強さというのは外に対して発するものではなく、自分の内に向けるもの
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吉元由美の『ひと・もの・こと』
作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。
たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。
母の強さが教えてくれたこと
母の遺品を整理していて、30年前の母の動画を見つけました。クリスマスの家族での食事会の光景を撮ったもので、クリスマスプレゼントのパジャマを開けている場面です。
母はとても優しく穏やかな表情で、ちょっとはにかみながらリボンをほどいています。そしてスモーキーピンクのパジャマを胸に当て、「似合う?」と。
今の私よりも若い母がそこにいました。当然のことながら母はずいぶんと大人に思えたものです。30歳の私には57歳というのは遠い未来で、その年齢になった自分は想像できませんでした。
それが若さの特権なのかもしれません。だからこそ、恐れることなく無茶なこともやれたのかなあと思います。
母の荷物の中には育児日記もありました。私の夜泣きがひどいのは自分のせいではないか。
「未熟なママでごめんなさいね」「どうしたら泣きやむのか。どこか痛いの?わかってあげられなくて悲しい」自分を責めるような言葉に、母のさまざまな思いがこもっているようで胸がいっぱいになります。
初めての子育てに戸惑っている様子が綴られていますが、母は実に強い人でした。母が大学2年生の時、癌の手術、治療をするために九州から東京に出てきた祖父をひとりで看病しました。
そして余命幾ばくもない祖父はどうしても九州に帰ることを希望し、寝台列車でつれて帰ることになったのです。
母は医師に同行をお願いし、停車駅ごとに交代の医師に待機してもらいました。どうしてこんなことを思いついたのでしょうか。20歳だった母の機転に感服するばかりです。
そしていよいよ祖父の状態は悪くなり、大阪で降りることになります。そのときも駅に救急車に待機してもらい、受け入れ先の病院を手配したのです。
携帯電話もない時代に、どうしてそんなことができたのか。おそらく車掌さんに頼んで連絡をとってもらったのだと思います。
祖父は大阪で亡くなりました。荼毘に付し、遺骨を抱いて祖父が観たがっていた歌舞伎を観て、九州に連れ帰ったのです。
動画の中で穏やかな笑顔を見せていた母は、晩年までさまざまな困難に見舞われました。最後は大病をし身体が不自由になっても、堂々とした母でした。
「生き抜くとはこういうことよ」
意識のなくなった母は光に包まれて、こう全身で伝えているように私には思えました。
強さというのは外に対して発するものではなく、自分の内に向けるもの。それが生きる強さになる。
その言葉を超えたメッセージは、言葉以上に心に響いたのです。
※記事中の写真はすべてイメージ
作詞家・吉元由美の連載『ひと・もの・こと』バックナンバー
[文・構成/吉元由美]
吉元由美
作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。
⇒ 吉元由美オフィシャルサイト
⇒ 吉元由美Facebookページ
⇒ 単行本「大人の結婚」