですね。
また、沼野さんは印象に残っている水野さんの作品についてもこう振り返ります。
沼野さん:
表現方法に関していえば、初めて水野さんが出演した年は、マスキングを使った表現がすごかったです。線の表現とか。
水野さん:
その年は、僕の普段の描きかたを見せたいと思い、いつもと同じ方法で巨大な作品に挑みました。ただし、2日間で描き上げられるようにいくつか手順を省きましたが。
沼野さん:
線の表現1つにしても、水野さんのようにマスキングしてこだわってやる人もいれば、それをフリーハンドで機械のように描く人もいるんです。
アーティスト視点のソニッカートの魅力
過去の作品に関して「いつもの描きかたを見せたかった」と語る水野さんですが、一方で、『ソニッカートは、新しいことに挑戦できる場所』とも感じているとのこと。
水野さん:
ソニッカートは広いステージが描きやすいように整えられていて、体全体を使って描ける楽しみがあります。絵の具を思いっきりぶちまけられるというか。
だから、そういうことができる絵を描こうとしてしまう傾向はありますね。大胆なグラデーションとか。
――新しいことが生まれるきっかけがソニッカートという場なのか。
水野さん:
そうなるといいなと思っています。
だから、いつも描き慣れているものを描くよりは、描いていないものに挑戦してみたりとか、やってみて失敗したら消して(笑)。