【石子と羽男 第10話 感想】その傘は、誰のために差し出すのか?
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Twitterで人気ドラマの感想をつづり注目を集める、まっち棒(@ma_dr__817125)さんのドラマコラム。
2022年7月スタートのテレビドラマ『石子と羽男ーそんなコトで訴えます?ー』(TBS系)の見どころや考察を連載していきます。
「真面目に生きる人々の暮らしを守る『傘』になろう」
石子(有村架純)と羽男(中村倫也)、街の弁護士事務所『潮法律事務所』の最終決戦が幕を開ける。
『石子と羽男』最終話 底力を見せる『潮法律事務所』
不動産投資詐欺に遭った日向理一郎(平田広明)が殺害された事件。何者かが理一郎に『青いライター』で火をつけたという大庭拓(望月歩)の証言をもとに、捜査は続けられていた。
一方、綿郎(さだまさし)が受け持つ不動産詐欺と共通点が多いことから、石子と羽男は理一郎の妻・綾(山本未來)と綿郎の依頼者・高岡(森下能幸)に共同で仲介業者グリーンエステートを訴えることを提案する。
今回のことでまた職を失うことになった大庭だったが、その表情は晴れやかで、綾に声を上げるよう背中を押すなど人一倍張り切っていた。
「いまこそ底力を見せる時」と、事務所を上げて皆で訴訟の準備を進めていく。
しかし綾は、自業自得などとネットで非難され、訴訟を続けることへ恐怖心が芽生えていた。
ネットの興味は刹那的なものだ。だが、大きな声を上げて批判する者たちが作る影に、多くの声が隠れてしまうのが現実だ。
弱気になる綾に、この裁判は続けるべきだと石子は訴えた。
自分を守るためには、声を上げることがまず大事である。綾を救うのは、批判する者じゃなく、「笑っていてほしい」という夫の切なる願いなのだ。
そんな中、何日か連絡がつかなかった綿郎が帰ってくる。綿郎は詐欺につながる証拠を見つけるため、榊原(森本のぶ)が経営するバーの常連となっていた。
そして綿郎が得た情報から、グリーンエステート社長・刀根(坪倉由幸/我が家)と四つ葉ハウジング社長・榊原、さらには投資家の御子神慶次(田中哲司)にも繋がりがあったことが判明。
法律の抜け穴を見事に通った巧妙な不動産投資詐欺の実態が見えてきた。
そして口頭弁論当日。裁判官はまさかの羽男の父・泰助(イッセー尾形)だった。
泰助のプレッシャーもあり、羽男は指摘に対して言い返すことができず、手の震えも再発してしまう。そこにいつも見守ってくれる石子の姿はなかった。
実は石子は、下請けの施工業者と刀根の会話の証拠を持って、法廷に駆け付けるはずだったが、御子神のお付きに証拠を取られ、その際に手を負傷していた。
「あなたにも守りたいものがあるならば」と、必死に説得を試みた末に得た証拠を、石子は簡単に手放さなかった。
違法カジノへの潜入の時にも感じた、危険な状況の中でも貫かれる石子の芯の強さの現れだ。
自分のルールを守ることには妥協せず、人に寄り添うためにできる努力を惜しまない石子の姿勢をずっと見てきた羽男。
そんな石子の強い意志を継ぐ思いで、記憶力を駆使し、証拠を見つけることに奮闘していく。
第1話とは大きく異なる、石子と羽男の2人
そして羽男は御子神の居場所をSNSから突き止め、石子と共に会いに行く。
蒸した煙草を車窓から投げ捨て、悠々と車から降りてきた御子神の言葉は『強者』の語り口だった。
詐欺への加担や証拠を持ち去ったことは全て受け流し、法律は自分を含めた強い人間のために存在し、力の弱い人間が勝つようにはできてないと鼻で笑われる始末。
ついには施工業者も口を閉ざし、打つ手無しとなった羽男達。手がかりの糸を掴めばすぐ切られ、見つければ遮られ…の繰り返しだ。
しかし直ぐ後退りしていた頃の羽男は、もういない。石子も大庭も同じだ。ちょっとした出会いで、遭遇で、彼らの人生は良い方向に大きく変化した。
ここから潮法律事務所の反撃が始まる。
大庭は、拓が書き続けていた『蒼』の文字は、『蒼色』のライターということを伝えるものだったと気づく。その色のライターを持つのは、刀根だ。
そして羽男の姉の検事・優乃(MEGUMI)の巧妙な話術にまんまと乗せられた刀根が、犯行を自白。
