古いアルバムにあった白黒の家族写真が思い出させてくれた『原点』
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吉元由美の『ひと・もの・こと』
作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。
たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。
父の運動靴
古いアルバムに、父の兄が出征する日に撮った家族写真がありました。
亡くなった叔母がきれいにまとめたアルバムの収められていたその一枚の写真には、まだ若い叔父と叔母、祖父と、会ったことのない祖母、そして中学生の父が写っていました。
なぜか出征する叔父は写っておらず、その写真の隣に海軍の制服を着たポートレートが貼られていました。NHKの『ファミリーヒストリー』で紹介されそうな、戦時中の黄ばみかかった白黒写真です。
中央に椅子にかけた国民服を着た祖父の厳しい顔、口を結んでカメラを見据える家族たち。叔母たちは女学校の制服、年の離れた叔父は国民服、祖母は着物に羽織を着ています。
父は国民服に膝丈のズボン、そして学帽をかぶっている。脛を怪我しているのか黒ずんで、膝に乗せた指先も汚れているように見えます。かなり活発だったようなので、転んだり、怪我をしていたのかもしれません。
父の履いている運動靴はボロボロで、親指の先に小さな穴が空いていました。
父を大切にしよう。ボロボロの運動靴を見たとき、これまで味わったことのない愛しさと悲しさが胸の奥にあふれました。
戦争中、学校帰りに機銃掃射の攻撃に遭い、父の数メートル横をダダダダダダと銃を連射されたと話してくれたことがありました。おそらく、この運動靴を履いて、逃げたのかもしれません。
悲しいくらいボロボロのこの運動靴が父の命を守ったのではないかと思うと、感謝と、今自分がここにいることのありがたさが心に深く沁みてきます。
戦禍にあった当時の人々がどんな思いで生きていたのでしょうか。とても想像するに余りありますが、想像することをやめてはいけないと思うのです。
92歳の父の足は、年齢的なものなのか、浮腫んでしんどそうです。あの細い、脛が黒ずんだ足をしていた父は、今は浮腫んでしまったこの足で人生を歩んできたのです。
父の足にオイルマッサージをしながら、決して順風満帆とは言えなかった人生を振り返ると、生きるということの厳しさと尊さに圧倒されそうになるのです。
叔母のアルバムには、新婚時代の両親の写真もありました。エプロン姿の母は初々しく、美しく、父は痩せていましたが、どこか凛々しくもありました。
古い写真が語る家族の物語はいつか忘れさられていきます。土に還っていくような、時という波に打ち洗われて珊瑚が白い砂になっていくような。
それでも私たちの命はかけがえがなく、生きるということは尊いこと。父の運動靴は、そんな原点を思い出させてくれました。
いのちを紡ぐ言葉たち かけがえのないこの世界で
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※記事中の写真はすべてイメージ
作詞家・吉元由美の連載『ひと・もの・こと』バックナンバー
[文・構成/吉元由美]
吉元由美
作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。
⇒ 吉元由美オフィシャルサイト
⇒ 吉元由美Facebookページ
⇒ 単行本「大人の結婚」