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世界に通用するスペシャリストの創出を目指す ホリプロ社長・堀義貴氏インタビュー

By - grape Japan 編集部  公開:  更新:

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© HoriPro International, Inc. / Photo: © grape Japan

日本の総合エンターテイメント企業大手のホリプロダクション(ホリプロ)は、アジアをはじめ積極的な海外進出を目的とした、新会社『ホリプロインターナショナル』の設立を2018年6月に発表しました。「世界に通用するスペシャリストの創出」を企業理念とし、ワールドクラスのタレント、アーティストの発掘・育成とコンテンツの創出を目的としています。

ホリプロインターナショナルには声優やアニメ分野で活躍が期待できるタレントが多数所属しています。大木貢祐、大橋彩香、OOPARTZ、木戸衣吹、京香、JUVENILE、田所あずさ、特蕾沙、DJ YURiA、巴奎依、中村瞳子、二ノ宮ゆい、畠山航輔、Machico、松永あかね、May’n、Liyuu、和島あみなどです。

ホリプロインターナショナルの代表は、ホリプロ代表取締役社長の堀義貴氏が兼任。新会社設立に至った経緯や、日本のエンターテイメントコンテンツの海外展開の状況や可能性について、堀社長と矢田部取締役にも同席いただきお話を伺いました。


本インタビューは、2018年7月3日にgrape Japan 編集部の外国人記者により行われたインタビューの内容を再編集してお届けするものです。


ーー本日はお時間をいただき、ありがとうございます。よろしくお願いいたします。

堀社長:いえ、こちらこそ。よろしくお願いします。

ーー早速、質問をさせていただきます。なぜこのタイミングで海外専門の新会社を設立しようと考えたのですか?

堀社長:ここ数年、10年近くになるかな。特にアニメソングのアーティストに対して、海外のイベントへの出演依頼が見ず知らずのところから来るようになったり、舞台のセクションでは、蜷川幸雄さんの舞台をさまざまな国で公演したりという状況があり、とにかくグローバル化を進めなければいけないと考えました。

日本のエンターテイメントのマーケットは、99.9%、日本で生まれて日本で消費されるという状況が60年近く続いてきて、世界2位のエンターテイメント国でした。近年、アジア各国が伸びてきて、相対的に日本のパワーが落ちてきたという状況が1つです。

統計上、どんなに頑張っても日本の人口減少は止められない状況で、マーケットの縮小が目に見えているのに、何もしないというのはあり得ないだろうということです。

日本のエンターテイメント制作者に残された未開のマーケットはインターネットと海外だけ。ここ以外、攻める場所がないということを考えました。

6,7年前から、社内プロジェクトを立ち上げ、舞台のセクションの担当者はバイリンガルなので、どこの国にでもいける体制ではあったのですが、アニメ分野の制作やアニメソングのマネージメントは、国内型のアーティストと同じセクションになっていました。

例えば機会があっても、日本のサラリーマン的感覚の組織ではリスクが冒しづらい環境があります。組織を守る上では大事なことですが、攻める上では非常に邪魔くさい。すべてを僕がチェックするわけにもいきませんが、仲介者が何人も入り話が希釈されることも望みませんでした。であれば、もう別の会社にしようと。

成功も失敗もホリプロインターナショナルの責任として、その代わりとにかくスピードを速くする。

アジアを攻めるためのホリプロインターナショナル創設

日本人がいままで思っていた世界進出というと、アメリカやヨーロッパだったと思います。日本をはじめ先進国では人口とGDPの減少に直面しています。アメリカは別としても、ヨーロッパやロシアでも同じことが起こっています。出生率はいたるところで低下しています…フランスを除いて。アメリカは移民の国なので、ますます多くの人々がやって来ます。

そんな中で中産階級の人口が爆発的に増えていて、富裕層もほかの地域より一番増えていて、羽田から7時間で行けるところに40億人も住んでいる。地政学的にも我々は、アジアにもっと目を向けるべきだと。その中でも一番のマーケットは今のところ中国。この2〜30年は中国を中心に物事が動くことは間違いないわけで、ひょっとしたら、中国進出の延長上にアメリカなりヨーロッパがあると。

