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「もういないんだ」胸の奥にあるぽっかりとした空洞を埋めるのは?

By - 吉元 由美  公開:  更新:

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吉元由美の『ひと・もの・こと』

作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。

たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。

「そうか、君はもういないのか」と思うとき

「そうか、君はもういないのか」

作家の城山三郎氏が妻の容子さんが亡くなった後に書いた随筆を読みました。

容子さんとの出会い、結婚生活を書いたいくつかの未完の原稿を次女の井上紀子さんの手によりまとめた随筆です。

最愛の人が、本当に最愛であったことを知るのは、失ったときなのかもしれません。

城山氏は容子さんと出会ったとき、「間違って、妖精が天から妖精が落ちてきた感じ」と思い、その思いは結婚生活を通して変わることがなかったそうです。

容子さんに先立たれ、城山氏はその現実を心の中にのみ置いていたと、次女の井上紀子さんは語ります。

お葬式で喪服を着ず、お墓参りもせず。そして自宅に帰ることなく、ずっと仕事場で寝起きしていたそうです。

「そうか、君はもういないのか」

このつぶやくような一行を、私は母が亡くなって、愛犬のラニが亡くなってからふと思い出します。

死が生命活動の終わりだとわかっていても、私は不思議でなりません。もういない、もう会えないという現実の凄みに、胸を掻きむしられるような喪失感を覚えます。

私の腕の中で力なく身を委ねていたラニが、ある瞬間、くっと首をもたげ、驚いたような顔をして私を見たあの瞬間に、ラニの心臓は止まってしまいました。

どこに行ったの?と何度も叫びました。いままで名前を呼べば私を見たラニは、どこに行ってしまったのか。

空のハウスを見るたびに、いつも寝ていたソファの片隅に目をやるたびに、「もういないんだ」と、わかっているはずの現実を確かめる。

すると、胸の奥にあるぽっかりとした空洞に気づくのです。

この空洞を埋めるのは、悲しさよりも出会えたことへの感謝なのでしょう。たくさんの贈りものをもらったことに気づいていくことなのだと思います。

母が亡くなってしばらくしてから、日常の中に母の愛が宿っていることに気づきました。

母がしてくれたことを娘にしている。母が苦しいときも希望を見出しながら前を向いていたように、私もそうしている。

ラニは私に無償で愛することを教えてくれた。この世界から旅立ったとしても、大切なことを残してくれている。

それでも「そうか、君はもういないのか」と思うことがあります。振り子のように思いを行ったり来たりさせながら、時が経てばいつかその現実に馴染んでいく。

でも、それもせつないのです。いないことに慣れていくのが怖い気もするのです。喪失感は執着なのでしょうか。

まだその答えは、私の中でまだ見つかりそうもありません。

※記事中の写真はすべてイメージ


[文・構成/吉元由美]

吉元由美

作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。
吉元由美オフィシャルサイト
吉元由美Facebookページ
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