耳が桜のカタチの猫たちがご挨拶 知る人ぞ知る『猫島』男木島
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「定時で帰ります」 そのワケに「上司も納得」「いや、早退しよう」「かわいい猫ちゃんが待っているので、定時で帰ります」投稿した写真が、反響を呼んでいます!
猫が暖を取っていた場所が? 動物病院の投稿に「吹いた」「温かいもんね」11月30日、東京都足立区にある大師前どうぶつ病院のXアカウント(@6pikuuOTUnIU9W6)が公開した1枚が、話題になっています。投稿されたのは、院内の事務室と思しき場所で撮影された写真。同院は、写真に「やめれ」というひと言のみを添えていました。病院スタッフの心境がよく分かる光景が、こちら。
香川県・高松市からフェリーで約40分の瀬戸内海に位置する男木島(おぎじま)は、周囲5キロ弱、人口200人に満たない島だが、ある特定の時期、大勢の観光客が一斉に押し寄せる。瀬戸内の島々を会場として開催される「瀬戸内国際芸術祭」の舞台の一つとなっているからだ。2010年から3年に一度開催されている現代アートの国際イベントで、昨年の男木島への来場者は春・夏・秋108日間の開催期間中、5000人以上に上った。
「アートの島」として知られる男木島。港の乗船待合所もご覧の通り=1月27日、香川県高松市の男木島(尾崎修二撮影)
実は「猫島」
そんなアートの島・男木島だが実は古くから知る人ぞ知る〝猫島〟でもある。多いときには住民の数を上回る猫が、島のあちこちを自由気ままに歩き回っていたという。インターネットによるSNSなどの普及に伴い、猫好き旅行者の来島も増加傾向に。
しかし、観光客の過度な給餌行為が猫の増加に拍車をかけ、島の住民からは鳴き声や悪臭などに対する苦情も聞かれるようになった。そして昨年、公益財団法人「どうぶつ基金」(兵庫県芦屋市)による猫たちへの大規模な不妊手術が実施された。
同基金が行うTNRと呼ばれる活動は、Trap(捕獲)・Neuter(不妊手術)・Return(猫を元の場所へ)の頭文字で、飼い主のいない猫に処置を施すことによって猫の増え過ぎに歯止めをかけ「殺処分という最悪の結果をゼロにする」ことを大きな目標に掲げる。
草むらの中をのぞき込むとそこには「さくらねこ」の一団が…=1月27日、香川県高松市の男木島(尾崎修二撮影)
施術後の猫は、再度捕獲され手術されたりすることのないように、見分けをつける目印として、耳の先をV字にカットされ、その形が桜の花びらのように見えることから「さくらねこ」と呼ばれる。かれらは一代限りの命を、人々に見守られながら全うすることになる。同基金の佐上邦久理事長(57)によると、2015年度、全国各地で不妊手術を施した猫は8000頭を超え、16年度にいたっては1万6000頭に上る見込みだという。「TNR後の猫たちは皆、性格が穏やかになり、ケンカも減ります。その結果、ケガや病気のリスクも減少し、寿命も延びます。猫と人の共存のためにも、TNRが現在考えられる最善の策。それも、『すぐやる・ぜんぶやる・続けてやる』の三つを守ることが成功への絶対条件」。佐上理事長は言葉に力を込める。
出来るだけ早く、その場所の全ての猫に不妊手術を行い、捕獲しきれなかった猫や、新たに加わった猫がいることを想定して複数回にわたり実行することで、大きな成果が得られるのだという。
「さくらねこ」となって穏やかな時間を過ごす猫=1月27日、香川県高松市の男木島(尾崎修二撮影)
猫が悪いんじゃない
そもそも、猫が増えすぎてしまうのは、決して猫たちが悪いのではなく、人間による過度の給餌等による繁殖促進や「かわいそうだから」と際限なく受け入れた結果の多頭飼い崩壊などなど…いずれも人間の責任によるところが大きい。その結果が「殺処分」では、あまりにむご過ぎる。
取材当日は数組の観光客が、冬の陽光を浴びながら眠る猫の姿を撮影するなどして楽しんでいた。兵庫県の男性、東京から友人と来た女性、どちらも「(来島の目的は)猫。高松でうどんを食べて、その後は猫を見る島めぐりです」と声をそろえる。
「さくらねこ」となって穏やかな時間を過ごす猫=1月27日、香川県高松市の男木島(尾崎修二撮影)
人と猫の幸せな共存へ
港でしゃがみ込んでカメラを構えていると、漁具の片付けをしていたお年寄りが声をかけてきた。「2月に向けてこれから見頃のスイセンも見ていきなさい。猫もかわいかろうけど、花もきれいだよ」と笑う。
夫の哲夫さん(63)と夫婦で「民宿さくら」を営む女将の大江和美さん(56)は「芸術祭の時期はほぼ満室になります。それ以外だと最近、猫目当てのお客さんが本当に増えました」と話す。TNRの際には獣医やスタッフ、ボランティアらが宿泊したそうで、島の猫について聞くと「(不妊手術後)猫は全体的におとなしくなったように思う。」という答えが返ってきた。
TNRの結果を受け「さくらねこ」となった男木島の猫たちは、将来的にはその数を徐々に減らすことになるかもしれない。だが、今ここにある命の輝きは失われることなく、おだやかに一生を全うするだろう。幸せに生きる権利が島の猫たちには、ある。そしてそれを見守る人たちが、そこにいる。
この時期の男木島を彩るスイセンを背に、カメラ目線でポーズをとってくれた仲良しコンビの猫=1月27日、香川県高松市の男木島(尾崎修二撮影)
「さくらねこ」となって穏やかな時間を過ごす猫=1月27日、香川県高松市の男木島(尾崎修二撮影)
昨年「どうぶつ基金」による大規模な不妊手術が行われた男木島。「さくらねこ」となった猫たちは穏やかな日々を過ごしていた=1月27日、香川県高松市の男木島(尾崎修二撮影)
港のそばで暮らす「さくらねこ」となった猫たち=1月27日、香川県高松市の男木島(尾崎修二撮影)
朝の日差しが降り注ぐ神社の階段は猫たちの集合場所になっていた=1月27日、香川県高松市の男木島(尾崎修二撮影)
猫特集バックナンバー【肉球マニアに捧ぐ】
[産経新聞写真報道局 尾崎修二]
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