【『大奥 Season2』感想10話】 岸井ゆきのと志田彩良が紡ぐ名前を越えた愛情
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SNSを中心に注目ドラマの感想を独自の視点でつづり人気を博している、かな(@kanadorama)さん。
2023年10月スタートのテレビドラマ『大奥 Season2』(NHK)の見どころを連載していきます。
かなさんがこれまでに書いたコラムは、こちらから読めます。
もしも自分が思いもよらない場所で死ぬとしたら、大切な人に、どんな言葉で自分の最期を伝えてほしいだろうか。
自分が死んでからも、いつまでも悲しませたくないなら、なるべく相手に執着を残さない言葉を残すかもしれない。
逆に同じくらい、愛する人の死に目に会えなかったなら、どんな言葉でその人の最期の様子をききたいだろうか。
どんなに思いやりからくる言葉だとしても、それが嘘だとわかるなら、傷ついてでも真実を知りたいのではないか。
和宮(岸井ゆきの)を前に、一度は家茂(志田彩良)の望みどおりに嘘を語り、ためらいの後、家茂と和宮ふたりの為に真実を語りだす側近の能登(中村アン)の気持ちを想った。
告げた真実は、嘘をついてでも和宮を守りたかった家茂の最期の愛を和宮に届けたのである。
※写真はイメージ
男女の役割が逆転した江戸時代を描くNHKドラマ10『大奥』(火曜22時)。
物語は幕末、歴史上名高い皇女和宮の降嫁まできている。
弱体化しつつある幕府の権威を取り戻すべく女将軍・家茂の夫として皇族の和宮が大奥に降嫁するが、やってきたのは男の和宮ではなく、身代わりの姉だった。
身代わりであることを周囲にはひた隠しにしつつ、家茂はその優しさと聡明さで和宮と次第に心を通わせていく。
しかし家族としての二人の穏やかな日々は続かず、開国をめぐる激動の中で家茂は病身を押して上洛することになるのだった。
※写真はイメージ
やはり今回は岸井ゆきのが演じた和宮の、見るものを一気に引き込む強烈な引力に尽きるだろう。
天璋院(福士蒼汰)と同じように、家茂は人の中にある善を信じている。真摯に腹を割って語り合えば、理解し合えると信じている。裏切られたら、それは寛容で包み込む。
対して、和宮は人の醜さや残酷さを常に見据えている。他者に期待はしないが、ごく一部の近しいものには愛情や感謝を持って応じるのは、前将軍の家定(愛希れいか)に似ている。
天璋院と家定、家茂と和宮。それぞれ陰陽の印のように、互いに欠けた部分を補い合い、一つの円となる夫婦なのである。
慶喜(大東駿介)の狡さを「すかんタコ」とバッサリ斬る毒舌の場面も、大阪での家茂の死を知らせに来た瀧山(古川雄大)に対する毅然とした言葉も素晴らしかったが、やはり忘れがたい名場面は、形見の袿と打掛を前にした慟哭だろう。
「まあ、やれ言うんやったらやるけれども」
呟く和宮の目には、そこにいる家茂の姿が見えている。これは彼女にとって愛する人との『会話』なのである。
「前から言おう言おう思てんけど。徳川とか、この国とかそんなん、どうでもようない?そんなんは争うことが大好きな腐れ男どもにやらして。私ら、きれいなもん着てお茶飲んで。カステラ食べてたらそれでようない?」
※写真はイメージ
泣きながら囁いた言葉は、家茂が生きている間は言えなかったのかもしれない。
「上さん」は自分の命よりも国や民衆を大切に想い、苦しむ人を決して見捨てない人だとよくわかっていて、そんな彼女を深く愛していたから、どうでもいいとは決して言えなかった。
「あほやなあ」と和宮らしい憎まれ口は、それが恋愛か、友情か、あるいは家族愛か、そんなカテゴリそのものを溶かしてしまうような、深い愛情に満ちていた。
今回、原作にはない部分でもっとも印象に残ったのは、京に帰ろうかと迷う和宮に、家茂が宸翰(しんかん)を取り出して一緒にいたいと怒る場面である。原作では、この宸翰は家茂の死後に届けられている。
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今回のドラマではその順番を変えることで、家茂の和宮への愛情がよりはっきりとした輪郭をもって、家茂の主体的なものとして描かれている。
更に、互いに相手の服を着て甘い物を食べて楽しもうという家茂の提案もドラマのオリジナルである。
互いの服を交換する思いつきが、まだ年若い家茂の少女らしさの希有な発露でもあるし、同時に私はあなたであり、あなたもまた私であるという一心同体を示唆するかのようでもある。
※写真はイメージ
そして、家茂が能登に語る最後の言葉が「大奥に帰りたい」。
これも原作では「江戸城に帰りたい」であり、その小さな違いが、私人としての家茂の魂が帰る場所を示していて、更に胸が締め付けられた。
ドラマでは原作に加えて、家茂を人間としてより魅力的に見せる工夫があちこちに散りばめられている。
200年の時を描き通してきた豪華絢爛な物語も、ついに次回で幕をおろす。
映像化にあたって、常に原作のエッセンスを余さず汲み上げ、更に『今』に応じたエピソードを加えてきた今作が、最後に私たちの心に何を残すのか。
寂しくもあるが、しっかりと受け止めたい。
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[文・構成/grape編集部]
かな
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