「ありがとう」「さよなら」の語源 『言葉』はあなた自身を物語る
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吉元由美の『ひと・もの・こと』
作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。
たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。
「言葉」はあなたを語る
言葉には、その意味の心が宿っている。ニュースなどで何かと『言葉』が話題になっています。不用意な言葉が問題を引き起こします。なぜ不用意な言葉を使ってしまうのか。おそらく、言葉に対する意識が低いからではないかと思います。言葉はその人を、そしてその人の文化を語るのです。
言葉にこもっている心を大切にすると、心が豊かになり、コミュニケーションもまろやかになります。例えば、挨拶の言葉には祈りや感謝がこもっています。「ありがとう」は「有り難う」、有ることが難しいことが有る、ということです。なにひとつあたりまえのことはない。すべてが有り難いこと。このような気持ちで日々の「ありがとう」を伝えてみると、「ありがとう」と口にするたびに清まっていく感じがしてきます。
さまざまな言語の「ありがとう」を調べてみると、どの言語も「あなたを思っています」『恩義』『恩寵』という語源にさかのぼります。考えてみると「ありがとう」という意味の言葉が各言語に存在するというのも、感慨深いものがあります。言葉が生まれたということは、その「心」があり、その「心」を大切に思う心があったということですから。
「いってらっしゃい」には「どうぞ無事に帰ってきますように」という祈りがこめられています。「お帰りなさい」には、「無事に帰ってきてよかった。ありがとうございます」という感謝の気持ちが宿っています。「いただきます」には「命をいただくことへの感謝」「ごちそうさま」には命を支える食事を得られたことへの感謝の気持ちが宿っています。
日々の生活の中で、言葉を味わってみる。家族とかわす会話、職場での会話。丁寧にしてみると、自分の心だけでなく、人間関係も整っていきます。心がざわざわする時には、言葉を丁寧にする。心をこめる。すると心が整い、場のエネルギーも変わるのです。
「さよなら」という言葉には、いまを大切にしようという気持ちがこめられているそうです。「さよなら」の語源を調べてみると、「左様ならば」にさかのぼります。「そうならなければならないならば」という、半ば諦めのような気持ち含まれています。しかしそれは後ろ向きの諦めというよりも、潔さにも似た美しい諦めです。そして、「もしかしたら二度と会えないかもしれない」という思いから、「いまを大切にしよう」という気持ちにつながるのです。「さよなら」という言葉には、自分のことだけでなく、相手を思いやる、祈りにも似た気持ちがこもっているのです。
英語のGood-byeは、「God be with you」、「神と共にありますように」という意味です。言葉の心を大切にするのなら、「バイバイ」といわずに“Good-bye”というのがいいですね。
飛行機が滑走路へ向かう時、整備士さんたちが並んで手を振ります。私はこの光景を見るといつも胸がいっぱいになります。言葉は聞こえてきませんが、それは「いってらっしゃい」と「さよなら」にこめた祈りなのですね。心をこめて、丁寧に。日本語のエネルギーが、世の中をまろやかにしていく。ひとりひとりがその担い手なのです。
作詞家・吉元由美の連載『ひと・もの・こと』バックナンバー
[文・構成/吉元由美]
吉元由美
作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。
⇒ 吉元由美オフィシャルサイト
⇒ 吉元由美Facebookページ
⇒ 単行本「大人の結婚」