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吉元由美の『ひと・もの・こと』
作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。
たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。
『足跡』を残すということ
先日、急逝した画家の友人のアトリエを訪ねました。ご家族のご好意で、絵を譲っていただけることになったのです。
亡くなった後に、何箇所かに保管してあった作品をまとめたのか、アトリエは膨大な作品で埋め尽くされていました。天井に届きそうな大作も数多くあり、その仕事量に圧倒されました。
どれだけのエネルギーと情熱で制作に取り組んでいたのか。いつも穏やかな友人の中にあったであろう表現への思いを垣間見た気がしました。もちろん、それは私の想像など及ばないものだと思います。
引き出しの中には、描きかけのスケッチやモチーフを描き出したものなどがぎっしり入っていました。それは、友人の『息吹き』でした。
完成させるまでの思考、彼の中から出てきたモチーフたち。想像、創造をめぐらしていた時間が、満杯になった引き出しからこぼれ出たよう。
額に納められた作品はもちろんですが、未完成のものたちも、彼が生きた証そのもの。静かに、だけど生き生きとそこにあったのです。
ものを創ることをしていれば、『何か』を残すことができます。生きた証を残すことにこだわる必要などありませんが、人はどこかにその足跡を残していくものです。
その人の本棚を見れば、何を好み、また何を考え、悩んでいたかが見えてくるかもしれません。それも証になるでしょう。
その人の言葉も、証になるかもしれません。ひとことかけた言葉が誰かの心の支えになったのなら証になるのでしょう。
そのように考えていくと、私たちは日々足跡を残しながら生きているのかもしれません。誰かに向けたものでも、意図しているものでもなく、ただ残っていくもの。
それを後に人が足跡、証として受けとるもの。いつか時が経ち、それは波が砂浜の足跡をさらうように消えていきますが、残ったものが優しいものであればいいなと思うのです。
一期一会の出会いも、もしかしたら足跡になるかもしれない。ときどき、そんなことに思いをめぐらせます。
友人のアトリエから連れ帰った深い蒼の森の絵を仕事部屋の机の前に掛けました。言葉を紡ぐということ、それは表現の森の中を探求することでもあります。
友人の静かな情熱は、その尊さを教えてくれました。
※記事中の写真はすべてイメージ
作詞家・吉元由美の連載『ひと・もの・こと』バックナンバー
[文・構成/吉元由美]
吉元由美
作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。
⇒ 吉元由美オフィシャルサイト
⇒ 吉元由美Facebookページ
⇒ 単行本「大人の結婚」