舞台は最初からブロードウェイや、ウエストエンドを目指すけども、その他に関しては玉石混交。一番を取ったところが勝ちだと、その時にアジアを中心に攻めるために『ホリプロインターナショナル』を創設しました。

ホリプロ本社の舞台セクションは、最終的にブロードウェイで公演するものを作る。日本で作ってロイヤリティを得る。いままでは支払ってばかりだったので、いずれはもらう側になろうと。なかなか複雑ですが、この2つの面からアプローチをしたいということです。

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ーー従来の戦略から進化した点、今後の目標についてお聞かせください。

堀社長:従来から進化していないから困っている。当社マネジメント以外のアニソン歌手だけでいってもそうだと思いますが、全部、点なんです。マーケットを作るには全然至ってないし、日本では「ジャパニメーションはすごい」と思い込んでいますが、世界のマーケットでいえば4%ぐらいしかシェアありませんよね。

よく講演で話をしますが、日本のアニメ産業は全体で2兆円しかありません。でも、『ライオンキング』は、1コンテンツで2兆円だと。それを相手にしても勝ち目はない。日本人はアメリカのマーケットはとても自由で、参入が楽と思い込んでいる節がありますが、実際はとても障壁が多いし、特にエンターテイメント文化は、ほかの国のものを寄せ付けないところがあります。

インターネット時代になって、違法の海賊版DVDやCDVは無くなったけど、さらに多くの日本のアニメコンテンツがネットを介して世界中に流れてしまった。それは海賊版なんだけど、ニーズは世界中にあったんだと。アメリカの2千万人のアニメファンをターゲットにしたビジネスチャンスもあるかもしれませんが、それらは70億人のうちのほんの数パーセントです。

スマートフォンの時代になって、世界中で国境も時差もなく24時間つながっている状態は、極東地域の日本からすると、こんなに追い風なことはありません。悪い面ばかり考えず、いままでの地理的、時差的、民族的というギャップを乗り越えられるツールだと思って活用しなければいけない。そしてターゲットはやはりアジアの人だと。

シンガポールでの『May’n(メイン)』の成功事例

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彼(矢田部氏)がマネージメントをしているMay’n(メイン)が一番のリトマス紙になりましたが、ある時、シンガポールからアニメフェスティバルを開催するので、ぜひ出演してほしいという依頼がきた。会社の名前も見たこともないし「受けていいのか?」っていう話になりました。

通常でいえば、「だまされているかもしれないからやめろ」となりますが、「とりあえず行ってみよう」と。行ってみてどうだったかによって考えればいいという話で進めて、これが結果的に成功事例になりました。

May’nが歌っていた歌は、20年間続いているアニメシリーズではありますが、版権元の問題で世界中どこでも放送はされていなかったんです。でも、どこへ行ってもその歌を「みんな日本語で歌っている」という状況を目の当たりにしてしまった。いまがチャンスなんだと。

幸か不幸か、ほかのエンターテイメント会社はオーナー会社が少ないので、経営陣は在任中にリスクを取らない、失敗しないことが100点という。でもホリプロはオーナー会社だし、もし失敗しないということを100点としたら、いつか、この会社はなくなってしまいます。そんな状況ではスターは生まれない。

僕らは、いつも「失敗しないこと」よりも「成功することだけ」を考えています。「この子、売れなさそうだね」と思うタレントなんかいないわけです。いつも誰でもスターになると思っています。

その考えかたで、僕が元気なうちに彼ら(矢田部氏を指す)がやれば、次は彼らの世代ができるし、その次の世代へもつながる。それをいま始めておかないと、20、30年経っていまの日本のエンターテイメント業界のビジネス構造が変わらなかったら、その時は「残念だったね」で終わりだと。「あの時やっておけばよかった」と思いたくない、それだけです。

ーー本社から移動されたかたもいらっしゃますが、新しい人材を採用したことについては、どのような戦略がありますか?

