人生を他の誰かに決めさせないこと ~映画「ムーンライト」から~
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国連とコロンビア大学が作った研究所が、毎年、世界幸福度調査というものを発表している。
日本はあいかわらず低く、今回も155ヶ国中、51位。控えめな国民性が原因だと言われるが、それだけではないと思う。日本は人生の選択の自由度が、まだまだ少ない国で、他人と比べることが強い国民性ということも大きいのではないだろうか。
他人と比べ、人の目を気にしながら選択していく人生で、うまくいくこともあるかもしれないけれど、もし、うまくいかないときは人のせいにしてしまいがちになる。何より人の目を気にしながらの選択は常におびえた思考になってしまう。
映画「ムーンライト」が今回、アカデミー賞で作品賞を受賞した。
主人公のシャロンは、「リトル」と呼ばれる程、小柄でいじめられていた。その様を見ていた近所のおじさんフアンは彼に声をかけ、育児放棄に近いことを知り、目をかけるようになる。
フアンは麻薬の売人だ。実は麻薬中毒者であるシャロンの母親に麻薬を売っていたのも彼だった。小学生のシャロンが、それをフアンに直接、聞き、彼がうなずくシーンは何とも切ない。
この作品は脚本家の体験に基づいた実話が元になっている。彼はゲイであることをカミングアウトしていて、それが作品の中に織り込まれている。
映画では、小学生、高校生、青年と三つの時代のシャロンが描かれている。
シャロン「「おかま」って何?」、
フアン「ゲイを不愉快にする言葉だ」、
シャロン「僕はゲイなの?」、
フアン「今すぐわからなくていい!」
そして、フアンは言う。
「自分が何か?自分は何になるのか?は自分で決めるんだ。絶対に他の誰かに決めさせるな!」
このとき小学生のシャロンは性指向を自認しているわけではない。それでも周囲からは、「オカマ」、「ゲイ」と言われ続ける。「あの子の歩き方を見たことあるかい?」と母親のポーラまでもが自分の息子のことをゲイであるかのごとく他人に言う。「おびえたような歩き方や態度=ゲイ」といった間違ったステレオタイプの声がシャロンを苦しめる。
高校生になっても、それは変わらなかった。細身のジーンズをはいているだけであいかわらずゲイだとからかわれる。このときの彼の性指向は映像からは僕は読み取れなかったが、たとえ彼が異性愛者だとしても、これだけ言い続けられると性指向がわからなくなってしまうのではないだろうか。
そんな中、シャロンはケヴィンと出会う。二人におきるハプニングがシャロンの性指向、そして人生に大きな影響を与える。
物語は十年以上経ち、シャロンが青年になった時代まで飛ぶ。彼の変貌ぶりには驚かされた。彼が幸福なのかどうかは観客にゆだねられるところだが、少なくとも彼はフアンの教え通り、自分で決め、自分自身で人生を切り開いてきたことだけは間違いない。
ムーンライト(2016 アメリカ)
製作総指揮 ブラッド・ピット
監督 バリー・ジェンキンス
出演 トレヴァンテ・ローズ、アンドレ・ホランド他
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