父の姿を通して、私もまた自分の人生を見つめている
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吉元由美の『ひと・もの・こと』
作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。
たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。
父、そんなことあんなこと
89歳になる父の日課は、早朝に我が家の犬の散歩がてら、妹の家の植木の世話をすること。
デイサービスの体操に週に二度。日曜日の囲碁クラブ。そして週に一度、友達と小料理屋さんへ。マンションの小さな庭で畑をしているので、夏はトマト、きゅうり、なす、ゴーヤ、オクラなどを作り、冬にはほうれん草、春菊、京菜などの葉物野菜、里芋も作っています。一人では食べきらない野菜は私たちに分けられます。
小さいスペースにも関わらず、どの野菜もどんどん採れる。腰が悪い父は小型の耕運機を買って土を耕し、生ゴミは庭の隅に埋めて肥料を作ります。
手間をかけているからか、毎年豊作。私たちが父の作った野菜を喜んで食べるので、父の畑仕事にも熱が入るのです。
張り合いを持つ。誰かの役に立っているという実感を持つ。高齢者にとって、この二つの実感はとても大切なことだと、父を見ていて気づきました。
冬の朝の散歩は、父にとって負担ではないかと何度も無理をしないように言いました。元々早起きであること、一日、一万歩歩くことを目標にしている父にしてみると、犬の散歩をやめるわけにはいかないのです。そのような話題になると、父は必ずこう言います。
「役に立っていたい」
「自分で役に立つなら、何でも言ってほしい」
父の様子を見つつ、その言葉に甘えて留守番をしてもらったり、夕方の犬の散歩も頼んだりしているのですが、最近は内心ヒヤヒヤしているのが正直なところです。
会話をする、というのも高齢者にとって大切なことです。何でもいいのです。話しかける。会話をする。
現役の頃は気が短く、自分の気に入らないことがあるとすぐに腹を立てる、どちらかというと激しい人でした。9年前に母が大病をし、病院、そして老人ホームでの生活になってからというもの、父は毎日母を見舞い、母が無理難題を言っても腹一つ立てず、淡々と世話を焼いていました。人はこんなにも変容するのだということを、見せられているような感がありました。
また、一員であること、どこかに帰属しているという自覚は、大きな支えとなるのです。その一つのアプローチとして、たわいもないことでも会話する。何度も同じことを言ったりしますが、ときどき初めて聞いたことのようなリアクションを心がけています。
少しずつ、それまで出来ていたことが出来なくなる。高齢者の誰もが恐れていることだと思います。父も口には出しませんが、1日一万歩は歩くという目標を頑なに守ろうとするのは、その怖れの裏返しなのでしょう。高齢の親とどうつきあうか。
「高齢の人たちは、人生の最終章を生きている」
ですから私たちにできることは、それが少しでも心豊かなものになるようにあたたかく、そして注意深く見守ることです。
どうしてもライフスタイルは変わっていく。でも、そんな流れの中にあっても、常に創造的でありたい。父の姿を通して、私もまた自分の人生を見つめているのです。
※記事中の写真はすべてイメージ
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作詞家・吉元由美の連載『ひと・もの・こと』バックナンバー
[文・構成/吉元由美]
吉元由美
作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。
⇒ 吉元由美オフィシャルサイト
⇒ 吉元由美Facebookページ
⇒ 単行本「大人の結婚」