堀社長:基本的にはすべて彼らに任せています。自分たちが働きやすい人材を見つけることと、ホリプロという会社に就職するのではなくて、ホリプロでやっていることが好きな人を連れてきてほしいと。

ホリプロインターナショナルにいる限り、アニメソングを担当したいけど、TVドラマの制作になりましたという人事異動はないわけです。ホリプロにとってはニッチなマーケットではありますが、これにのめり込める人だけ連れて来てほしいと。もうそれだけです。後は何もいっていません。外国の人がいつの間にか座っているぐらいなので。

ーー堀社長の海外での経験が、ホリプロインターナショナルの設立にどのような影響を与えたか、欧米、アジアなど具体的にエピソードをお聞かせいただけますか。

堀社長:1つは舞台の関係で、蜷川幸雄さんという、いってしまえば1人で30年〜40年近くクールジャパンをやってきた人ですよね。彼の舞台へ先週も行って来たばかりですが、世界でも有名で、ロンドンでもニューヨークでも満杯だし、通常、日本のコンテンツが海外進出すると、お客様はほとんど現地の日本人ということが多いんですが、彼の舞台は逆で、ほとんどが現地の人たちで、日本人がほとんどいないといっていいぐらい少ない。それを見てしまったということ。

そのあとに、『デスノート』という映画を日テレさんと一緒に作った後、主演の藤原竜也とロンドンのパブでビールを飲んでいた時に、見ず知らずの通りがかりの人が「ムービースターだ」っていうの。何を観たのかと聞いたらケーブルテレビで『デスノート』、『バトル・ロワイヤル』を観たと。

ニューヨークでは、楽屋の出待ちに、足に『デスノート』の月(ライト)という藤原竜也が演じたキャラクターの入れ墨をした人が待っていて、「あなたに会うのが夢だった」というのを見て、なんとなく「ああ、すごいな」、人知れず見ている人がいるんだなと思っていました。国際的な舞台を自分たちで創るということをいい始めた時に、現場から「デスノートのミュージカル化はどうでしょうかね?」と出てきて、「ああ、そうだ『デスノート』だ」といって、実際に創ることになりました。

でも、これは20年、30年かかろうが、「太平洋かドーバー海峡か、どちらかを渡るんだ」というつもりで作ったので、最初から脚本も作詞・作曲も全部ニューヨークの人で作ったし、最初からすべて英語の台本を作ったわけです。英語の台本を韓国のプロデューサーに見せて「日本が終わったらセット貸すから」、「お互いにリスクヘッジもできる」と勧めて、日韓連続上演が実現しました。とにかく自分で見たものが現実になっていると。

日本で伝えられていることと、現地との認識のずれ

彼(矢田部氏)のやっている『May‘n』にしても、ニーズはあるんだというのはシンガポールに行って分かったし、フランスのジャパンエキスポに行った時も、英語での挨拶に対して「日本語でしゃべれ」みたいなことをいわれた。英語でいいじゃないかといったら、ここはヨーロッパだし、英語に固執していないし、みんな日本語が聞きたいんだと。日本人がほとんどいない客席で、みんな日本語で歌っているのを見てしまった。

それと日本での報道とのギャップもあって、日本では「フランスで最大の日本紹介イベント」というわけですよ。でも、ホテルから眺めていると、会場の駅前でコスプレ姿で剣を振っている人がたくさんいるわけです。ユーレイルパスで、みんなヨーロッパ中から集まっているんだと。だから40万〜50万人の動員になっている。

それだけのエキスポなのに、会場のど真ん中の大きなパビリオンは韓国企業の『サムスン』がやっているじゃないかと。日本の経済産業省の役人は1人も来ていないわけです。最近は来るようになりましたけど。だから、全然日本でいっていることと、現地との認識のずれというのを目の当たりにして。

僕らは僕らが信じてみたことと、相手がいっていることとが合う時にやるんだと。少々そそかっしくて、会ったことがないようなところが「やりたい」といってきても、「もう行っちゃえ、行っちゃえ」と。とりあえず「資料を先にください」とやっている間に終わってしまう。それらの経験全部、見たまま以外の分析は現状ではないということ。

20年前と変わっていない危機感

ーー従来の日本企業にありがちな、吟味して、協議を重ねて、リスクを考えた長いプロセスのあとの実行では、もう間に合わない?

