【『ファイトソング』感想 最終回】 恋が照らすもの・ネタバレあり
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Twitterを中心に注目ドラマの感想を独自の視点でつづり人気を博している、かな(@kanadorama)さん。
2022年1月スタートのテレビドラマ『ファイトソング』(TBS系)の見どころを連載していきます。
かなさんがこれまでに書いたコラムは、こちらから読めます。
「君を守りたい」っていっても、むしろ相手はずっと競技格闘技をやっていて心身共にタフだったりして、「寂しさを埋めたい」っていっても、むしろ幼いころから一緒にいる家族同然の友人たちに囲まれていて、いきいきと仕事をしていて…。
そんなふうに自立して生きている誰かに恋をしたら、自分が相手にしてあげられることは何だろう。
それでも、恋でなければダメですかというのは、このドラマを通じて最初から投げかけられていたものだと思う。
最初は思い出作りと作曲のためだったけれども、その外枠がなくなったときに、物語は再度問いかける。
それでも恋が必要ですか?
2022年3月15日に大団円で最終回を迎えたファイトソング(TBS系火曜22時 主演・清原果耶)。
最終回は、花枝と春樹(間宮祥太朗)が二年ぶりに再会するところから始まる。
慎吾(菊池風磨)も交えて三人が閉じ込められたエレベーターの中で花枝との再会を喜ぼうとする春樹だが、言葉足らずの果てに花枝を怒らせてしまう。
改めて思う、怒る清原果耶は美しい。怒ったり、何かに疑問をもって考え込む表情は、いつも彼女にしか醸し出せない凜とした誇り高さに満ちている。
そして、このドラマを通して、彼女は二十代前半の女性の数年間を数ヶ月刻みの微妙さをもって演じ分けていた。
大学生の頃の怖いもの知らずの強さも、恋の取り組みを始める前の淀んだ気持ちも、春樹と出会ってからの感情に翻弄される切なさも、手術の後に人生の不条理を受け入れて生きるしなやかさも、全て細かく微調整しながら演じ分けていた。
NHK連続テレビ小説『おかえりモネ』でも痛感したが、清原果耶の媚びのないヒロイン像と、生き方に迷っている男性のラブストーリーはすこぶる相性がいい。
清原果耶は確かな演技力に加えて、演じる相手の魅力をも引き出す希有なヒロインである。
そして、今まではどうしても『当て馬』ポジションの多かった間宮祥太朗の、満を持しての本命恋人役もまた予想以上に魅力的だった。
整った濃いめの容姿だからこそ、どこか浮世離れしてふわふわした男性の役を演じると角がとれてギャップがときめきに化学変化するように思う。
自分の頑なさを春樹に指摘され、いわゆる図星で怒った花枝と会うために、春樹は慎吾に助けを求める。
慎吾は花枝への一生ものの片思いから振られた直後にもかかわらず、その痛みを胸に納めて二人が出会う機会を作る。
失恋した慎吾が、凜(藤原さくら)に話した言葉「花枝が幸せになるっていうことは、俺も幸せになるっていうことなんだよな。花枝の幸せの中には、俺もいる。絶対」が印象的だ。
無条件に人の幸せを願える人は、どうか無条件にその人を愛する人に出会ってほしい。いや、慎吾の場合はもう既に出会っているのだけれど。
慎吾の尽力で花枝と会えた春樹は、花枝への想いを伝えるために精一杯の言葉を尽くす。
「花枝が好きです。今までで、今日が一番好きです。明日はもっと好きになる自信があります」
「そうだ恋ってこれだよなあ」と、心の底が熱くなるセリフである。
未来をもっと良いものに出来るという内なる確信と、自分の感情に対する揺るぎない自信が恋だと思う。
その確信が、強い光源となって相手の人生を照らす。
家族あるいは家族のような存在があって、仕事のやりがいがあって、充実した日々があって、それでも、恋だけが生む光がある。
それは未来がもっと素敵なものになるという希望、独特のまばゆい光である。
こうして春樹と花枝は互いの気持ちを確かめ合い、物語は大団円となるけれども、それぞれの登場人物の迎えた着地も素敵だった。
恋のドアに手をかけた慎吾と凜、絶体絶命の片思いから大逆転の迫(戸次重幸)、春樹の親友として良いときも悪いときも寄り添う薫(東啓介)。
そして、長年の片思いを結局告げずに春樹のマネージャーとしての仕事を全うして旅立っていく弓子(栗山千明)もまた格好いいのである。
人にはいろんな寄り添い方がある。そのどれも肯定して描く、懐の深いラストだった。
ゆるやかに流れる会話や、日常の穏やかな描写が魅力的な岡田惠和の脚本だが、今作もいかにも恋愛ドラマらしい定型に沿った展開ではなくて、ふわりと広がっては縮んだり、さらさら流れては集まりと、柔らかな心地よいテイストのドラマになった。
しかし優しいだけではなくて、岡田脚本には時に日常の裏に潜む暴力や不条理の描写がある。今作のそれは、花枝にふりかかる事故や病気の苦しみだったろうと思う。
容赦なく奪うことがある、確かに生きることは時に無情だけれども、それでも人生は光があふれて美しい。改めてそう感じさせてくれる作品だった。
今は恋に二の足を踏む人も、恋をしている人も、いろんな世代のいろんな人にこの物語が届いていたらいいなと思う。
素敵な恋の物語をありがとうございました。
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[文・構成/grape編集部]
かな
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