【『ラストマン』感想5話】福山雅治と大泉洋、それぞれの演技があぶりだす過去の陰影
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Twitterを中心に注目ドラマの感想を独自の視点でつづり人気を博している、かな(@kanadorama)さん。
2023年4月スタートのテレビドラマ『ラストマン』(TBS系)の見どころを連載していきます。
かなさんがこれまでに書いたコラムは、こちらから読めます。
皆実広見(福山雅治)がむごい事件で視力を失ったのが1980年代だとしたら、この10年来に起きた『映え』という価値観の急な高騰は、どうとらえられているのだろう。
これまでのストーリーで、視聴者は皆実という人物が健常者よりよほど慧眼であること、身体的な能力も引けを取らないことを分かっている。
それでもふとした折に、私たちは彼が失ったまま生きている深い淵に気づく。
暗闇の中で静かに煮る肉じゃがに、暗がりで聴いているピアノの音に。
思い出す女性の笑顔は少年の頃に見た母の笑顔だという言葉に。
アメリカから日本の警視庁に交換留学でやってきたのは、全盲のFBI捜査官・皆実広見だった。視覚のハンデなどものともせず、皆実はアテンド役の護道心太朗(大泉洋)をバディとして捜査一課の難事件に挑んでいく。
『ラストマン-全盲の捜査官-』(TBS系 日曜21時)、5話は料理のSNSインフルエンサーをめぐる殺人事件。
卓上に料理を残したまま、人気インフルエンサーが殺害される。
皆実は最初の現場検証で見たテーブルのメニューに違和感を覚え、他の料理インフルエンサーに接触をはかる。
皆実と心太朗は捜査を重ねるにつれ、インフルエンサー間の競争の熾烈さ、そして人気次第で動く金銭の規模を知って驚く。
ひとり被疑者の男が浮かび上がる中、再びインフルエンサーの殺人未遂事件が起こるが、皆実はまだ最初に抱いた違和感を拭えずにいた。
今回も、捜査の最中に「これでまた美味しい料理が食べられる!」と無邪気に語り、心底楽しそうに捜査と美食を並行する皆実の軽やかさは見ていて思わず頬が緩んでしまう。
こういう肩の力が抜けた人たらしの魅力は、福山雅治本人と皆実広見という人物の境界線が重なって滲むようだ。
そして、皆実の享楽的な振る舞いは捜査の一環だと頭では理解しつつも、毎度ハラハラしている心太朗の振り回されっぷりが絶妙な凹凸になっている。
料理をめぐる会話のなかで、皆実は殺人犯として服役中の心太朗の父親の思い出について問いかける。素っ気なくいなす心太朗だが、言いよどむ一瞬を皆実は汲み取ったように見える。
最後に、犯人の青嶌(高梨臨)が連行された後にテーブルに残された料理を心太朗は淡々と食べる。佐久良(吉田羊)に語った「食べ物に罪はないから」という言葉と「しょせん人殺しが作った飯だよ」という二つの言葉が、引き裂かれた父への愛情を滲ませて切なかった。
普段は人に振り回されて愛嬌たっぷりに右往左往している大泉洋が、やさぐれて煤(すす)けた表情の瞬間に、淡い煙のように哀切と色気を放つ。印象に残る一瞬である。
3話目では、芸能人の不倫によるイメージの低下と殺人罪を天秤にかけた結果、捜査が混迷している。
4話目では痴漢や盗撮といった性犯罪に対する性別間の認識の差を丁寧にすくい上げて描いていた。
そして今回の事件では、SNSの中で過剰な承認欲求と利益が人を狂わせる様子を描いている。
従来の価値観が変動して、動機と罪と罰のバランスが崩れている現状を今作はじっと見据えて描いている。
絶対的な価値が見えづらいからこそ、闇の中から迷わず本質をつかみ取る盲目の男に、私たちは惹かれてやまないのだろう。
だが常に他者の本質を見抜いてしまう人生は、生きづらくはないだろうかと思う。
実はバツイチだとあっけらかんと語った皆実の、かつてのパートナーはどんな人物だったのだろうと思った。
事件が解決する時、心太朗は幼い自分を育んだ父の料理を思い出し、そして皆実は母親に置き去りにされても自立して生きようとする少女を励ます。
少女の決意に、両親を失った自分の孤独と苦難の道を重ねたのかもしれない。
食べるということが人を作るとしたら、皆実のそれは開けっぴろげで享楽的で、その一方で評価に容赦はない。
そして心太朗のそれは、複雑な苦味を伴いながらも、突き放すことの出来ない愛着が根底にある。その対比が興味深かった。
今回のラストで、皆実は自身の両親を殺された40年前の事件を調査したいと警察庁次長の護道京吾(上川隆也)に申し出る。
丁寧に応じながらも、京吾の反応はあまり前向きなものではない。
護道家、皆実家、そして心太朗の父。三つの家族を繋ぐ細く長い糸は、果たして後半に向けてどんな模様を描くだろうか。
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[文・構成/grape編集部]
かな
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