堀社長:間に合わないし、この20年ぐらい役所が行っているクールジャパン関連の会議にひんぱんに出ています。20年前に僕がいっていることは何も達成できていなくて、20年前と同じことをいまだにやっているわけです。だから、出席するのも面倒くさいんだけど、出席する時は、自分が外国で感じたり触れたりしてきたことをいい続けている。

だから皆さんがアピールしたいことは、外国では「ちんぷんかんぷんですよ」といっても伝わないんですよね。立派なシンクタンクが出したデータをずっと見て、「このデータ、4年前に僕が見たデータと何が違うの?変わっていないじゃないか」といって、4年前から何も勉強、進化していないのかと。もうずっとそうです。

クールジャパンというと、『クールジャパン機構』ができる時も、世界中で自分のことを「クール」といっている人はいない、自分でいう話じゃないといっても、「もう、決まりました」と。

結局、アニメなのか、音楽なのか、映画なのか、お米なのか、日本車なのか、民芸品なのか、誰も絞り切れずに、全国の都道府県を全部集めて、その中にアニメを入れてしまうので、タイに行っても、どこへ行っても、お米の横でアニメソングを歌っているみたいない。デパートの物産展のようになっているのです。

それでは変わらないでしょう。「何でもあります」といった時は、お客は何も選ばないんだし、「これを見てください」というから、「どれどれ」と思うわけでしょ。現地のニーズに関しての分析が全然できていない。特に日本のものだからという時に、純血の日本種に拘っているわけです。

「ホテルのお湯がでない」って文句をいうやつは連れて行くな

僕らが『デスノート』を作った時も、海外進出がメディアの見出しに載った時に、SNSでは、「これは外国人が作っているから日本製じゃない」とか書き込まれていました。どこの世界に、日本のカレーを食べてインド人が怒っているか。日本の焼き肉を食べて、「あんなものは焼き肉じゃない」って、どこの韓国人がいったのか。誰もそんなことはいわない。日本人だけが、外国人の握った寿司は認めないといっているわけでしょう。

その考えかたがあるから、「日本の米だけで作った日本酒を世界に売りましょう」ってなる。でも高くて売れないわけですよ。お金持ちに買ってもらうには、一流ホテルのバーに入れるということだと思いますが、でもワインと違って、1人で1本は飲めないし、ヘルシー志向が強いお金持ちは、糖質の高い日本酒は、お寿司を食べる時にたしなむ程度で、日常的に飲んではくれない。ニューヨークでも日本酒より、山崎のウイスキーをみんな飲みたいわけです。

でも、政府としては、イギリスが怒るからとか、アメリカのバーボンが怒るからと、積極的には売らない。だから、いつまでたっても需要が増えなそうな純米酒を売ってる。本来はヘルシーな梅酒のほうが売れるかもしれないし、アメリカのバーには30、40年前からサントリーの『ミドリ』ってリキュールが必ず置いてある。でも、『ミドリ』の話は日本では誰も知らない。

本当に売れているものの情報は来ないわけです。日本にいながら、自分たちはこうじゃないかと。『Youは何しに』とか、『世界のこんなところに日本人』というね、「いやぁ、日本人はすごいね」って日本の中だけでいっていたって意味がないので、実際に外国で「やっぱり日本のコンテンツすごいな」と、「この演出家はすごいな」というふうにならない限りは、絶対グローバルとはいわない。

ーー外国人を相手にする時、日本では「おもてなし」というのがありますが、日本人が考えて「外国人はこうしてあげると喜ぶだろうな」という形で、本当に相手が望んでいることが提供できないと?

