【『ファイトソング』感想・5話】何度でもスタートを切りなおす・ネタバレあり
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Twitterを中心に注目ドラマの感想を独自の視点でつづり人気を博している、かな(@kanadorama)さん。
2022年1月スタートのテレビドラマ『ファイトソング』(TBS系)の見どころを連載していきます。
かなさんがこれまでに書いたコラムは、こちらから読めます。
ドラマとして見ている私たちは、いまが『どの位置』なのか分かって楽しんでいるけれど(ちなみに今は折り返し地点)本来、恋をしている当事者としては、自分が『どの位置』かなんて分からないだろう。
地図もナビもない道で方角を考え、時折現れる案内看板や標識を信じて進んでいくようなものだ。
終わったように思うけど続いたり、続くかと思えば突然終わる。急ブレーキと加速、ままならない車線変更に、時には思いもよらぬ一方通行。
恋愛は地図もナビもない、見知らぬ町での運転みたいなものかもしれない。
ヒロインは、進行性の病気で耳が聞こえなくなる前に素敵な思い出を。
男はもう一度ヒット曲を作って、崖っぷちの一発屋ミュージシャンから脱するために何かときめく経験を。
そうして始まった恋を描く『ファイトソング』(TBS系火曜22時 主演・清原果耶)、5話にして仕切り直し、リスタートである。
落ちぶれたミュージシャン・芦田春樹(間宮祥太朗)は、ヒロイン・木皿花枝(清原果耶)との出会いを経て、数年ぶりにインスピレーションを得て曲を書き上げるものの、その曲はコンペを勝ち抜けなかった。
コンペが終わった以上は恋の真似事も必要ない。ここで一旦、花枝と春樹の関係は解消になってしまう。
これまでも会えない欠落感で自分の感情を意識していく恋なのだが、ついに花枝は自分が失恋したと自覚する。
花枝は恋愛の、いや人間関係の経験自体が希薄なために自分が何を得ているのかの自覚が難しいのだと思う。
得たものの恵みより、失った部分の痛みでようやく気づくというのは、なんだか切ない話である。
今回、春樹の部屋に半ば居候のように出入りしている烏丸薫(東啓介)の過去についても描かれている。
かつて春樹のバンド仲間だった薫は、解散後も曲が作れない春樹につきまとい、時折一方的に高級食材で料理を作っては春樹に食べさせて、その材料代と料理の手間賃と称して春樹に金をせびっている。
春樹も、いつも無造作に万札を取り出しては薫に払っている。
一見、薫が悪人なのか本当に友人なのか微妙なところだが、おそらくそれは友人としての繊細な距離感ではないかと思う。
曲を書けなくなって、いろんなものを失いながらずるずると落ちていく春樹に、依存にも同情にもならない方法で寄り添おうとした時に、お金と食事を介せば、春樹のプライドを傷つけず、より細く長く寄り添えると薫が考えた結果なのではないか。
岡田惠和脚本が描くドラマの登場人物の姿
花枝にずっと片思いしている幼なじみの夏川慎吾(菊池風磨)、花枝を守ろうとしている、同じく幼なじみの凜(藤原さくら)、常に春樹の現状に寄り添って最善を尽くそうとするマネージャーの弓子(栗山千明)。
徐々に花が開くように、二人の周囲の描写も厚みを増してきている。
それは柔らかなガーゼを次々と重ねていくような、いかにも岡田惠和の脚本らしい優しい厚みである。
岡田惠和は、2021年のテレビドラマ『にじいろカルテ』(テレビ朝日系 主演・高畑充希)でも、病を抱えながら生きていくヒロインと、それぞれに欠落を抱えながら生きていく人物群を独特の距離感で描いていた。
岡田の描く病気や人生の欠落は、戦ったり乗り越えるというよりも「ただ傍らにある」「時折のしかかってくるが共存する」、そんな感覚で、今作でも花枝の視野を広げる人物として、中途失聴者である杉野葉子(石田ひかり)を伸びやかに描いている。
人生の途中で何かを失っても、同じくらい別の何かを得ることは出来るし、新しい出会いがあって人生は続いていく。
これもまた、恋愛ドラマの『背景』としてベテラン脚本家が若い世代に向けて描く愛ある発信だと思う。
今週の最後で春樹の曲作りには更にもう少しの猶予が与えられる。
曲作りのための方策なのか、それとも本当に恋愛感情なのか、自分でも分からないままに花枝に再度の交際を申し込もうとする春樹に、ついに慎吾が声をあげて待ったをかける。
恋愛ごっこは、本気で立ち上がった一人の存在で、否応なく『ごっこ』ではいられなくなる。物語の折り返しで、恋は改めて仕切り直しになる。
歌詞で言うなれば、いつだって今が常にスタートライン。
単独走よりも競り合えばタイムは当然荒れるだろう。どんな後半の展開が待っているか、わくわくする。
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[文・構成/grape編集部]
かな
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