「神様なんていない」と思った女性 成人式後、母にいわれた『言葉』にハッ By - grape編集部 公開:2020-09-06 更新:2020-09-06 grape Awardgrape Award 2020grape Award エッセイエッセイ親子親子愛 Share Post LINE はてな コメント ※ 写真はイメージ 2020年5~8月にかけて、ウェブメディア『grape』では、エッセイコンテスト『grape Award 2020』を開催。 『心に響く』と『心に響いた接客』という2つのテーマから作品を募集しました。 『grape Award 2020』心に響くエッセイを募集! 今年は2つのテーマから選べる 今回は、応募作品の中から『神様なんて、いないのに』をご紹介します。 「ああ、早く外に出たいわあ」 表紙に『京都の神社・仏閣巡り』と書かれた本を片手に母がため息交じりに言う。 テレビではどのチャンネルに変えても「マスク売り切れ」「自粛要請」「一人一人の行動にかかっている」等、同じ言葉の繰り返しばかりで息が詰まりそうになる。 この息苦しい感じ…あのときもそうだったな。 今から4年前、私は大学受験を控えた受験生だった。第一志望だった某国立大学は推薦入試、前期入試ともに不合格。周りは次々に進路が決まっていく。 先生からもつい数か月前まで「あなたの成績なら大丈夫」と太鼓判を押されていた私は、いつの間にか取り残された。 ある日、学校から帰宅すると、リビングの上に白い小さな袋が置かれていた。私の存在に気づいた母が「あ、おかえり!」とキラキラした表情で私に言った。「その袋開けてみてよ!」 中に入っていたのは、白いフェルト生地の真ん中に紫色で大きく「守り」と刺繍された手作りのお守りだった。文字の周りにも刺繍やビーズで装飾されていて、なかなかの大作だ。 明らかに手の込んだお守りに思わず見入っていた私に、母はすっぱりと言った。 「みーちゃんの進路、神様は見てくれてるから大丈夫!」 ああ、まただ、と私は思った。何の根拠もない「大丈夫」。どこに行っても突き放されるかのような「大丈夫」…。 重い。苦しい。これまでの失敗が蘇る。でも、母の屈託のない表情を見ると弱音なんて吐けなかった。 不安な気持ちを飲み込み、お守りを握って自分に言い聞かせた。神様が見てくれているのなら今回は違うはず…。 そして挑んだ最後のチャンス、後期入試。 結果は-【不合格】 私は確信した。「神様なんていないんだ」と。 その後、私は結局すべり止めで受験していた私立の大学に入学した。 大学では友達や先生にも恵まれ、忙しいながらも充実した日々を送っていた。 あっという間に時は過ぎ、この日は成人式。雲一つない穏やかな晴天だった。 成人式から帰っても何となく振袖を脱ぐのが惜しかった私は、母の提案で近所の神社に参拝しに行くことに。 着くなり懐かしそうに母は言った。 「ここはよく来たなあ。神様に20年分の感謝を伝えないと!受験の時もお世…」 「受験」という言葉を聞いて、当時無理やり押し込めていた感情が急に膨れ上がってきた。 脳裏に浮かぶのは、不安に押しつぶされそうな自分、どんどん届かないところまで進んでいく同級生たち、そしてすがるような思いで手にしたあのお守り…それなのに…。 「神様なんて、いないのに!」 もう限界だった。あの日から何も信じられなくなっていた。母の影が静かに私のほうを向く。 「神様はちゃんと見ててくれたよ」 顔も上げられない私に、母の声が優しく響く。 「母さんは合格祈願なんてしたこと無い。願ってたのはみーちゃんが幸せやって思える道に進めますようにっていうことだけ。 だから毎日遅くに帰ってきて、友達にも先生にも良くしてもらって、課題に追われながらも楽しそうに大学に行ってる姿を見る度に、受験で明けても暮れても机にかじりついてたあなたのことやっぱり神様は見ててくれたんやなあって…」 当時、周りの目ばかり気にして、失敗するたびにかっこ悪くなっていくような自分が情けなくて、一人ぼっちになるのが怖くて、誰かに認められたいがために頑張っていた自分。 その時は自分のことで必死になって気づいていなかったけれど、そんな私のことをずっと母は見守ってくれていた。こんなにも近くで…。 そして現在。 本から顔を上げて『疫病退散』と書かれたページをこちらに向けて満面の笑みで母が言う。 「自粛期間が明けたらここに行こっか!」 母のキラキラした表情には、つい頷いてしまう。 grape Award 2020 応募作品 テーマ:『心に響くエッセイ』 タイトル:『神様なんて、いないのに』 作者名:山下みのり エッセイコンテスト『grape Award 2020』の審査員が決定! 2017年から続く、一般公募による記事コンテスト『grape Award』。第4回目となる2020年の審査員には、grapeでも人気の漫画『犬と猫どっちも飼ってると毎日たのしい』シリーズでおなじみの漫画家・松本ひで吉さんが決定しました。 さらに『Jupiter』などの作詞を手がけた作詞家でエッセイストの吉元由美さんや、映画化もされた『スマホを落としただけなのに』などで人気を博する小説家の志駕晃さんも審査員として作品を読みます。 心に響く作品として選ばれるのは、どのエピソードでしょうか。結果発表をお楽しみに! 『grape Award 2020』詳細はこちら [構成/grape編集部] 人に貸したプラ容器 返却されたものが?「この手があったか」「マネする!」「人から借りたプラ容器は…」女性の行動に称賛と共感の声! アルファベットを勘で読むと… 小2の解答に「むせまくった」「天才か」ゆか(yukaaa.o31)さんは、小学生の娘さんの『アルファベットの珍解答』をInstagramに投稿。反響を呼んでいます。 Share Post LINE はてな コメント
