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【『ファーストペンギン!』感想8話】一歩一歩を信じるんだ!・ネタバレあり

By - かな  公開:  更新:

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Twitterを中心に注目ドラマの感想を独自の視点でつづり人気を博している、かな(@kanadorama)さん。

2022年10月スタートのテレビドラマ『ファーストペンギン!』(日本テレビ系)の見どころを連載していきます。

かなさんがこれまでに書いたコラムは、こちらから読めます。

『ファーストペンギン!』(日本テレビ系 水曜22時)を後半まで見続けてきて、この物語は仕事ドラマとして、とても誠実だと何度も感じてきた。

そう思う理由は、おそらくこの物語の微妙に『薄曇り』な感じが、私たちが日々の仕事で感じる色合いに近いからではないかと思う。

何せ主人公が一つ問題を解決しても、同時進行でまた別の問題が続いているし、何か一つ良い結果が得られても、社員は退職するし、めでたしめでたしにもならない。

私たちの現実の仕事の日々もまた、スコンと抜けるように晴れることはほとんどなく、大抵気分は薄曇りか小雨で、どしゃ降りでないだけましだと思って働いている。

終盤にさしかかった今回もまた、主人公・岩崎和佳(奈緒)とさんし船団丸の面々には、しとしとと困難の雨が降りかかっている。

食い詰めたシングルマザーの和佳がたどり着いたのは、山口県のとある漁村、汐ヶ崎。

魚のことは素人なのに、なぜか浜の活力になるような事業を興してほしいと漁師の片岡洋(堤真一)に頼まれ、和佳が考えついたのは混獲魚を中心に直接消費者に通販で届ける『お魚ボックス事業』だった。

しかし、ごくシンプルなはずのそのアイデアは、これまで販路を握っていた漁協の強い反発を招き、和佳とさんし船団丸には次々と嫌がらせや困難がふりかかる。

今回もまた、1千万円を越える網の修理代と漁師達の離反という二重の危機を抱えつつ、対外的には会社として体裁を保っていかねばならない和佳の苦闘と突き抜けぶりが相変わらずリアルだ。

その一方で、和佳の存在がきっかけで漁師に本腰を入れ始めたたくみ(上村侑)と、和佳のママ友の山藤そよ(志田未来)の二人が、留守を守りながらトラブルの原因を突き止めるあたりは、着実に良い方に変化が起きていると実感してホッとする。

仲買人の梨花(ファーストサマーウイカ)も、今では大手を振って和佳たちの力になってくれる。

今作を通じて、当初は魚の知識もほとんどなかった、そして漁に出られるわけでもない和佳が、なぜ社長として漁師たちを束ねていけるのか、その理由がだんだんと見えてきた。

それは彼女が、部下たちにとっての『薄曇り』の労働の日々の中で、いつか来る、抜けるような青空の瞬間、より良い未来を語れる能力を持っているからなのだ。

浜の未来を語る明るい表情、水産の未来を語る力強い言葉。

職能やカリスマ性以上に、希望のある未来を具体的に提示する力があっての社長、『長(おさ)』なのだと思う。

その上で、どんな現場のトラブルにも「何とかするから!」と、やせ我慢を承知で立ち向かう。

このドラマには、現代のリーダーシップとは何なのかという答えのかけらが、たくさん散りばめられている。

今回、漁師たちの離反と、金融機関の貸しはがしという二つの大きな困難を乗り越えた和佳とさんし船団丸だったが、貸しはがしに対抗するためにビジネスコーディネーター・波佐間(小西遼生)の助力を得ることになる。

一見頼りになる存在だが、果たして長期的に見たときに吉と出るかどうか。

そして浜の外部から自分以上に頼りになる男性が入ってきたことで、居場所をなくしたように感じた片岡はひとり浜から姿を消してしまう。

ドラマの当初から、社会の現状に危機感や罪悪感を持ちつつも、しがらみゆえに価値観も行動も変えづらい、片岡のような中年世代の困惑と、それでも半歩ずつの前進を物語は丁寧に描いてきた。

社会に自分の居場所はあるのか、もう本当はどこからも必要とされてはいないのではないか。

価値観が年単位でめまぐるしく変わっていく現代におけるミドルの痛みと困惑に物語は踏み込もうとしている。

そして物語が前回から提示してきている、余裕のなさ故に漁の頻度を増やさざるをえず、それが結果的に水産資源の減少を招き、更に漁獲を減らし未来を先細りさせるという水産の苦境は、少子高齢化の悪循環にあえぐこの国の苦境の縮図のように見える。

物語としての誠実さを維持しながら、抜けた青空のような未来を物語は見せられるかどうか。

最終盤を見守りたい。


[文・構成/grape編集部]

かな

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