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「焼いてないのになぜトーストなの?」青森県民のソウルフード『イギリストースト』とは

By - grape編集部  公開:  更新:

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『イギリストースト』って何?

ユニオンジャックに赤と青のラインがデザインされた、まさに「イギリス」なパッケージの『イギリストースト』。でも、イギリスで作られたものではありません。『イギリストースト』を製造しているのは青森県のパンメーカー、工藤パン(@kudopan_aomori)。

テレビ番組でも紹介され、話題となっている『イギリストースト』。青森県民ならその名前を聞いただけで味が蘇ってくる、そんな県民のソウルフードなのです。

どんなパンなのかというと、表面にマーガリンを塗り、グラニュー糖をかけた山型の食パンを2枚合わせたシンプルなもの。

このシンプルなパンがどのようにして青森県民の誰もが知らぬ者がいないほどのソウルフードとなったのか。なぜ「青森」で「イギリス」なのか。『イギリストースト』の謎を紐解いていきます。

『イギリストースト』の始まり〜「青森」で「イギリス」の謎

『イギリストースト』を製造しているのは青森市の『工藤パン』。昭和7年に青森県むつ市の赤川駅前で開業した小さなパン店が始まりでした。そして、戦後もっと多くの人に美味しいパンを届けたいと昭和23年に青森市に移転。現在の株式会社工藤パンを設立したのです。

『イギリストースト』が生まれたのはそれから20年近く経った昭和42年。創業者である工藤半右衛門氏によって考案されました。

きっかけは、工藤パンが創業したむつ市の大湊地区にあった食習慣。この地域では食パンにバターを塗って砂糖をかけて食べるという習慣があったことを参考に、半右衛門さんが山型食パンにマーガリンとグラニュー糖をかけた商品を開発したのです。

工藤パンの那須尚幸さんにお聞きしたところ、パンの厚さには特にこだわり、『イギリストース』を食べる上で一番美味しく食べられるよう研究して決められたとのこと。だから既存の8枚切りなどの厚さには当てはまりません。あえていうなら「8枚切りと10枚切りの中間くらい」です。

もちろん、マーガリン、グラニュー糖の量もバランスに徹底的にこだわっており、なんとマーガリンは『イギリストースト』専用に開発(配合は秘密)。そして、現在でもマーガリンとグラニュー糖の量のバランスは変えていないといいます。

工藤パンの那須さん:
食パンは山型食パンを使用しています。山型食パンは「イギリスパン」とも呼ばれるため、創業者工藤半右衛門社主によって『イギリストースト』と名付けられました。

ただ、トーストしていないのに「トースト」と名付けた理由は、当時の資料がないため定かではないとのこと。「トーストするとさらに美味しく食べられる」という意味が込められているという説があるそうです。

なるほど。「青森」なのに「イギリス」なのは、「イギリスパンを使った商品」だからなのですね。

『イギリストースト』の人気の秘密

では、そんな『イギリストースト』がなぜこんなにも長い間支持されているのか。それは「青森県民が好きな味」にあるようです。

工藤パンの那須さん:
青森県民は甘いものを好む習慣があります。例えば赤飯は全国的にはごま塩などをかけて塩味で食べるのが一般的ですが、青森の特に津軽エリアでは甘い赤飯が食べられているんですよ。

甘い赤飯!「それはもはやデザートでは?」と思いますが、れっきとしたご飯として甘い赤飯が好んで食べられているのだそう。ほかにも、全国的には塩味のものが甘くなっている食べ物があるようで…。

工藤パンの那須さん:
茶碗蒸しも甘いです。通常茶碗蒸しには銀杏が入ることが多いですが、青森では大粒の栗の甘露煮が入っています。「銀杏は邪道」という人もいるくらいです。

塩味の出汁で作られたものしか食べたことのない身としては、試してみたいような怖いような気もしますが、このように甘い赤飯や茶碗蒸しを好む青森県民にとって、『イギリストースト』の甘いグラニュー糖とマーガリン、そして食パンのハーモニーはまさにツボにハマったのかもしれませんね。

というわけで発売当初から人気商品だった『イギリストースト』ですが、さらに青森県内の中学高校の売店でも販売していたため、学生を中心に人気に火がつき、54年ものロングセラーとなったのです。

また、発売当初は一枚の食パンの表面にグラニュー糖とマーガリンを塗っていましたが、昭和51年からはその食パンを2枚にスライスして間に挟むようになり、より食べやすくなりました。

グラニュー糖がかかっていると聞くと、どれほど甘いのかと気になりますよね。実際に食べてみるとじゃりっとしたグラニュー糖とマーガリンがふんわりしたパンとマッチして、思いのほかあっさりとしています。薄い食パン2枚の量ですが、ペロリと食べられてしまいました。

