私たちの心には、『物語』が必要 恐れや悲しみを受け入れるために、心の奥にパラレルワールドを描く By - 吉元 由美 公開:2021-10-17 更新:2021-10-17 エッセイ吉元由美 Share Post LINE はてな コメント 吉元由美の『ひと・もの・こと』 作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。 たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。 『物語』が心を守る 「恐れや悲しみを受け入れるために、物語が必要になってくる」 臨床心理学者の河合隼雄さんと作家の小川洋子さんの対談本『生きるとは、自分の物語を作ること』(新潮文庫)の中で、お二人はこう話されています。 作家の柳田邦夫さんの息子さんが脳死状態となり、亡くなります。臓器提供を希望していたことから息子さんの臓器は必要としている人へ移植されることになります。 そのとき柳田さんは、息子の命がどこかで引き継がれたのだと思う。こう思うことによって、受け入れがたい現実と折り合いをつけようとする。これが、私たちが作り出す『物語』です。 SNSで多くの面識のない人たちとつながります。友人たちともつながります。Facebookを始めて7、8年経ちますが、何人もの友人たちが旅立って行きました。 若くして重篤な病気を患い逝ってしまった人、ある日突然逝ってしまった人、ありし日のままSNSに足跡を残して。ある友人は、メッセージを投稿した翌日に逝ってしまいました。 1か月経った今もとても不思議です。信じられない……と簡単に言えません。まだ、『物語』を作れずにいます。 なぜこんなことを思い出したかというと、ときどき風が胸の奥に吹き込んでくるように、そんな人たちのことをふっと思い出すのです。そのたびに、ああ、もういないのだなあ、と改めて思います。 それは、楽しい夢から覚めたときのように、軽い落胆を伴います。でも、(もしかしたらどこかで生きているかもしれない)と、ふと思う。そんなパラレルワールドがあるかもしれない、と思ったりするのです。 パラレルワールドとは、『ある世界から分岐し、それに並行して存在する別の世界』。そんな世界が存在するとは証明できないけれど、存在しないと証明することもできない……と、科学の立場では言われているそうです。 小さい頃、もしかしたら1年先の自分、1年前の自分がどこかにいるかもしれない、と真剣に思ったものでした。1分先の自分も、1分前の自分も。 宇宙はミルフィーユのように時空を超えた世界が重なっているのではないか。そんな空想にふけったものでした。 考えてみると、SNSの空間も別次元のような気がしてきます。そこに旅立っていった人たちは存在していて、亡くなったことを知らない人たちが毎年「お誕生日おめでとう。素敵な一年になりますように」とメッセージを入れる。 ある意味、この空間もパラレルワールドなのかもしれません。忘れられない人が心の中に生き続けているとしたら、それもパラレルワールドなのかもしれません。 私たちの心には、物語が必要である。恐れや悲しみを受け入れるために、心の奥にパラレルワールドを描いているといいかもしれません。それが私たちの心を守ることになるように。 ※記事中の写真はすべてイメージ 作詞家・吉元由美の連載『ひと・もの・こと』バックナンバー [文・構成/吉元由美] 吉元由美 作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。 ⇒ 吉元由美オフィシャルサイト ⇒ 吉元由美Facebookページ ⇒ 単行本「大人の結婚」 ギャル曽根流のポテサラに「今日の夕飯決まった」「その発想はなかった」ギャル曽根さん親子が教える、ポテトサラダレシピに「奥が深い」「その発想はなかった!」の声が上がりました。 39歳の誕生日を迎えた、杏 ケーキよりも、注目を集めたのは…ん?見間違いじゃないよね!?杏さんの誕生日ケーキと一緒に写った『推しアクスタ』とは? Share Post LINE はてな コメント
吉元由美の『ひと・もの・こと』
作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。
たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。
『物語』が心を守る
「恐れや悲しみを受け入れるために、物語が必要になってくる」
臨床心理学者の河合隼雄さんと作家の小川洋子さんの対談本『生きるとは、自分の物語を作ること』(新潮文庫)の中で、お二人はこう話されています。
作家の柳田邦夫さんの息子さんが脳死状態となり、亡くなります。臓器提供を希望していたことから息子さんの臓器は必要としている人へ移植されることになります。
そのとき柳田さんは、息子の命がどこかで引き継がれたのだと思う。こう思うことによって、受け入れがたい現実と折り合いをつけようとする。これが、私たちが作り出す『物語』です。
SNSで多くの面識のない人たちとつながります。友人たちともつながります。Facebookを始めて7、8年経ちますが、何人もの友人たちが旅立って行きました。
若くして重篤な病気を患い逝ってしまった人、ある日突然逝ってしまった人、ありし日のままSNSに足跡を残して。ある友人は、メッセージを投稿した翌日に逝ってしまいました。
1か月経った今もとても不思議です。信じられない……と簡単に言えません。まだ、『物語』を作れずにいます。
なぜこんなことを思い出したかというと、ときどき風が胸の奥に吹き込んでくるように、そんな人たちのことをふっと思い出すのです。そのたびに、ああ、もういないのだなあ、と改めて思います。
それは、楽しい夢から覚めたときのように、軽い落胆を伴います。でも、(もしかしたらどこかで生きているかもしれない)と、ふと思う。そんなパラレルワールドがあるかもしれない、と思ったりするのです。
パラレルワールドとは、『ある世界から分岐し、それに並行して存在する別の世界』。そんな世界が存在するとは証明できないけれど、存在しないと証明することもできない……と、科学の立場では言われているそうです。
小さい頃、もしかしたら1年先の自分、1年前の自分がどこかにいるかもしれない、と真剣に思ったものでした。1分先の自分も、1分前の自分も。
宇宙はミルフィーユのように時空を超えた世界が重なっているのではないか。そんな空想にふけったものでした。
考えてみると、SNSの空間も別次元のような気がしてきます。そこに旅立っていった人たちは存在していて、亡くなったことを知らない人たちが毎年「お誕生日おめでとう。素敵な一年になりますように」とメッセージを入れる。
ある意味、この空間もパラレルワールドなのかもしれません。忘れられない人が心の中に生き続けているとしたら、それもパラレルワールドなのかもしれません。
私たちの心には、物語が必要である。恐れや悲しみを受け入れるために、心の奥にパラレルワールドを描いているといいかもしれません。それが私たちの心を守ることになるように。
※記事中の写真はすべてイメージ
作詞家・吉元由美の連載『ひと・もの・こと』バックナンバー
[文・構成/吉元由美]
吉元由美
作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。
⇒ 吉元由美オフィシャルサイト
⇒ 吉元由美Facebookページ
⇒ 単行本「大人の結婚」