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【『大奥』感想7話】仲里依紗、山本耕史、倉科カナ 重厚な演技が紡ぎ出す人生の幸福への問い

By - かな  公開:  更新:

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Twitterを中心に注目ドラマの感想を独自の視点でつづり人気を博している、かな(@kanadorama)さん。

2023年1月スタートのテレビドラマ『大奥』(NHK)の見どころを連載していきます。

かなさんがこれまでに書いたコラムは、こちらから読めます。

溺れかけては浮きを繰り返す苦しい一生だとしても、女将軍は幸せだったのだと願いたい。

若さの怖いもの知らずで、努力すれば何もかも手に入れられると思っていた人生が、懸命に生きて中年期に入って振り返れば、家庭も仕事も人望も、願っていたものの多くは手のひらからこぼれ落ちていた。

自身の身体の衰えに直面しながら、目の前には更に衰えて暮らしのおぼつかない親がいる。

これは誰の人生か。綱吉(仲里依紗)と名乗った女だけではない、誰の身にもおぼえのある、私たちの人生ではないのか。

ドラマ『大奥』を盛り上げる役者陣

圧巻の綱吉編の完結だった。

まずは性的なシーンの描き方も含め、あらゆる点で映像表現が難しかったであろうこの章を、原作のエッセンスを汲み上げ、華麗な映像として完成させた俳優陣と制作に惜しみなく拍手を贈りたい。

幼少期の回想から続いて綱吉が「月のものなど、もうとうに来ておらぬわ」と力なく呟く場面は原作屈指の名場面だが、今回ドラマ化ではそれを綱吉が父・桂昌院(竜雷太)に直接告げ、桂昌院はそれを理解出来ず更に子作りを綱吉に望むという、恐怖すら感じる場面にしていた。

それは人生の大半を大奥で閉じ込められて生きてきた桂昌院の無知なのか、それとも直系の世継ぎが得られないという絶望を受け入れ難い無理解なのかは分からない。

そして綱吉は父の言葉にそれ以上反論はしない。側用人の柳沢吉保(倉科カナ)もまた、綱吉の悲しみを汲むように黙っている。

老父の哀れな誤解をそのままにしたのは、絶とうとしても絶ちきれない娘としての愛着でもあり、諦めと深い絶望でもあるのだと思う。

愛なのか執着なのか、自身でも割り切れない感情を抱えて、もがきながら人は生きていく。

※写真はイメージ

そんな女の人生の終盤に、二つの転機が訪れる。

一つは互いにとって意図せぬもので、家督を継ぐ見込みのない紀州徳川家の三女、信(のぶ)。

身を飾り女として魅力的に見せる必要を感じないと言う大胆な少女は本人も意図せぬまま、初老の女のがんじがらめの人生に多様性という風穴をあける。

自分は美男に興味がないから、美女に興味のない男もいるだろうという少女の発想に驚きながら、その愉快さに綱吉は笑いころげる。

それはこの風穴が自分を救うなにかであったという直感と、同時に「もっと早くこう考えられていれば」という痛恨に見えた。

そして赤穂浪士の討ち入りを契機に民衆からの支持を失い、跡継ぎ問題も解決しないまま自らの生きる意義を見失う綱吉に、右衛門佐(山本耕史)は生きていくということの意味を、体と魂すべてをかけて説く。

「生きるということは、女と男ということは、ただ女の腹に種をつけ子孫を残し、命を繋いでいくことだけではありますまい!」

それは自らを「種なし」と自嘲し、家光と男女として添うことを断念した有功の悲しみを、時代を経て昇華するものであり、同時にその悲哀を抱え込んだ桂昌院が縛り付けた娘、綱吉を解放するものだった。

前回の、一度は抱きしめながらも離れた心の揺れも、今回の激情が溢れ出す情熱的な抱擁も、仲里依紗と山本耕史、円熟期を迎えつつある俳優の体温と深みのある演技はさすがの見応えだった。

※写真はイメージ

右衛門佐の愛を得て、父の呪縛から解放された綱吉は父の意思に反して次の将軍を決め、ようやく真に自分の人生を選び取るが、その自由と引き換えるように待っていたのは右衛門佐との死別だった。

それでも、綱吉は幸福だったと思いたい。

老いて病に苦しみ、朦朧とするその時に、愛した男が迎えにくる夢が見られるならば、その人生は幸福だったと思いたい。

そして「佐が迎えに来たと思った(原作にはないドラマのオリジナルの表現)」と苦しい息で語る綱吉に、最後に最も純粋で残酷な愛情を捧げたのは柳沢吉保だった。

泣きながら綱吉を死なせようとする倉科カナの長い独白は、まさに圧巻の一言である。

その瞬間に彼女の心によぎったのは、ただ一夜の愛で綱吉の心を奪っていった男への嫉妬だったのか、報われぬ哀しみであったか、それとも今死なせればこの人は幸せに逝くだろうという慈愛であったか。

いずれにせよ、やはり人の心はそう簡単に切り分けられなどしないだろう。

原作では、窒息しこときれる瞬間に綱吉の脳裏に浮かぶのは右衛門佐である。

きっと右衛門佐は、綱吉のもとに迎えに来たと思う。

※写真はイメージ

人として望まれたことを何一つ成せなかったと嘆いた綱吉は、しかし自分でも気づかぬ間に次世代への種をまいた。

本来なら自身の領地を持つはずのなかった風変わりで賢い少女に領地を与え、マネジメントの機会を持たせ、為政者として最初のレールに乗せたのである。

綱吉編が終わり、次回から再び物語は吉宗(冨永愛)の時代に戻る。

予告からはオリジナルの要素が多くなっているように予想され、またあの魅力的な吉宗の姿を見られると思うと心が躍る。


[文・構成/grape編集部]

かな

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