【『ラストマン』感想 最終話】福山雅治と大泉洋、2人の人たらしの越境と回帰
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Twitterを中心に注目ドラマの感想を独自の視点でつづり人気を博している、かな(@kanadorama)さん。
2023年4月スタートのテレビドラマ『ラストマン』(TBS系)の見どころを連載していきます。
かなさんがこれまでに書いたコラムは、こちらから読めます。
まさにエンターテインメントの醍醐味そのものの、極上の喜怒哀楽がぎっしり詰まった最終話だった。
若い刑事の命が助かったことに喜び、41年前に幸せな家族を引き裂いた男の暴虐に怒り、思わぬラストで笑ってしまった。
だが最終話にこのドラマを名作にしたのは、やはり喜怒哀楽の『哀』。親が子を思う深い愛が41年もの間、真実を霧のように覆い隠した哀しみだった。
これは全盲の男が国境、障がい、組織、あらゆる境界線を軽々と越える物語であり、同時に失われた父と息子二人が、断絶した絆を遠い記憶と縁を辿りながら結び直す物語だったのだ。
アメリカから警視庁の日米交換留学でやってきたのは、全盲のFBI捜査官・皆実広見(福山雅治)だった。皆実はアテンド役の護道心太朗(大泉洋)をバディとして、捜査一課の難事件に次々と挑んでいく。
しかし皆実が日本にやってきて、心太朗をバディに指名した本当の理由は、自分が失明するきっかけになった41年前の強盗殺人事件の真実を知るためだった。
二人は捜査を進めるが、関係者が殺害され、ともに事件を追っていた心太朗の甥の泉(永瀬廉)が刺され、不穏な動きが襲いかかる。
ここまでにも、ドラマの中で絶妙な『点』があちこちに置かれていた。
心太朗の父・鎌田國士(津田健次郎)は冤罪ではないか、皆実と心太朗は実は血縁ではないか、冤罪には心太朗の養父・護道清二(寺尾聰)が関わっているのではないか。
それらの結果はどれも私たち視聴者の『予想通り』ではあったけれども、その深層にあった因果ははるかに予想を超えていた。
しかし思えば、ドラマが始まってからずっと一話完結のエピソードの中で、それらの芽はあったように思う。
冤罪とメディアを描く2話(女性連続殺人)、罪と失うもののバランスを問う3話(俳優殺人)。
料理や食がどれだけ人生の反映であるかの5話(インフルエンサー殺人)、親は子のためにどんな犠牲をも負うと描く6話(別荘立てこもり)、そして男女の真実は傍目には分からないと描いた7話(後妻業殺人)。
そして幾つかの事件が、一見組織的な犯罪や政治的な主張の動機に見えて、実はもっと人の身体に近い情動的な動機で起きたものだという描き方も、どれも41年前の『はじまりの事件』の反影のようだ。
41年前の真実を描き出したラスト30分余は、まるで映画1本分のような濃密さだった。
息子たちの為に自らの人生をなげうつ鎌田國士の悲哀を演じた津田健次郎も、運命に翻弄される薄幸の女を演じた相武紗季も、悪辣な男を振り切って演じた要潤も、大義と正義の間で苦悩する若き日の護道清二を演じた奥野瑛太も、がっぷり四つの見事な演技だった。
刑事として背中を追い続けた父を逮捕することが、その教育と愛情に報いる最上の方法に決着する清二と心太朗、そして清二と京吾(上川隆也)の父と子のありようが切なくつらい。
40年近く、幼い心太朗が作った肩たたき券を大切に持っていたというエピソードが、護道清二という人物に苦く複雑な味わいを残している。
そして自らは死の際にありながら、既に中年といっていい年齢の息子を「腹が減っていないか」と案ずる鎌田國士の言葉が圧巻だ。
どんなに親子のありようが複雑にねじれ、ぼろぼろになろうとも、我が子が空腹ならばきちんと食べさせたいと思う親の願い以上に正しいものはないだろう。
親として根源的なその問いかけに、私たちは幸せに生きてきましたと、子として根源的な言葉で皆実が応じることで、哀しい父と兄弟の物語は、深い悲しみと淡い幸福で幕を閉じた。
張り詰めた最終話の中でも、皆実の人たらしと振り回される心太朗の魅力は健在で、中でも捜査に来た料亭に芸者を呼んで、楽しそうに踊る皆実と呆れつつキレキレの突っ込みを入れる心太朗の場面は、福山雅治・大泉洋ならではの楽しさだった。
芸者と遊んでも少しも下品にならず愛おしい福山雅治と、思わず尻文字に合わせて首を振りつつも矢継ぎ早に突っ込む大泉洋の可笑しさに、本当にこの二人のバディを見られた三ヶ月、楽しかったと感慨深かった。
吾妻(今田美桜)への想いが空振り中だった泉は、ようやく二人の食事にこぎつける。
しかしどうやらまだデートではないようで、それでも半歩、確かに前進。
佐久良(吉田羊)と心太朗は、互いに素直になれないが「私が好きな護道心太朗はそんなふぬけじゃない!」、佐久良の叱咤は『好きだった』の過去形じゃなくて現在形ということで、こちらも多分、半歩前進。
そしてバディであり兄弟でもある二人は、互いの舌に残る肉じゃがの記憶で、幼すぎて覚えていない家族団らんの時間に想いを馳せる。
母の味の肉じゃがを、赤子だったはずの弟は覚えていた。それが今は亡くなり、言葉も聞けない両親の幸福を信じる確かな手がかりとして残る。
2話、盲目の兄が薄暗いホテルの部屋で肉じゃがを煮ていた時、偶然に弟が魚を持って訪ねてきた。それは、義父から釣った魚を持たされたからだった。
幸せを信じる手がかりは、幾つかの偶然の連なりがもたらした。
繰り返し連なり、重なり合うカノンの音色のように。
それにしても、涙で湿った視聴者の頬を皆実の『ではまた来週』の一発で笑わせて乾かす最後のオチまでつくづく見事だった。
今作恒例のラストにタイトルが出たあとの一言、最終回は先に皆実の言葉を撮り、対する心太朗の返答は別撮りで、大泉のアドリブだったとのこと。
ものまね混じりのぼやきが、まさに大泉洋の真骨頂である。
人たらしの男に散々振り回されつつも、尽きぬ親愛がにじみ出た、護道心太朗の言葉であり大泉洋本人の言葉でもある。
いつもにこやかな皆実広見も人たらしだが、日々渋い顔でぼやきながら、それが愛おしい護道心太朗もまた、同じくらい人たらしだと思う。
こんな素敵なバディを短期間で解散させてしまうなんて勿体ない。
視聴者も思っているし、きっとデボラも、エージェントの彼女もそう思っているだろう。
また会える日を楽しみにしている。
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[文・構成/grape編集部]
かな
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