親の「生ききる」姿を見て、いま、この瞬間をどう生きるかを問う
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吉元由美の『ひと・もの・こと』
作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。
たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。
「生ききる」姿に思うこと
自分は何歳まで、自分のことを自分で支えていけるだろう。92歳でひとり暮らしをしている父の世話をしながら、年を重ねていくということを見せてもらっています。
とても冷静な表現をしましたが、親は自分の老いを通して、生きるとはどういうことなのか示してくれているように思うのです。
自分の老いを受け入れていくこと。毎日散歩を欠かさず、数年前まで一万歩近く歩いていた父にとっては、足腰が弱くなり、少しの段差でつまずき、手すりがなければ階段の上り下りができなくなってきたのは、受け入れ難いことだったと思います。
言うことを聞かなくなった体に焦りを感じていたかもしれません。そんな自分と少しずつ折り合いをつけ、受け入れていくのは、どのような心境なのでしょうか。
葛藤があるのか、諦めなのか。または、大海を見渡すような心境なのか。父の心の風景を想像することはできませんが、人生の中で最も大切な時間を過ごしていることはわかります。
人生をまとめ上げていく。それは偉業を成すとか何かを残すということではなく、『心』の仕事なのです。
8年前に亡くなった母は、最後は脳梗塞になり言葉がほとんど出なくなりました。これから母はどうなってしまうのか。家族はどう介護していけばいいのか。母の人生にはこういうシナリオがあったのか。
そう思いが至ると、この人生を生きる母の覚悟を感じました。
(生ききる姿をよく見ていなさい)
きょとんとした顔をして子どものようになってしまった母は、私にそう伝えているようでした。その『メッセージ』を受け取ったとき、とても私は崇高な時間を過ごしているのだと思えたのです。
喜びだけではない、幾つもの困難が波のように寄せてきた人生の最終章、言葉を失ったことは本当に残念だったと思いますし、私ももっと話をしたかった。
でも、母の生ききる姿を見守ることができたのは、かけがえのないギフトになりました。
私にもそう長い時間が残されているわけではありません。これまでも、これからも無駄な時間などなく、日々を大切に積み重ねていく。あたりまえのことなどひとつもないこの日常を丁寧に生きていく。
若い頃、鋭い刃物のようだった父は、日に何度も「ありがとう」と言いながら92年という年月の先端をまんまるに生きています。
間違いも正解もない。いま、この瞬間をどう生きるか。それは、まだまだ元気な私たちにも問われていることなのです。
いのちを紡ぐ言葉たち かけがえのないこの世界で
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※記事中の写真はすべてイメージ
作詞家・吉元由美の連載『ひと・もの・こと』バックナンバー
[文・構成/吉元由美]
吉元由美
作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。
⇒ 吉元由美オフィシャルサイト
⇒ 吉元由美Facebookページ
⇒ 単行本「大人の結婚」