「チャレンジするとは、見たことのない世界の扉を開けること」忙しい毎日の中に小さな驚きを
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吉元由美の『ひと・もの・こと』
作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。
たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。
忙しい毎日の中に小さな驚きを
五十の手習い。友人がチェロのレッスンを始めました。週に一度のレッスン。家で、毎日1時間は練習をする。1日出かけて練習できないときは、前の日に2時間練習するそうです。
弦楽器にまったく馴染みがありません。友人の家に遊びにいったとき、お願いして触らせてもらいました。
チェロを挟むように足を広げる。背筋を伸ばし、胸に当て、抱えるようにチェロを安定させる。右手に弓を持ち、弓毛は弦と並行に動かす。
そうして基本の姿勢だけ教えてもらい、トライしてみました。
弓を引いてみると、音は出ますが、どこかひきつったような。気づくと弓毛が90度になっている。そのまま弾くと、弓毛が痛み、場合によっては切れることもあるそうです。弦にピタリと弓をあて、ゆっくりと動かす。深い音が、抱くように支えている私の内から響くように。
そのとき、違う風景が見えたのです。未知のもの触れたときの驚きなのか。ああ、これが新しい扉を開いた時に見える風景なのか。
一瞬のことでしたが、とても清々しい眺めでした。
チャレンジするとは、見たことのない世界の扉を開けること。私が見た清々しい光景は、その世界を垣間見せてくれたのでした。知っていることより、知らないことのほうが遥かに多い世界。それだけ、世界は驚きにあふれているということ。そんな驚きに心を開いていたいと思います。
アメリカの海洋生物学者であるレイチェル・カーソンは、著書『センス・オブ・ワンダー』の中で、すべての子どもたちが持っている神秘さや不思議さに目を見張る感性を持ち続ける大切さについて述べています。そして、感動すること、そしてその感動を分かち合うことが大切であると。
不思議なものを不思議と思う感性。十分に大人になり、インターネットを通してあらゆる情報を手に入れることができる時代になると、何もかも科学や理論で納得する。不思議さに目を見張る感性を失いかけているような気がします。その不思議さの理由をすぐに知りたくなる。現代社会は、急ぎすぎているのです。
チェロを少し触らせてもらい、恐る恐る音を出して見えた風景。それは具体的なイメージの風景ではなく、心の中に広がった未知のものへの憧れなのかもしれません。
忙しい毎日の中に小さな驚きを。それはきっと、忙しさをそっとリセットしてくれる瞬間になるに違いありません。
[文・構成/吉元由美]
吉元由美
作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。
⇒ 吉元由美オフィシャルサイト
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⇒ 単行本「大人の結婚」