堀社長:結局ね、デパートで「こんなに綺麗に包装してくれる人はいませんよ」と日本人がいっているんだと。外国人が「おー」といっているのは、鉄板焼きのパフォーマンスと一緒。肉を切っていればいいのに、くるくる回したりする。あれはショーになってしまっているから、日常の世界にショーは必要ないと思っている人がほとんどなのにね。世界中で。

それより、ささっと入れて、早く回せというほうがメインで、あまり日本的なものに固執しすぎると見誤るというか。日本人はやっぱり外国に行っても日本的なものを求めるしね。だから、イライラするわけです。

Kmartへ行って、でっかい袋に無造作にバンバン商品を入れられて、ぎゅっとやられたら、何か低く見られたと、何て扱いをするだという。だから、それはもう根付いてしまったものを1回捨てないと、日本的な包装が世界中のスタンダードになることは、まず100%ないし。

ーーなるほど、そういう真の理解を得るためには、恐れずどんどん向こうへ行くことが大事だと?

堀社長:彼らにもずっといっていて、朝礼でもいっていますけど、海外進出だといっても、お客さんで行くんじゃないんだと。こっちはマーケットを取りに行くんだからね。向こうは普通、警戒するんだと。

海外で僕が行ったコンサートの1つでも、何千人も入るようなアリーナでのリハーサル中に突然バーンって停電したりする。よその事務所の人は「何やっているんだ」っていって現地スタッフをすごい怒るわけ。でも、そんなの向こうでは当たり前で、電気が毎日あるだけでもありがたいと思わないと、「日本人は細かいし、うるさい」と行く先々で嫌われるわけですよ。

だから、うちのタレントとかマネージャーでも、「ホテルのお湯がでない」って文句をいうやつは連れて行くなと。出ないのが当たり前だと思えばね。実際、どんなに高いホテルに泊まっても出ない時は出ないしね。水すら出ない時もある。だからあまりにも日本的なことはいったん捨てないとね。本来の意味のクールではないということです。

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国内外のミュージカルの収益性の違い

ーー堀社長は、これまで、『デスノート』、『ビリー・エリオット』、『NINAGAWA・マクベス』、『メリー・ポピンズ』など、日本、海外で多くの舞台のプロデューサーを務めて成功に導いていらっしゃいます。今後、黒澤明映画作品『生きる』が舞台化されます。そうした経験から舞台というリアルなエンターテインメント、どのような魅力や可能性を感じていらっしゃいますか。

堀社長:1つはお金です。さっきの『ライオンキング』もそうですけど、『オペラ座の怪人』が30年やっていて、あれで多分日本円でいうと、もう5〜6千億の売り上げになっているはずなんです、世界中で。

日本もそうですけど、あちこちの国でローカルプロダクションをやっていて、ロンドンのロイド・ウエバーのところには、もう遊んでいても、チャリンチャリンとロイヤリティが入ってくるわけです。それが元手になるから次はもっと大きい作品となるわけですよね。

日本の興行は、どんなに頑張っても1か月しかできないわけです。1つのホールをよそも借りたがっているから、最高で1か月までと決まっている。当たっても当たらなくても1か月しかできないわけです。

どんなにヒットしていても1か月で閉めてしまうので、セットなどにかけるお金もすごく小さくなってしまう。だから収益性がものすごく悪い。それでは世界レベルにならないと。

一歩、日本の外へ出るということは、アーティストで例えるとマドンナとか、ポール・マッカートニーと戦っているんだという時に、日本の一番ですといっても、そんなのはただのローカルスターだよね。

同じように舞台でも外国のプロデューサーに、最近、日本にどんどん見に来てもらっているんですけど。これをそのままやるわけじゃないですよと。この台本を一番ミニマムな予算でやったら、このぐらいになる。どうだっていうプレゼンの仕方になる。まあ恥ずかしい話なんですけど。

とにかく当たった時にすごい金額になるというのと、ブロードウェイもウエストエンドも、ハリウッドもそうかもしれないですけど、もうネタがないわけですよ。全部、使い尽くしてしまった。だから、いまは昔の映画を引っ張り出してきているわけですね。プリティウーマンとか、何を今さらってみんな思うようになってきている。

