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待機児童問題の解決はAI? 職員が50時間かかっていた作業が数秒に

By - 土屋 夏彦  公開:  更新:

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株式会社三菱総合研究所は、全国30以上の自治体が参加して、自治体に対する住民の各種問い合わせに関し、サービスと効率の改善を目指す『AIスタッフ総合案内サービス』の実証を開始。

3月までの実証を経て、10月からの商用サービス化を目指すと発表しました。

これはこれまでの子育て、引越し・住所変更の手続き、ゴミの出し方、住民票や戸籍、各種書類の請求など住民からのさまざまな問い合わせ全般に対して、時間がかかることで対応が遅れたり、対応する局員がオーバーワークとなるなどの課題が山積していた問題で、AI(人工知能)が対話形式で応答することのできる行政サービスを提供しようというものです。

こうした自治体での作業効率化にAI(人工知能)を活用しようという試みの中、さいたま市では昨年の夏に、認可保育施設の入所希望者を市内約300施設に割り振る作業を、富士通と九州大などが開発したAI人工知能で実証実験をしたところ、これまで職員の手では50時間かかっていたものが、わずか数秒でできることが分かったそうです。

富士通の分析によれば、少子化が進みさまざまな少子化対策が行われている中、待機児童問題など保育をとりまく状況には依然として課題が残っており、中でも『保育所入所選考業務』は、公平性を保つために各家庭の様々な事情を考慮しながら、限られた入所枠に割り当てるのに年々複雑化し、多くの人手と時間を要しているといいます。

自治体によっては、保護者の勤務時間や世帯構成などを点数化し、高い順に希望する認可施設に割り振られる配慮をするなど対策に乗り出しているものの、そんな検討を重ねた結果にも関わらず、兄弟が別々の保育所に入る調整結果が発生してしまうこともあるそうです。

さいたま市では、こうした入所選考をきめ細かい入所選考を行うべく、さいたま市独自の『兄弟入所時の入所タイミング・入所施設・年齢・希望順位』を市職員の試行錯誤で行ってきた結果、7959人の児童を311施設に割り当てるために、20名から30名の職員が非常に多くの日数をかけて慎重に選考を行う結果となったということです。

自治体としては、政府の重点施策である『働く女性の支援』の観点からもこうした入所選考業務を『迅速に、きめ細かに、正確に』行うことが、社会的にも急務になっているにもかかわらず、このままでは立ち行かない事態まで来ていたということのようです。

こうした背景を踏まえて、さいたま市が株式会社富士通研究所、国立大学法人九州大学マス・フォア・インダストリ研究所富士通ソーシャル数理共同研究部門と富士通株式会社が組んで、複雑な保育所入所選考において、最適な入所割り当てをわずか数秒で自動的に算出するAIを用いたマッチング技術を開発。

「兄弟が同じ保育所になることを優先してほしい」

「別々の保育所でもよいが、兄弟の片方しか入れないのなら辞退する」

といった複雑な希望条件の依存関係を、ゲーム理論と呼ばれる、利害が一致しない人々の関係を合理的に解決する数理手法によりモデル化することで、優先順位に沿って全員が可能な限り高い希望をかなえられる割り当て方を見つけることを可能にし、埼玉県さいたま市の申請者約8000人の匿名化データを用いて検証したところ、わずか数秒で最適な選考結果を算出することに成功したということです。

さいたま市によれば、自治体のAIの活用による最大の効果は『時間短縮』にあるといいます。これまで非常に多くの日数と人数を要していた作業が、AIにより数秒で導き出すことができれば、職員の劇的な負担軽減が実現できます。また申込者への結果通知も現在より早められ、職場復帰計画がスムーズに進むことに繋がっていき、結果、市民の満足度向上に大きく寄与することが期待されます。

こうした事実を踏まえ、今年から全国の自治体がAIで立ち上がり、市民に配慮したより効率的な商用サービスが普及できることを期待します。


[文・構成 土屋夏彦]

土屋夏彦

上智大学理工学部電気電子工学科卒業。 1980年ニッポン放送入社。「三宅裕司のヤングパラダイス」「タモリのオールナイトニッポン」などのディレクターを務める傍ら、「十回クイズ」「恐怖のやっちゃん」「究極の選択」などベストセラーも生み出す。2002年ソニーコミュニケーションネットワーク(現ソニーネットワークコミュニケーションズ株式会社)に転職。コンテンツ担当ジェネラルプロデューサーとして衛星放送 「ソネットチャンネル749」(現アジアドラマチックTV★So-net)で韓国ドラマブームを仕掛け、オンライン育成キャラ「Livly Island」では日本初の女性向けオンラインで100万人突破、2010年以降はエグゼクティブプロデューサー・リサーチャーとして新規事業調査を中心に活動。2015年早期退職を機にフリーランス。記事を寄稿する傍ら、BayFMでITコメンテーターとしても出演中、ラジオに22年、ネットに10年以上、ソーシャルメディア作りに携わるメディアクリエイター。

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