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【 『ファイトソング』感想6話】どんな人生でも持っていけるもの・ネタバレあり

By - かな  公開:  更新:

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Twitterを中心に注目ドラマの感想を独自の視点でつづり人気を博している、かな(@kanadorama)さん。

2022年1月スタートのテレビドラマ『ファイトソング』(TBS系)の見どころを連載していきます。

かなさんがこれまでに書いたコラムは、こちらから読めます。

思い出でお腹は満たされないし、思い出は自分の見映えを良くはしてくれない。

思い出で寒さがしのげるわけではないけれど、どうしてそれがほしいと願うんだろう。作り物の思い出でもいいと願うんだろう。そして、そんなヒロインを応援したくなるのだろう。

デートのたびに「いい思い出になる」と笑う花枝(清原果耶)を見ながら思う。

『ファイトソング』(TBS火曜22時 主演・清原果耶)6話目。

進行性の病気で耳の手術を余儀なくされるヒロインは失聴する前に恋の思い出を。落ちぶれた一発屋のミュージシャンの芦田春樹(間宮祥太朗)は、再びヒット曲を作るためにエモーショナルな体験を。

それぞれの目的が一致して、始まった作りものの恋のお話も折り返しの後半である。

偽装恋愛から始まる恋愛ドラマは、昨今の流行でもあり沢山あるけれども、この『ファイトソング』と他の偽装恋愛ものが違う点は、これまでの偽装恋愛ドラマは恋愛や結婚の『形式』だけが最初に必要だが、今作では恋のときめきや情動までも作りものとして求めていることだ。

感情までも繰り込んだ偽装恋愛は、さながらリアリティショーを再度フィクションに折りなおしてドラマにしたような、複雑な入れ子の箱を見ている気分になってくる。

遊園地のデートでも、耳の病気を抱えている花枝はジェットコースターには乗れない。

乗れない理由は明かさずに、春樹ひとりをジェットコースターに送り出し、自分は隣に座っている想像をしながら一人ベンチで待っている。

そんな花枝の切なさと、ひとりぼっちのジェットコースターで、恋人の不在をロールプレイングして感情を学ぶ春樹のときめきが交錯する。

「世界の無理解ってこういうことだって、思った」

さすがにミュージシャンである。春樹が自分の中に得た感情を矢継ぎ早に語る言葉は、豊かで艶やかだ。

だが、春樹のそんな感情の高まりに対して、花枝は引きずられるのを恐れるように半歩引く。

「ありがとうございます。いい、思い出を(頂きました)」

これは恋のまねごとだよと、それとなく知らせる言葉ですっと引いてしまうのである。

確かに一見、木皿花枝はタフなヒロインである。

体育会系で、努力によって自分が更なる高みに到達できると信じている。言い訳はしない。弱さを見せずに一人の力で生きていこうと決めている。

しかし、丁寧に見ていくと、花枝は『硬い』のであって、必ずしも『強い』のではないのだと分かってくる。

病気と手術のことを打ち明ければ、周囲が支えてくれることは分かっている。

でも打ち明けられないのは、打ち明けたあとで関係が変容してしまうのが怖いからだ。この先、ハンデを抱えて誰かの助けが必要であり続ける人生に、覚悟が出来ないからだ。

今回、花枝は幼なじみの夏川慎吾(菊池風磨)から「俺は花枝のことを愛し続ける。守り続けるって決めてんの」と告げられて、そっと抱きしめられているのだが(これがもう本当に胸が詰まるような美しいシーンである)動揺はほとんどしない。

わずかな困惑とともにうつむくだけだ。

その表情に、「ああ既に分かっているんだなあ、慎吾の真剣な気持ちも、おそらく慎吾を好きな凜(藤原さくら)の気持ちも分かっていて、気づかないふりで花枝はかろうじて現状のバランスを取っているんだな」と思う。

大切すぎるものだから、僅かでも変容するのが怖いのだ。

それは養護施設の施設長で、花枝たちの母親のような存在の直美(稲森いずみ)と、直美をそっと見守る理髪店の迫(戸次重幸)も同様だ。

いつも名言めいたことを言いたがる迫が、本当に直美が泣いているときには、ただ見守るだけで何も言わない。この二人もまた、今のお互いの距離が大切すぎて身動きがとれないのだろうと思う。

若い世代の片思いの物語に時折挟まる大人の純愛も、粋で素敵なのである。

仮に花枝が失聴してからも、幼なじみの二人や、生まれ育った養護施設との縁や愛情は続いていくはずだ。それでも他の誰かと作る『思い出』は必要なのかと問い直せば、それはやはり必要なのだろう。

それはきっと、花枝が一度、交通事故で死の淵を覗いたところから繋がっている。

この先どんな人生になっても、死の間際まで自分が望んで持って行けるものは何なのか。

それは楽しかった思い出や、好きな本や、好きな映画や、好きな歌だ。

この先どんな境遇で生きることになったとしても、自分が手放そうと思うまでは誰からも奪われないもの。

花枝は、そんな『財産』を得られるだろうか。そして春樹はそんな財産になる歌をもう一度作れるだろうか。


[文・構成/grape編集部]

かな

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