インバウンド市場のための国内劇場の必要性

それと、ブロードウェイもウエストエンドも、別にニューヨーカーやロンドンっ子が、すごい演劇が好きなわけじゃなくて、80%は観光客で成り立っているわけです。日本の演劇界は100%日本に住んでいる人で成り立っている。

日本に今年3千万人以上の観光客が来るといった時に、1千万人、東京を訪れたとしましょう。夜、何も観るものがないわけですよね。アジアの人はジャニーズのコンサートに行きたいけど、すでにファンクラブで売り切れてしまっているし、いつ行ってもやっているショーがないから、たまたま観に行くということは100%あり得ない。

海外から電子チケットを買うことも日本ではできない。でもロンドンの公演なら、明日のチケットも買えるわけですね。そうなった時に、観光客に夜8時から365日やっているショーがないと、ガイドブックには載らないわけで。

それを何とかしようと思った時に、百歩譲って『オベラ座の怪人』を見てくださいでいいんですよ。別に偽物をやっているわけではないし、完全にレプリカをやっているわけで、クオリティはロンドンと全然変わらないわけじゃないですか。

でも、日本人の感覚からすると、『オベラ座の怪人』はやっぱりロンドンに行って観るもので、日本のは観に来ないだろうという発想になる。でも日本人はニューヨークで『オベラ座の怪人』を観ているじゃないかと。ロンドンが本物で、ブロードウェイのは偽物なのかというと違いでしょうと。韓国バージョンも日本人が観に行っている。韓国は3か月ロングランなので、いつ行ってもだいたい観られるんです。

では日本でも『オペラ座の怪人』や『ライオンキング』を観に行きましょうと積極的にやるとか、日本のオリジナルでいったら、漫画原作というのはアジアでは圧倒的に強い。『デスノート』は台湾でもやりましたけど、それも1週間ぐらいで、そのぐらいのマーケットシェアしかないので、1年も2年もできない。だとしたら日本に観に来てもらうインバウンド効果を狙うしかない。

でも、日本人は「言葉が分からないと、あんなのは分からないでしょ」といって、翻訳システムとか、眼鏡をかけてとか…。サービス過多に陥るからまたコストがかかる。僕はアメリカやロンドンに行っても、7割ぐらいは言葉は分からないし、シェークスピアに至っては隣にいたイギリス人でも半分以上分からないといっていて。

ーーおっしゃる通りです。

堀社長:ストーリーが分かって、雰囲気が分かれば何とかなるので、見た目が美しいとか、音楽が美しいとかということだけで成り立っているわけだから、そんなことを気にする必要はないといっているんですけど。それでも、『おもてなし』を過剰にしたがるわけです。そんなことよりチケットを売るほうを考えろと。

だから、どうしてもうちは劇場がほしいし、劇場でいつでもやっている。外国人に人気のあるものをやりたいといって、一の矢が『デスノート』で、二の矢が『生きる』だった。

黒澤明 没後20年記念作品『ミュージカル 生きる』

なぜ『生きる』をやるかというのは、外国の演劇や映画の人たちと話して、自分が観た映画ベスト10は何だという話題で飲みながら盛り上がるわけですよ。その中で、別々の人から、何人も、自分は『生きる』に本当に感動したと。決して日本人へのリップサービスではなく言う。

ある日、担当から『生きる』のミュージカル化はどうですかねって聞かれて、黒澤明は許諾が大変だろうという話だったんですが、許諾が取れて実施の運びとなった。海外の演劇関係者に「今度『生きる』をミュージカルでやる」といったら、観に行く、観に行くと、あちこちの国から観に来ることになっているんです。

作曲家はブロードウェイの人で、これも奇妙な縁なんですけど、その作曲家のお父さんは若いころに『生きる』を7回観たと。それぐらい感動した作品だったとか。だとすると、アメリカ人でもイギリス人でもお金をもっている高齢の人たちが『生きる』を知っているんじゃないかと。というと、なんなくドーバー海峡を渡れそうな気もする。

2.5次元ミュージカルの可能性

ーーミュージカルの中では、インターナショナルの所属アーティストは、どのように活かしていきたいと考えてらっしゃいますか?