2020年5~8月にかけて、ウェブメディア『grape』では、エッセイコンテスト『grape Award 2020』を開催。
『心に響く』と『心に響いた接客』という2つのテーマから作品を募集しました。
『grape Award 2020』心に響くエッセイを募集! 今年は2つのテーマから選べる
今回は、応募作品の中から『神様なんて、いないのに』をご紹介します。
「ああ、早く外に出たいわあ」
表紙に『京都の神社・仏閣巡り』と書かれた本を片手に母がため息交じりに言う。
テレビではどのチャンネルに変えても「マスク売り切れ」「自粛要請」「一人一人の行動にかかっている」等、同じ言葉の繰り返しばかりで息が詰まりそうになる。
この息苦しい感じ…あのときもそうだったな。
今から4年前、私は大学受験を控えた受験生だった。第一志望だった某国立大学は推薦入試、前期入試ともに不合格。周りは次々に進路が決まっていく。
先生からもつい数か月前まで「あなたの成績なら大丈夫」と太鼓判を押されていた私は、いつの間にか取り残された。
ある日、学校から帰宅すると、リビングの上に白い小さな袋が置かれていた。私の存在に気づいた母が「あ、おかえり!」とキラキラした表情で私に言った。「その袋開けてみてよ!」
中に入っていたのは、白いフェルト生地の真ん中に紫色で大きく「守り」と刺繍された手作りのお守りだった。文字の周りにも刺繍やビーズで装飾されていて、なかなかの大作だ。
明らかに手の込んだお守りに思わず見入っていた私に、母はすっぱりと言った。
「みーちゃんの進路、神様は見てくれてるから大丈夫!」
ああ、まただ、と私は思った。何の根拠もない「大丈夫」。どこに行っても突き放されるかのような「大丈夫」…。
重い。苦しい。これまでの失敗が蘇る。でも、母の屈託のない表情を見ると弱音なんて吐けなかった。
不安な気持ちを飲み込み、お守りを握って自分に言い聞かせた。神様が見てくれているのなら今回は違うはず…。
そして挑んだ最後のチャンス、後期入試。
結果は-【不合格】
私は確信した。「神様なんていないんだ」と。
その後、私は結局すべり止めで受験していた私立の大学に入学した。
大学では友達や先生にも恵まれ、忙しいながらも充実した日々を送っていた。
あっという間に時は過ぎ、この日は成人式。雲一つない穏やかな晴天だった。
成人式から帰っても何となく振袖を脱ぐのが惜しかった私は、母の提案で近所の神社に参拝しに行くことに。
着くなり懐かしそうに母は言った。
「ここはよく来たなあ。神様に20年分の感謝を伝えないと!受験の時もお世…」
「受験」という言葉を聞いて、当時無理やり押し込めていた感情が急に膨れ上がってきた。
脳裏に浮かぶのは、不安に押しつぶされそうな自分、どんどん届かないところまで進んでいく同級生たち、そしてすがるような思いで手にしたあのお守り…それなのに…。
「神様なんて、いないのに!」
もう限界だった。あの日から何も信じられなくなっていた。母の影が静かに私のほうを向く。
「神様はちゃんと見ててくれたよ」
顔も上げられない私に、母の声が優しく響く。
「母さんは合格祈願なんてしたこと無い。願ってたのはみーちゃんが幸せやって思える道に進めますようにっていうことだけ。
だから毎日遅くに帰ってきて、友達にも先生にも良くしてもらって、課題に追われながらも楽しそうに大学に行ってる姿を見る度に、受験で明けても暮れても机にかじりついてたあなたのことやっぱり神様は見ててくれたんやなあって…」
当時、周りの目ばかり気にして、失敗するたびにかっこ悪くなっていくような自分が情けなくて、一人ぼっちになるのが怖くて、誰かに認められたいがために頑張っていた自分。
その時は自分のことで必死になって気づいていなかったけれど、そんな私のことをずっと母は見守ってくれていた。こんなにも近くで…。
そして現在。
本から顔を上げて『疫病退散』と書かれたページをこちらに向けて満面の笑みで母が言う。
「自粛期間が明けたらここに行こっか!」
母のキラキラした表情には、つい頷いてしまう。
grape Award 2020 応募作品
テーマ:『心に響くエッセイ』
タイトル:『神様なんて、いないのに』
作者名:山下みのり
エッセイコンテスト『grape Award 2020』の審査員が決定!
2017年から続く、一般公募による記事コンテスト『grape Award』。第4回目となる2020年の審査員には、grapeでも人気の漫画『犬と猫どっちも飼ってると毎日たのしい』シリーズでおなじみの漫画家・松本ひで吉さんが決定しました。
さらに『Jupiter』などの作詞を手がけた作詞家でエッセイストの吉元由美さんや、映画化もされた『スマホを落としただけなのに』などで人気を博する小説家の志駕晃さんも審査員として作品を読みます。
心に響く作品として選ばれるのは、どのエピソードでしょうか。結果発表をお楽しみに!
『grape Award 2020』詳細はこちら
[構成/grape編集部]