【『ファイトソング』感想9話】越冬して再び咲く花のように・ネタバレあり
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2022年1月スタートのテレビドラマ『ファイトソング』(TBS系)の見どころを連載していきます。
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日常で手が触れていない物は、意外なほどに早く劣化してしまう。例えばアクセサリー。例えば食器。半年ぶりに取り出してみたら思っていたより随分くすんでいたり、埃が被ったりしていてがっかりしたというのは、よくある話だ。
でも、ヒロインの花枝が手に取るそのぬいぐるみは、まだ日常の中にある。
話しかけた言葉をオウム返しにしてくれるムササビのぬいぐるみは、今は耳が聞こえなくなった彼女の暮らしにはあまり意味を持たないように見えるけれども、ヒロインの手の届く範囲内で、毎日触れては戻されている。
それは、思い出と現在進行形の想いの、境界線を往来しているかのようだ。
病気で将来失聴するヒロイン木皿花枝(清原果耶)と、かつての一発屋で今は曲が作れないミュージシャン芦田春樹(間宮祥太朗)と、花枝に片思いし続けている幼なじみの夏川慎吾(菊池風磨)の三角関係を時にコミカルに、時にセンチメンタルに描いてきた『ファイトソング』(TBS系 火曜22時)。
あと最終回を1話残して終盤である。
前回のラストで、思い出と曲作りのための恋を終わらせて、花枝は聴神経腫瘍の手術を受ける。そこから今回の冒頭で、ストーリーは一気に2年飛ぶ。
淡々と始まるストーリーの中で、手術後に花枝の聴覚がどうなったかは明言されない。
しかし、後ろから走ってくる自転車のベルに気づかずに走っている姿や、一瞬挟み込まれる音のないシーンで、やはり耳は聞こえなくなったのだと分かる。
慎吾も、凜(藤原さくら)も、理髪店の迫(戸次重幸)も、養護施設長の直美(稲森いずみ)も、会話に花枝を交えると少しオーバーアクションになる。
施設の子供たちも、電灯のスイッチや、スマホのアプリを駆使して花枝とコミュニケーションを取っている。
耳の聞こえない存在をごく自然に包み込んで暮らしている様子が微笑ましい。
ちなみに、漫才師を目指す慎吾の後輩二人、ヒデ(若林時英)と俊哉(窪塚愛流)のコミカルさは、同じ岡田惠和脚本のNHK連続テレビ小説『ひよっこ』の漫画家コンビを彷彿とさせる。
どちらの作品でも、屈託がない賑やかなコンビは、物語をまろやかにする、ひとふりの隠し味のようだと思う。
一方、春樹は花枝との別れのあと仕上げた曲で仕事が軌道にのり、今はミュージシャンとして充実した暮らしを送っている。
直美から、「まだ芦田が好きか」と聞かれた花枝は、「会えば春樹は耳が聞こえない自分を哀れむだろうし、それはイヤだ」と真っ先に答える。
関係の非対称を自分に許したくないと思うそのバランスは、自立のヒロイン・木皿花枝らしいのと同時に、彼女の中で春樹への気持ちがまだ枯れてはいないことを示唆しているようだ。
一方、長年花枝への想いを冗談めかして口に出してはいなされてきた慎吾は、ついに本気の告白にこぎつける。
スケッチブックに大きく書いた告白の文字は、消えない真剣さを花枝に伝えるものの、花枝から戻ってきた言葉は自分の長年の無神経さを詫びる言葉で、もうそれだけで成否は決しているのだった。
詫びて泣く花枝に、慎吾がすかさず見せたスケッチブックには『これからも 変わらず よろしくな』の文字で、『俺の恋人になってください』のページのあとに書かれたそれは、断られた時に花枝を傷つけないために準備されたものだった。
一生涯の想いを告げる時にさえ、それが叶わなかったことを想定して、花枝を傷つけまいと周到な準備が出来る慎吾の細やかさに胸が痛む。
慎吾は、養護施設の後輩たちの働く場を作りたいと小さな清掃業の会社を起業して切り盛りしている。きっと楽しいことより苦労がずっと多いだろうけれども、行き届いた良い仕事をするんだろうなと思った。
春樹とはもう会わないつもりで暮らしていた花枝だが、今回のラストで、『ひょん』なきっかけで花枝の消息を探り当てた春樹とばったり会うことになってしまう。
既に自分の障がいを春樹が知っていると気づいた花枝は、思わずその場を逃げ出す。
もう枯れて終わった想いなら、生傷が開いたみたいにうろたえて全力で走って逃げないだろう。
思い出のぬいぐるみは、まだ押し入れの片隅ではなく、彼女の日常の手元にある。
かつて二人で探した恋の要素、『ひょん』なスタートと『心が動く瞬間』はもう既に揃っている。別れはもう、一度だけでいいから、どうか『幸せすぎ』まで二人がたどり着けるといいなと願う。
しかし自立を尊び哀れみをよしとしない女と、言葉が足りない上に、最大の長所である歌という切り札を切れない男のコミュニケーションは果たしてかみ合うのだろうか。
不憫と切なさが大渋滞するラブストーリー。次回、ついに最終回である。
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[文・構成/grape編集部]
かな
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