隣の席の全盲の女性が言った「ありがとうございます」という言葉の深さ
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吉元由美の『ひと・もの・こと』
作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。
たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。
「ありがとうございます」の深さ
新幹線で、全盲の女性と乗り合せました。東京駅を出発し、新横浜の駅に到着する数分前に車内アテンダントさんがやって来て、
「お隣の席に全盲の方が乗っていらっしゃいます。よろしくお願いします」
と、言われました。新横浜に着くと、そのアテンダントさんに手を取られ、その女性はやって来ました。
私が「どうぞ」と席を立つと、その女性は言葉をなぞるように「ありがとうございます」と言って、席につきました。
年は40代くらいでしょうか。バッグの中から水のペットボトルを取り出しひと口、ふた口飲むと、音を立てまいとするかのように、そっとペットボトルを窓際に置きました。
本を読みながら、左側の視界はその女性の動きを捉えていました。それは単に興味があるというのではなく、その慎ましさと密やかさに清らかさが伝わって来たのです。
真っ暗な空間を、視覚障害を持つナビゲーターに案内されて歩く『ダイアログ・イン・ザ・ダーク』という体験型の『エンタテイメント』があります。身体感覚を研ぎ澄ますと共に、内なる感覚も研ぎ澄まされていく。
私が参加した時は床に枯葉が敷き詰められていたのでしょう(それも目で確認できません)、カサッ、カサッと枯葉を踏む音とナビゲーターの「こっちです」という声を頼りに、暗闇の中を歩いていきます。
右前方から声が聞こえたと思えば、次に左前方から声がかかる。人間には見えない存在が瞬間的に移動するように、ナビゲーターは自由にその空間を動きまわります。
その空間には次元の異なった自由のようなものがあったような感じがしたのでした。
以前、神戸で五行詩を書くワークショップに、全盲の女性が参加されました。その方が書いたのは、視力を失う前、最後に見た美しい湖の情景を綴った詩でした。
このワークショップでは、参加者が書いた五行詩を私が手直しをし、すっきりとした形に整えます。その方の詩を手直しすると、「ちょっと違います。そんな感じではないです」と。
最後に見たという情景はその方にとってかけがえのない、永遠の記憶です。その記憶の言葉がどれだけ大事なものか。緊張しました。
「ああ、そうです。そんな風景でした!」
その光景を見ているかのような笑顔でそう言われたとき、心から安堵しました。
「お食事、お済みですか?」
サンドイッチを食べ終えていたので「はい」と答えると、
「お化粧室に行きたいのです」
と、遠慮がちに言われました。私は席を立ち、そっと手を取りました。通路に出ると、その女性は私の肩に手をかけ、「ありがとうございます」と、その言葉をなぞるよう丁寧に言いました。
私が「ありがとうございます」と言っている何倍も、この言葉を言っているのかもしれません。漠とした感覚なのですが、とても尊い何かを感じずにはいられなかった。
それが何だったのか、今もまだうまく言葉にできないでいるのです。
いのちを紡ぐ言葉たち かけがえのないこの世界で
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※記事中の写真はすべてイメージ
作詞家・吉元由美の連載『ひと・もの・こと』バックナンバー
[文・構成/吉元由美]
吉元由美
作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。
⇒ 吉元由美オフィシャルサイト
⇒ 吉元由美Facebookページ
⇒ 単行本「大人の結婚」