暦、季節の行事を大切にしてきた日本人 師走の忙しさと新年の静寂の変化を味わいたい
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吉元由美の『ひと・もの・こと』
作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。
たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。
「近くて遠きもの」を味わう
昨日から今日に、今日から明日に。日は昇り、日は沈む。天気の違いはあっても、何も変わることはありません。
それなのに私たちはクリスマスを境に自分をせき立てるように歩き、頭の中でさまざまなことを確認しながら『やらなければならないこと』『すませてしまいたいこと』をこなしていく。
日毎、寒さが増していく。ぐるぐる巻きにしたマフラーに顔を埋めるようにし、重そうな買い物袋を持った人たちが行き交う。
年内の仕事をこなしている一方で、クリスマスはどうしようか、プレゼントは? お正月には何を作ろうか。それは100メートル走を自分一人で何レーンも同時に走らなければならない状況(もちろんありえないのですが)のよう。
12月は本当に忙しい。ゆっくり休むことを許してくれません。
しかし考えてみれば、これらは誰に強制されたわけでもない。ゆっくりマイペースに過ごそうと決めてしまえばできるわけで、結局自分を追い込んでいるのは自分なのですね。
行事、イベントに振り回されている。世の中の雰囲気に巻き込まれている。街のイルミネーションや、早々にマーケットに並んだ蒲鉾や伊達巻きに踊らされているのかもしれません。
とはいえ、友達や家族を思って動き回っているということも。忙しさと休息と。何事にもバランスが必要ということを、毎年痛感します。
清少納言の『枕草子』の「近くて遠きもの」(166段)に、次のような言葉があります。
「近くて遠きもの 宮のべの祭。親族の中。鞍馬のつづらをりといふ道。師走のつごもりの日。正月(むつき)のついたちの日ほど」
師走、そして大晦日の喧騒が除夜の鐘と共に消え去り、澄みきった静寂に包まれる。何かが変わるわけでもない今日と明日の間に、これほどの変化を感じるのは、暦、季節の行事を大切にしてきた日本人の感性なのかもしれません。
カウントダウンをし、HAPPY NEW YEAR!と乾杯をする。それも楽しいと思う一方で、忙しさと静寂の変化を味わいたいものです。
また『枕草子』の冒頭「春はあけぼの」に続き、冬についてこのように書かれています。
「冬はつとめて。雪の降りたるはいふべきにもあらず、霜のいとしろきも、またさらでもいと寒きに、火などいそぎおこして、炭もてわたるもいとつきづきし、昼になりて、ぬるくゆるびもていけば、火桶の火もしろき灰がちになりてわろし。」
(口訳)冬は早朝があわれふかい。雪の降っているときの面白さはいうまでもない。霜などがたいへん白く、またそうでなくても、非常に寒い朝、火などをいそいでおこして、炭火を持ってゆくなど、冬の情感にぴったりである。もっとも、昼になって、寒さがやわらいでくると、火鉢の火も白く、灰がちになっている、などというのは、つまらないけど。
平安時代の冬は、さぞ寒かっただろうと思います。寒い冬の、さらに寒い早朝。火鉢に白く灰が溜まって来るのはよろしくないと。フレッシュであることの大切さを説いているのでしょう。
寒さがもたらす美しく新鮮な緊張感。新年の朝も、静寂と共にそうありたいと思います。
いのちを紡ぐ言葉たち かけがえのないこの世界で
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※記事中の写真はすべてイメージ
作詞家・吉元由美の連載『ひと・もの・こと』バックナンバー
[文・構成/吉元由美]
吉元由美
作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。
⇒ 吉元由美オフィシャルサイト
⇒ 吉元由美Facebookページ
⇒ 単行本「大人の結婚」