堀社長:今のところはミュージカルはミュージカルで、インターナショナルは、アニメを中心とした周辺ということをやろうとしていますが、インターナショナル所属のシンガーが今度の『生きる』に出演しています。

ーーMay’nさんですね。

堀社長:ええ。それが何かきっかけになればとは思ってはいますけど、まずは本業をしっかりやった上で、ひょっとしたら、こちらがやるべきことは、いわゆる2.5次元ミュージカルのようなものじゃないかな。あちらのミュージカルと、こちらのミュージカルは似て非なるものなので、どちらかというと、2.5次元のほうが、アジアではイベント的にテーマパークイベントみたいな感じで盛り上がる。

でも、2.5次元ミュージカルはそのままブロードウェイやウエストエンドではまず公演されないはずなんですよ。彼らにとっては芸術性がないと思われているので『スパイダーマン』のようになってしまう。今度ミュージカルで『キングコング』もやるらしいですけど…。

やっぱり一段下に見られてしまうんですよね。それをこねくり回して、こう、オペラ座の怪人並にミュージカル芸術にしましたって持っていかないと、1年、5年、10年とロングランをやれるような作品にはならないので、これはもう両正面作戦ですね。

ーーなるほど、モンテ・クリスト伯とか、昔は本当に大衆的なエンターテイメントだったんですけど、いまとなっては、ミュージカルになって芸術性があると呼ばれています。それと同じように、そういう作品が芸術性を高めて、ブロードウェイへ持っていけるようなことができたら…

堀社長:そうしたいと。ただ何十年かかるか分からないので。

コミュニケーションに完璧を求めない

ーーホリプロインターナショナルのウェブサイトには英語だけではなく、東南アジア、ヨーロッパやインド、そしてアラビア語までありますが、グローバル戦略についてもう少し詳しくお聞かせいただけますか?

堀社長:多言語対応といっても、あれはGoogleの翻訳なので、ちゃんとしたものではないんですよ。でも、体裁を整えるのに意識がいって、完璧な英語とか、完璧なインド語とか、インド語だって7つも8つもあるわけだし、完璧を期してもしょうがない。だから日本人も英語が話せないわけじゃないですか。僕も結果としてしゃべれないけど、やれ文法だとか、SVOCとか考えているうちに口ごもっちゃう。

意外とそういうのは気にせず、単語の羅列だけでも通じるという。この人(矢田部氏)みたいにね、もうどこの国行っても、「よくお前それで通じるな?」というぐらいのほうが、何というか受け入れられやすいんじゃないかなって。

何かをきっかけにホリプロインターナショナルのホームページに来るわけだから、アーティスト情報以外はいまのところはないし、検索したらホリプロインターナショナルに当たって、見たら日本語ですと。

Googleの翻訳は、すべては正しくないかもしれないけど、興味のある人なら、6割ぐらい分かれば、じゃメール出してみようかなって、で、自分の英語をGoogle翻訳で日本語にしてメールを送ってくる。そういうメールは来ます。それを何とか読解しようとこちらも思うんですよね。

長期の関係構築がチャンスへつながる

だから、最初はそれでいいんじゃないかと。まずはいままで10年間、いろんな子たちが、海外のいろいろフェスティバルに行ったり、自前のコンサートを開いたりとかした。人脈はだいぶ作れてきてはいるので、次はそれをマネタイズする話だと。

でも、どう考えても日本の市場価値とは、まだまだ合わないわけです。行けば行くだけ赤字になる。中国と取引したくても、突然、政治問題が出ると全部ゼロになるリスクも未だに持ったままやらなければいけないというのは、ビジネスとしてはとてもリスクが高いわけです。

