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困っている人にさっと声をかけ、手を差し伸べる反射力が、世の中を穏やかにするのではないか

By - 吉元 由美  公開:  更新:

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吉元由美の『ひと・もの・こと』

作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。

たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。

手を差し伸べる『反射力』を

先日、マーケットの駐車場に車を停めたときのこと。駐車場は遊歩道の生垣に接しており、左からおじいさんが、右方向からは30代くらいのカップルが歩いてくるのが見えました。

全身が見えるわけではなく、生垣の上に胸から上が見える……という感じでしょうか。すると、突然おじいさんが視界から消えました。転んだのでしょうか。

右側から歩いてきた二人は立ち止まることなく、おじいさんの横を歩いて行ってしまいました。

私はその一部始終を見ていたのですが、一瞬意味がわかりませんでした。おじいさんが目の前で転んだ。

駆け寄ることも、手助けすることもなく通り過ぎていった。それは、とても奇妙な光景でした。

そう言えば、3年前に転んで手首を折ってしまったとき、まわりに何人も人はいたのですが、駆け寄ってくれたのはおじさん一人でした。

抱き起こしてくれ、救急車を呼んでくれました。とても心強かったことを覚えています。とても自分で救急車を呼べるような状態ではなかったですから。

まわりには、ただ無表情に私たちを眺めている人もいました。それもまた奇妙な光景でした。

私はとりあえずティッシュペーパーを持って、おじいさんのところへ行きました。おじいさんはよろよろと自力で立ち上がり、手についた土をはらっていました。

大丈夫ですか?お怪我はないですか?と声をかけると、おじいさんは困った顔をして言いました。

「大丈夫です。いつもつまずいて転んでしまうのです」

91歳の父の姿が重なりました。つい先日、父は転んで肋骨を折ったばかりでした。足が上がっているようで、上がっていない。

老齢になると、イメージと現実の体の動きにずれが出てきます。まだ老齢とまではいかない私も、時々ちぐはぐな体の動きをしていることがあります。

転んだとき、父は誰かに助けてもらっただろうか。戸惑っていなかっただろうか。土をはらうおじいさんを見守りながら、これは他人事ではないと思いました。

困っている人がいることをわかっていながら素通りしたとき、いつも小さな罪悪感を覚えます。道に迷っている人、重い荷物を持って階段を登っているお年寄り……。

さっと手を差し伸べるのは、そんなに難しいことではないでしょう。自分も誰かの助けを必要とすることがある。

他人事は、いつか自分事になるかもしれない。誰かの助けを必要とすることがあるかもしれない。

そんな想像に及ばずとも、考えるまでもなく、さっと声をかけ、手を差し伸べる反射力が、世の中を穏やかにするのではないか。

おじいさんが歩き出す姿に、日頃の反省と共に思いました。

※記事中の写真はすべてイメージ


[文・構成/吉元由美]

吉元由美

作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。
吉元由美オフィシャルサイト
吉元由美Facebookページ
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