あの日理一郎を尾行していた刀根は、自ら命を絶とうとする理一郎に手持ちのライターで火を放ったのだ。
そして不動産投資は御子神が計画したものだということも判明する。綾と高岡の裁判は無事に勝訴。
残るは御子神を追い詰める方法。
そのヒントは、塩崎(おいでやす小田)が連れてきたご近所さんが訴えた『ポイ捨て』だった。
羽男が思い出したのは、御子神が煙草をポイ捨てしている瞬間。それから1ヶ月、大庭と石子と共に、全ての証拠を回収し、自分の真顔と共に写真で収めた。
法の隙間を掻い潜るのならば、強い者が無下にした小さな穴から攻めれば良いのだ。
御子神は廃棄物処理法違反で現行犯逮捕される。たかがポイ捨てだけで自分は負けないと笑う御子神に、石子は物申す。
「力が弱い者も、強い者も、同じ世界で平等に生きてくために必要なルール。法律はそのためにできていくんだと思うんです」
しかし「弱い人間は所詮その程度だ」と御子神に強く返され、後退りする石子。代わりに一歩前に出たのは、羽男だった。
「あなたが弱者と呼ぶ人たちは、強くなりたいって思ってないんじゃないですかね?」
初めての依頼の時、フリーズした羽男に代わり一歩前に出たのは石子だった。それとは逆の構図である。
支え合った時間を思い、胸が熱くなる瞬間だ。
弁護士資格のないパラリーガルの石子。臨機応変さに欠ける頼りない弁護士の羽男。そんな相棒コンビはこれまでお互いの『足りない』を補い合ってきた。
弱い者が群れることは情けないことではない。誰かに頼ることは素敵なことだ。
そして御子神は世間の批判の声を浴び、理事を退任させられる。
たかがポイ捨てだと笑い、切り捨てた小さな中ある、捨てられるべきではない、沢山の人の訴えだった。
羽男が言う通り、権力とは無縁に、ただ普通の日常を送りたいと願う者たちの救いとなるのが法律である。
最終話、特殊詐欺に立ち向かう手立てに、『ポイ捨て』は弱いのかもしれない。
同じように、法律には限界が存在することも、綺麗事だけでは上手くいかないことも描かれてきた。
しかし法律は力の弱い人々が声を上げ、寄り添ってできた歴史だ。
未来を変えるため、まず知ろうとする者、そして一歩踏み出そうとした者に、これからも寄り添いながら変化していくのだ。
簡単に変わらないものもある。だからこそ初めから100%とはいかなくて、変わり始めようとしたその瞬間に価値があることもこの作品が描いたことだ。
暮らしの近くにある問題に直向きに寄り添ってきた作品の最後だからこそ納得する落とし所なのだ。
そして今作で何度も映し出される『足』は、暮らしを守るために歩み出す人の足だろう。
誰かに歩み出すきっかけを与えられるのは、きっと法律だけではない。
そして歩み出すきっかけを与え合った、石子と羽男。
羽男は、父親に重圧をかけられ続けた過去から、自分らしく一歩踏み出すために、ありのままの自分を告白する。
「君は優秀ではない」と厳しい言葉をかけられたが、羽男はその言葉が何よりも嬉しかった。
泰助の「頑張りなさい」は、本当の羽男を認めた暖かい言葉なのだ。ふつうの親子の姿が、確かにそこにあった。
そして石子も。大庭との交際も順調。そして羽男には「これからも俺の隣にいてください」と相棒としてプロポーズされたが、綿郎の後押しも受け、司法試験を受けることを決めていた。
二人前、『爆盛り』以上の相棒弁護士としてこれからも羽男の横にいるために。
迎えた試験当日、交差点で足がすくむ。石子の心に、雨雲がかかる。そんな石子にそっと傘を差し出したのは、羽男だ。
また柱の影に隠れて待ってたように、絶妙なタイミングで表れた相棒は、その雨雲を、その過去が見えないように傘を差し出す。
石子は一歩、また一歩背中を押され、過去を乗り越えていくのだ。
思えばオープニングで石子と羽男が持つ黒い傘の内側は光っていた。それはきっと真面目に生きる人に訪れる、日々の暮らしの幸せなのかもしれない。
確かにずっと晴れていれば傘はいらない。だが、他人には見えずとも、雨に降られている人がいる。小さなトラブルの裏に、大切な暮らしがある。
そしてその傘を使うのは、この作品を見た私たちである。自分が持つ『傘』を誰に差し出しますか?
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[文・構成/grape編集部]