女王・卑弥呼はどこにいた? 日本史上最大の謎を『夢分析』で解く小説が登場
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現在から約2千年ほど前に、歴史上の人物である、女王・卑弥呼(ひみこ)がおさめていたとされる、邪馬台国(やまたいこく)。
日本のどこかに存在したとされていますが、実は、正確な場所が分かっていないのをご存じでしょうか。
邪馬台国がどこにあったかをめぐっては、専門家や古代史ファンによって、さまざまな説が展開されてきました。
20年来の古代史ファンで、実力派作家として知られる平岡陽明(ひらおか・ようめい)さんも、その謎に興味を抱いた1人です。
作家の平岡陽明さん
平岡さんは、邪馬台国の謎に迫る、歴史ミステリー小説『眠る邪馬台国―夢見る探偵 高宮アスカ』(中央公論新社)を執筆しました。
2023年3月22日に刊行された同小説は、『夢分析』に絡めて邪馬台国の謎を解くのが特徴。
夢分析とは、人が寝ている間に見た夢の内容から、無意識のうちに何を考えているのかを分析する手法です。
【あらすじ】
新聞社で古代史を担当している、58歳の記者・高宮周二は、亡き妻の夢をひんぱんに見ていた。
ある日、周二は親族の結婚式で、甥のアスカと再会。29歳のアスカは、小さな頃から好奇心の塊で、アメリカで夢と睡眠を研究している。
アスカは、周二の夢を分析する代わりに、『日本史上最大のミステリー』ともいわれる邪馬台国の謎について教えてほしいと、周二に『交換講義』を持ちかけたのだった…。
「邪馬台国の謎は、小説としてずっと書きたかったテーマでした。『構想』というより、『妄想』20年ですね」と語る、平岡さん。
夢分析という新たな切り口から、邪馬台国について描いた作品について、お話をうかがいました。
古代史ファン・平岡陽明が考察 「本当は3倍くらい…」
平岡さんは、小学6年生の頃、邪馬台国について書かれた『魏志倭人伝(ぎしわじんでん)』に触れ、カラフルな情景描写に心惹かれたとのこと。
邪馬台国があったとされる場所については、これまで長い間、さまざまな説がささやかれてきました。
特に有名なのが、現在の奈良県、京都府、大阪府の周辺とする『畿内説』と、中国や朝鮮半島からの距離をふまえた『九州説』の2つ。
しかし、平岡さんによると、「どちらも確たる証拠がないばかりか、『魏志倭人伝』自体が、まるで何かを隠しているかのように、意図的に編集された跡が見られる」とのこと。
そうした謎に対して、古代史に初めて触れる人が読んでも納得できる説を展開するため、平岡さんは2人の登場人物を通して、物語を描くことにしたといいます。
平岡さん:
邪馬台国については、存在自体が曖昧なので、バックグラウンドのある人物を通じて、物語を描くことにしました。
具体的には、周二とアスカの2人による対話形式で、周二が知識を伝え、アスカが読み解いていく。
邪馬台国については、古代史ファンからすると、本当にたくさんの謎が隠されていますが、作品では、あまり深く踏み込まないことにしました。
たとえば、古代日本の歴史書である『日本書紀』や『古事記(こじき)』と照らし合わせると、2人の会話の3倍くらいは語れる話だったりします(笑)
物語全体の鍵を握る『夢』 取り上げたきっかけは
邪馬台国の謎を解く『探偵』役のアスカは、若き天才夢学者という設定ですが、本作における『夢』は、作品全体の鍵を握っています。
平岡さんが解き明かしの手がかりとして『夢』を選んだきっかけは、ある1冊の本でした。
平岡さん:
数年前に、『夢を見るとき脳は―睡眠と夢の謎に迫る科学』(紀伊国屋書店)という本を読んで、夢研究の現在地点に惹かれました。
そこでは、今は流行らなくなった先駆者のフロイトやユングについても、リスペクトや郷愁を持って語られていた。僕も彼らのことは気になっていました。彼らの夢解釈は示唆に富んでいて独創的だから。
『魏志倭人伝』の記述も曖昧な部分が多く、まるで夢のようです。「あ、邪馬台国の謎は夢を解釈するようにアプローチしていけばいいのでは?」と思いました。
小説における『夢』の描写は作者の意図が介在しやすく、1人の読者としては「あまり面白くない手法だ」と感じていた、平岡さん。
ただ、多くの矛盾が含まれている『魏志倭人伝』の内容は、夢を手がかりにして、読み解く甲斐があると感じたそうです。
解き明かされるのは、『邪馬台国の謎』だけでなく…
『眠る邪馬台国』の魅力は、邪馬台国の謎を解き明かす周二とアスカのキャラクターはもちろん、彼らの脇を固める登場人物たちにもあります。
平岡さんによれば、周二の同僚であり、よき理解者でもある里見は、ストーリーの展開に欠かせない存在とのこと。
平岡さん:
執筆中は、リアリティと、キャラクターと、古代史の3要素を、バランスよく楽しめるように心がけました。
最初に、アスカと周二の推理パートから執筆を始めて、第2稿から登場人物についてのパートを書き始めましたが、2人はもちろん、彼らのパートナーたちも、物語を動かしてくれました。
執筆当初は登場する予定がなかった、周二の同僚である里見の存在は重要ですね。世話を焼くのが好きだったり、重要なヒントをくれたりと、大きな役割を担っています。
里見には、僕が過去に出会った人たちの特徴を、少しずつ取り入れていますが、「職場に1人はいそうだな」という、安心感のあるキャラクターになりました(笑)
それぞれ背景を持った登場人物たちによって、邪馬台国を取り囲む数々の謎が、ページを追うごとに解き明かされていく小説『眠る邪馬台国』。
読者をぐいぐいと引き込む文章は、小説に初めて触れる人でも読みやすい内容となっています。
古代史になじみがない人や、苦手意識のある人でも楽しく読める歴史ミステリー小説を、手に取ってみてはいかがでしょうか。
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[文・構成/grape編集部]