発売からずっと人気の秘密は、この「あっさり」にもあるようです。つまり「甘すぎず、専用のマーガリンがさらっとしていてくどくない」。だから毎日のように食べても全く飽きることがないのです。

工藤パンの那須さん:
そのまま食べても美味しいのですが、「トースト」という名前の通り少し焼くとグラニュー糖とマーガリンは溶け、パンはがクサクになって美味しいですよ。青森ではそのまま派とトースト派は50:50です。

お勧めのトーストにして食べてみると、おっしゃる通りパンがサクサクで中がじゅわ〜。焼かないものとは全く違う食べ物に変身して、これまた美味!そのまま派とトースト派が拮抗するのも頷けます。

『イギリストースト』製造のこだわり

しっとりふわふわ食感のパンと、マーガリンとグラニュー糖のバランスが絶妙なハーモニーを奏でる『イギリストースト』には、製造過程にもこだわりがあります。

2019年からはパン生地に自家製の発酵種ルヴァンを使用し、しっとりとした『イギリストースト』専用の山型食パンを製造しています。そして、2021年7月には生地のさらなるリニューアルを実施。ルヴァン種の量を増やすことなどによって、よりしっとり感が持続するようになりました。

工藤パンの那須さん:
看板商品のリニューアルはかなりチャレンジだったのですが、しっとり感が増して小麦の風味がより感じられると好評をいただいてホッとしています。

また、食パンは切った瞬間から水分が飛んでいくために、製造ラインにも工夫があるとのこと。

工藤パンの那須さん:
食パンの乾燥を防ぐために通常より短い10mの製造ラインで全ての工程を行い、食パンをスライスしてから包装までを2時間半で仕上げています。

歴代で200種類以上!『イギリストースト』のバリエーション

発売当初は定番の味のみだった『イギリストースト』ですが、いつしかいろんな味を開発するように。これまで販売してきた味は200種類以上にもなるそうです。

その中でもネットをざわつかせたのが、2017年に発売した『イギリスフレンチトースト(ピザ風)』。

「イギリス?フランス?イタリア?多国籍すぎる!!」と話題になったのだそう。確かに「イギリスフレンチトースト」と聞くだけでも「ん?」と引っかかるのにさらに「ピザ風」。ざわつくのも当然です。

この『イギリスフレンチトースト(ピザ風)』は、パンの間にピザソースとクリームチーズを挟んでから卵液をまとわせ焼いたもの。「とても人気でバカ売れだった」と那須さん。聞くだけで美味しそうですね。

残念ながら「イギリスフレンチトースト」は現在販売していないのですが、工藤パンでは毎月2種類の新商品を開発、販売。2021年11月現在、販売している種類は10種類にも及びます。

・イギリストースト
・イギリストースト(ブレンドコーヒークリーム)
・イギリストースト(小倉&マーガリン)
・イギリストースト(ザクザクチョコクリーム&ホイップ)
・イギリストースト(焼いもあん&マーガリン)
・イギリストースト(ストロベリー&レアチーズ風味クリーム)
・イギリストースト(ツナサラダ)
・イギリストースト(たまごサラダ)
・スペシャルイギリストースト(もっとジャリまし)
・スペシャルイギリストースト(チョコスプレー&ホイップ)

歴代のイギリストーストはこちら。

「ブレンドコーヒークリーム」と「小倉&マーガリン」「スペシャルイギリストースト もっとジャリまし」は、人気になったために定番化された味。中でも「もっとジャリまし」はお客様のご要望に応えた形で開発されました。グラニュー糖の量を減らしザラメ糖を入れることで、よりジャリっと感が増したスペシャルなイギリストーストです。

これからも毎月、旬の食材や青森の地元の食材をアレンジした様々な味を展開していくとのこと。楽しみですね。

ぜひ青森だけでなく全国でも販売してほしいと思いますが、それは難しいと那須さんはおっしゃいます。

工藤パンの那須さん:
時間が経つごとにどうしてもパンが乾燥してパサついてしまうため、製造日にプラス3日の消費期限を設定しています。でも本当は製造日当日か翌日くらいで食べていただかないと本当の美味しさは味わえません。だから東京より西で販売することは今のところ不可能なんです。

東京のアンテナショップを除いては、青森を含む東北6県でしか手に入らない『イギリストースト』。これはぜひ青森に行って味わうしかありません。コロナ禍でなかなか県を跨ぐ旅行が難しい日が続いていますが、青森に行った際にはぜひ探してみてください。スーパーやコンビニなどの工藤パン取扱店で購入可能です。

工藤パンの那須さん:
青森といえば「りんご」「ねぶた」を思い浮かべる人が多いですが、『イギリストースト』を新たな青森の顔として浸透させていくのがこれからの目標です。


[文/ハラアキコ・構成/grape編集部]

出典
@kudopan_aomori工藤パン公式ウェブサイト

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