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全世代に浸透した「やばい」という言葉から見えてくること 言葉と心はつながっている

By - 吉元 由美  公開:  更新:

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吉元由美の『ひと・もの・こと』

作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。

たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。

「やばい」と「はしたない」から見えてくる

絶対に使うまいと思っている言葉があります。言葉には、その意味の『エネルギー』がこもっていると思いますし、『言霊』という、その言葉が現実となる力があると思っているからです。

心がざわついてくると、荒々しい言葉が口を突いて出る。優しい言葉を使うと、優しい気持ちになる。

反対に、優しい気持ちが優しい言葉を生み出す。そういう意味で、言葉と心は一体なのだと思います。

絶対に使うまいと思っている「やばい」という言葉は、今やすっかり市民権を得ました。若い人たちが使い始めた「やばい」は、すっかり全世代に浸透しました。

いつしかネガティブな意味にも、ポジティブな意味にも使われるようになり、一気に守備範囲を広げました。

「やばい」という言葉は、元々江戸時代の泥棒の隠語と言われています。牢屋の看守のことを『厄場』(やば)と言ったそうです。

泥棒などの悪事を働く者にとって『厄場』は最も関わりたくない相手。悪事がバレそうになったとき、泥棒たちは「やば」と言っていたという。「やばい」というのは、犯罪者たちの隠語だったのです。

ということは、この言葉には、そのようなエネルギーがこもっているわけです。また、や、ば、い、という語感は、ざらっとした、耳触りのよくない感じがします。それもまた、不穏な雰囲気を醸し出します。

言葉は時代によって変わり続ける。それは思いのほか、速いスピードで変化していく。新語も続々と生み出される。

デジタル関係の用語、専門用語、略語‥‥日々、パソコンを使って仕事をし、デジタルの恩恵に預かっている身でも、とてもついていけません。

以前、ミーティングの中で『リスケ』という言葉を初めて聞いたとき、「リスケって誰?」と頭の中がぐるぐるするという調子なのですから。

新しい言葉が生まれ、新しい価値観が生まれていく流れの中で、古いものを否定せずに変化してほしいと思います。

なぜなら、新しいもの、新しい価値観が好ましいとは限らない。失われていく良き価値観もあるのです。例えば、「はしたない」という言葉を最近聞かなくなりました。

私は小さい頃、親から「はしたないことをするのはやめなさい」とよく注意されたものです。「はしたない」とは「品格に欠け見苦しい」「みっともない」という意味です。

「はしたない」という言葉が失われると、その精神性も失われ、はしたないことに対して無自覚になり、はしたないことが広がっていくのです。

「やばい」という言葉の広がりを止めることはできませんし、いつかそれに代わる言葉も登場するでしょう。言葉と心はつながっている。この言葉も感覚としてフィットするのですね。

先日、美容院の大きな鏡に映った弛んだ自分の顔を見て、思わず(やばい)と心の中で思ってしまいました。ああ、やばいってこういうことなんだなと、情けない気づきを得てしまったのでした。

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※記事中の写真はすべてイメージ


[文・構成/吉元由美]

吉元由美

作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。
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