【『VIVANT』感想5話】阿部寛演じる野崎の男気が物語に風を通す
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SNSを中心に注目ドラマの感想を独自の視点でつづり人気を博している、かな(@kanadorama)さん。
2023年7月スタートのテレビドラマ『VIVANT』(TBS系)の見どころを連載していきます。
かなさんがこれまでに書いたコラムは、こちらから読めます。
能ある鷹は爪を隠すというけれど、無防備なほどに無能をぎりぎりまで演じきって、数日間生死を共にした相手にも有能さの気配すら感じさせないというのは、相当なことだと思う。
その二面性にリアリティを持たせるのは、柔和な物腰と切れ味鋭い知性、その両方を持ち合わせた堺雅人という役者ならではだろう。
中だるみなど皆無、回を追うごとに評価も視聴率も上がっていく『VIVANT(ヴィヴァン)』(TBS系 日曜21時)。
衝撃の誤送金事件の決着後、舞台は再び中央アジア・バルカへ、そして謎のテロ組織テントを追う展開となった。
丸菱商事からテロ組織へ誤送金を仕組んだ山本(迫田孝也)の死に不審を感じる野崎(阿部寛)は、これが乃木憂助(堺雅人)の仕業だと直感する一方で、凡人にしか見えない乃木が別班の一員であるとは信じかねていた。
一方でいずれ野崎から自分の正体を見抜かれると確信した乃木は、公安より先にテントの幹部・アリ(山中崇)の身柄を押さえるべく相棒の黒須(松坂桃李)とともにバルカへと飛ぶ。
乃木の正体を確かめるためにバルカと日本を往復する野崎と、バルカでアリから組織の情報を得ようと暗躍する乃木、二人の追跡劇が交錯する。
今回、新たに別班の司令・櫻井としてキムラ緑子が登場する。
言葉一つひとつは丁寧だが、やや早口、切り口上で有無を言わせない圧を感じさせるあたり、秘密情報部の幹部として静かな迫力を感じさせる。
そして序盤で執念深く手強い敵として視聴者を震え上がらせたバルカ警察のチンギス(バルサラハガバ・バトボルド)が、野崎の要請で公安に助力することになる。
最初は厳しい表情を見せながらも、野崎の男気やドラム(富栄ドラム)の愛嬌にほだされて尽力する様子は、強敵が味方についてくれる少年漫画の趣きで、見ていて胸が躍った。
このあたりのわくわくする見せ方の匙加減は、やはり日曜劇場の十八番だと思う。
あらゆる証拠を自身の目で確かめた上で、野崎は乃木が別班だと確信する。
一つひとつ、乃木という男が隠していた高い能力を知る度に、野崎は騙された悔しさよりむしろ楽しげな表情を見せていた。
そんな野崎の変わらぬ好漢ぶりが、騙し騙されの緊張の中で一服の清涼剤である。
そして乃木はアリの居場所を突き止め、アリの家族を人質にして容赦ない尋問を始める。
その苛烈な尋問で聞き出したテントのリーダーの正体は、驚くべきものだった。
今回、野崎は乃木の履歴を追って舞鶴、島根と訪ねていく。行く先々の人々はみな穏やかで、垣間見える景色は静謐で美しい。
乃木が日々訪れる神社の佇まいも含めて、湿度と鮮やかさを感じさせる景色は、乃木が言う『美しき我が国』そのものなのだろう。
今回、乃木憂助の出自とテントのリーダーが憂助の父・乃木卓(回想パートは林遣都、現在パートは役所広司)だという重大な事実が二つ判明してもなお、物語の上で謎はまだいくつか残っている。
最たるものの一つは、憂助の父、乃木卓の過去。
たたら製鉄で財をなした名家、産業、文化、武器たる『鉄の一族』から警視庁に入り、警察官になった男がなぜ突然農業支援で中央アジアの小国に向かったのか。
それは果たして純粋な善意であったのかどうか。
そしてバルカに向かった先で何が起き、両親と息子は離散したのか、そして何が乃木卓をテロ組織に向かわせたのか。
そしてもう一つは、別班司令の櫻井がジャミーン(ナンディン・エルデネ・ホンゴルズラ)を『奇跡の少女』と称した言葉。
ここまでに幾つかの場面でジャミーンの父親・アディエルがテントの関係者だったと示唆されているが、ジャミーン自身にも重病を抱えた孤児という以上の何かがあるのかもしれない。
更に今回のラストには初回以来再びテントの指導者ノゴーン・ベキとしての乃木卓と、彼に付き従う青年(二宮和也)が登場する。青年はノゴーン・ベキを「父さん」と呼び、どこかしら淡々とした佇まいである。
会議らしきその場面は、意外にも収支報告から始まる。それはテントという組織の堅固さ、規律の厳しさ、規模の大きさを暗喩するものだろう。
乃木の正体を知った野崎はこの先どう動くか、乃木と野崎の共闘は再びあるのか、そしてジャミーンと薫(二階堂ふみ)に平穏はあるのか。
激しい渦のようなドラマ後半が始まろうとしている。
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[文・構成/grape編集部]
かな
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