リスクが高いからやりませんというのは、さっき申し上げた、失敗しないためには抜群だと思うんですけど、いつまでたってもそれじゃ誰とも知り合うことができない。

会社名に堀って名前がついているので、彼(矢田部氏)が会ってきた人たちとは比較的会っているんですね。なんとか片言でお互いやっているし。向こうもオーナー会社が多い。彼が代わりにあちこち行ったとしても、「堀はどう思ってるんだ」「大丈夫なのか」といったら、「大丈夫だ」と彼がいえばいいけだけの話で。

でも、往々にして日本の担当だと、2年ごとにテレビ局なんかは代わっちゃうので、ビジネスにはなるけども、その延長のフレンドシップには多分なっていないと思うんです。

映画の世界も劇場の世界も、この20年間、僕が会った外国のプレイヤーは代わっていないんですよ。日本は全部代わったんです。20年前の人は1人も残っていない。

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例えば、僕たちはワーナーブラザースジャパンと、よくローカルプロダクションをやりますけど、ワーナーの極東の支配人というのは、いまだに代わっていないし、日本の代表は代わりましたけどね。

ロンドンのミュージカルの日本語版をやる。その担当はやっぱり代わっていないし、代わっていても、ヘッドハンティングされて別の会社でまた同じことをやっているわけです。でも、大本の親分のロイド・ウェバーは代わっていない。マッキントッシュも代わっていないし。

例えば、リンカーンセンターは20年間で初めて担当が代わって、また20年ぐらいやると思うんです。もう、ずっと同じ。これがシンジケーションなのであって、別にフレンドシップを結ぶ必要はないかもしれないけど、シンジケーションは結んでおかないと、いい話が来ないし。こちらの話は、「また担当が代わりました。また担当が代わりました。」で、毎回「はじめまして」では、外国の場合うまくいかないんじゃないかと思います。

だから、彼(矢田部氏)が堀のホリプロの名刺を持って、「いや、僕が決めますよ。大丈夫ですよ」といえば、それでシンジケーションは、まず1回は成立するわけです。その次もどうかなと。彼がジャッジをしていることが正しければいいわけですし、いちいち、それは僕が行かなきゃ何もできないというんだったら、わざわざ、こういう会社にした意味もないし。

20年後の日本のエンタメ業界への投資

まあ、5年、10年というターンはかかります。下手したら20年以上かかるかもしれないけど、その時には日本のマーケットの趨勢(すうせい)が決まっているので、20年経って、今日と変わらなかったら、もう駄目だということだと思う。特にいまの20代の若い人たちのために、インターネットのマーケットと海外マーケットといっているわけで。

別に何もやらないという選択を取るのであれば、何もやらないほうが楽だし、もう、その時には僕らは死んでいるわけだし。でも何となく卒業してしばらくしてみたら学校が廃校になっていたというのはさびしいからさ、というモチベーションでやっているという。

本当にやらなきゃいけないのは、いまの20代の子たちが30代、40代になった時には、人口動態も含めて、もっといまより厳しくなっているはずだし。そのための投資だと思っています。

ーー本日はありがとうございました。

堀社長:いえいえ、抽象的な話ばっかりで申し訳ないです。

『デスノート THE MUSICAL』 オール新キャストで2020年1月上演決定

2015年の初演以来熱狂的な作品ファンを生み出し、『デスノートTHE MUSICAL』は、“デスミュ”として子どもから大人まで楽しめるエンターテインメント作品として愛されています。2017年の再演では海外公演(台中公演)でも大成功をおさめています。

世界が東京に注目をする2020年、オール新キャストでの上演が決定すると同時に、”デスミュ”から世界へ羽ばたける次世代スターを生み出すべく、主演である“夜神月”役の全国オーディション(プロ・アマ問わず)を開催することが発表されました。2020年公演でも海外公演が予定され、ホリプロの新たな挑戦に注目が集まっています。

(c)大場つぐみ・小畑健 / 集英社


[文・構成/grape Japan 編集部 – Ben K. ・ grape 編集部]

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