【『最愛』感想 7話】忘れてしまう絶望と忘れ得る福音と・ネタバレあり
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Twitterを中心に注目ドラマの感想を独自の視点でつづり人気を博している、かな(@kanadorama)さん。
2021年秋スタートのテレビドラマ『最愛』(TBS系)の見どころを連載していきます。
かなさんがこれまでに書いたコラムは、こちらから読めます。
過去の『もしも』より、これからの幸せ。今ある問題に向き合った方が良いのだと、それはきっと多くの人が知っている。それでも、良いことも悪いことも私たちは過去の『もしも』の糸を手繰らずにはいられない。
辛い日の酒、気晴らしの喫煙、気力を得るためのコーヒー。量をきちんと考えれば、それは人生を円滑に楽しくするものだ。『もしも』を辿ることもまた、同様に人生の傷に貼る絆創膏のように必要なことかもしれない。
もちろん、それは量と使い方を間違えなければ。
考察や感想を毎回散々悩ませ、嬉しい右往左往を視聴者に味合わせてくれているドラマ『最愛』(TBS系 金曜22時 主演・吉高由里子)。
物語は後半に入っている。今週はリスタートのような回になった。初回からひたすら緊張の圧が高い辛い展開が続いていたので、今回の前半のように穏やかな展開が挟まるのは有難いと感じながら見ていた。
主人公・真田梨央(吉高由里子)の行方不明になっていた弟の優(高橋文哉)が殺人の容疑から一転不起訴になり、姉と弟は穏やかな暮らしを始めようとしている。
幼い頃の事故から記憶障害のある優は、症状を緩和するための治験を受けようと決意する。一方、捜査一課の刑事でありながら梨央と優の疑いを晴らすために奔走した宮崎大輝(松下洸平)は、それが原因で捜査一課から所轄の生活安全課に転属になる。
転属で互いに仕事への影響を気にせず会えるはずの梨央と大輝だが、会わないと決めたものを覆す気はないようで、二人の本当の気持ちを察している優は二人が会える機会を作ろうと苦心する。
この場面、いないと思っていた梨央がいると知って、大輝が肩をそびやかして帰ろうとするところも、「逃げないでほしい」と優に乞われて渋々振り向く仕草も、気持ちの揺れを表現する松下洸平の身体表現がいい。
横顔の角度で松下の表情はほとんど見えない。だが、肩の角度や首のもじっとした動きが、大輝の苛立ちと期待と高揚がごちゃ混ぜになった感情を饒舌に語るようだ。
演技とは身体の微調整であると実感できるシーンである。
そんな絶妙にじりじりしたときめきを抱えつつも、いざ梨央と二人きりになると照れて笑ってしまい、何も進展しないのもまたご愛嬌だった。
だが、そんな微笑ましい姉弟と、見守る人々の日常に、再びの火の粉が降り掛かろうとしている。
今回、真田ウェルネスの周辺を探り続けているフリージャーナリストの橘しおり(田中みな実)の過去が明らかになった。しおりもまた、15年前に渡辺康介(朝井大智)からレイプドラッグで性的暴行を受けた女性の一人であり、被害者の中で単独で告訴に踏み切っていたと判明する。
休学や両親の離婚が続いたことを考え合わせると、名前を明かしたこと、告訴したことで周囲の心無い対応で更なる苦しみに見舞われたことは想像に難くない。
6話で、拘束されたしおりが後藤(及川光博)相手に「(殺されれば)大勢の人がわたしのことを可哀想と思ってくれる」と淡々と語った言葉が、彼女が15年前に抱え込んだ怒りや無念が今も決して乾いていないことを表している。
犯罪の被害者でありながら、充分なケアより前に嘲笑や糾弾に晒される。『あなたにも落ち度があったのではないか』。それは心身に致死傷を負った女性たちに、直接に時に言外に、現実に投げつけられる石である。
同時に、しおりが被害にあう直前に通りかかった梨央に助けを求めて、それが届かなかったことも明かされる。
それは愛情深い家族と穏やかに暮らしてきた高校生の少女には気づきようもない異変であると思う。
だが、その指一本分の距離が届けば、声ひとつ何か届けばと(それは指一本分伸ばせなかった、声を上げる力を振り絞れなかった自分への怒りでもあると思う)その記憶を無限に手繰り続けて、15年を生きた橘しおりの気持ちを想像すると、息苦しく胸が痛む。
同時にその指が届いていれば、その時、渡辺の卑劣な犯行が明るみにでていれば、梨央もまた父と弟との穏やかな暮らしが続き、いずれは互いに想いあう大輝との幸せな日々があり得たはずなのだと、ねじれあう二つの運命に慄然とする。
15年前に人生を捻じ曲げられた二人の女は、ともすれば手をとりあって辛い過去に向き合える可能性があったのに、その機会もまた失われてしまう。今回のラストで橘しおりは転落死して発見された。
今回、梨央を相手に大輝は「もしもの話より先を見る方がいい」と割り切った表情で語る。加瀬もまた、優を相手に「これからどう生きていくか」だと語る。
もちろんそれは正しくあるべき姿ではあるけれども、そのまっすぐさの分だけ、よどんだものや人のくらいものが見えなくなるのではないか。
大輝と加瀬は、梨央と優の姉弟を守りとおせるのか。物語はラストスパートに入る。
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[文・構成/grape編集部]
かな
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