【『インビジブル』感想 最終話】濁った霧の晴れるとき By - かな 公開:2022-06-21 更新:2022-06-21 かなインビジブルドラマコラム柴咲コウ桐谷健太高橋一生 Share Post LINE はてな コメント Twitterを中心に注目ドラマの感想を独自の視点でつづり人気を博している、かな(@kanadorama)さん。 2022年4月スタートのテレビドラマ『インビジブル』(TBS系)の見どころを連載していきます。 かなさんがこれまでに書いたコラムは、こちらから読めます。 捜査一課長の犬飼(原田泰造)が不審死したとき、キリコは「私がここに来たせいで」と青ざめて言った。 犯罪コーディネーターとして暴走しようとしている弟を止めたい一心で警察に協力を名乗り出たキリコ。 一人の信頼できる刑事と協力しあって、それで解決した事件も何件かあったけれども、目立つその動きがキリコの弟・キリヒト(永山絢斗)の更なる犯罪を誘発もした。 絡み合う価値観の中で何が最善で何が間違いだったのか。霧の中を飛び、時に落下し、這い上がり、問い続けた物語もいよいよ着地の時である。 画像を見る(全8枚) 裏社会の犯罪コーディネーター・インビジブルとして生きてきた女、キリコ(柴咲コウ)と、実直で無骨者の刑事・志村貴文(高橋一生)。二人のバディを描く『インビジブル』(TBS系金曜22時)。 先週のラストで、キリヒトと連携してインビジブルの凶悪化を招いている警察内の内通者『リーパー』の正体がついに監察官の猿渡紳一郎(桐谷健太)であると明らかになった。 猿渡はキリコを庇おうとしたキリヒトを銃で殺害し、更にキリコと志村に一連の事件の濡れ衣を着せて捜査一課に捜査の指示を出す。 なんといってもこの最終回、ドラマを盛り上げた一番の立役者は、代々の警察官一家に育ちながら素顔はサイコパスの凶悪犯罪者である、リーパーこと猿渡を演じた桐谷健太だろう。 これまでも監察官として作品のトーンに絶妙に沈み込んだ演技は見応えがあったが、今回、一転して志村に執着する狂気を爆発させた演技に度肝を抜かれた視聴者は多かったと思う。 もはや執着を超えて恋慕を感じるほどのサディスティックな表情は、いわゆる『兄貴キャラ』では到底収まりきれない、桐谷健太の俳優としてのこれからの大きな可能性を感じさせるものだった。 結果としてキリコと志村は猿渡の罠を振り切り、その正体を暴いて逮捕することに成功する。 その糸口となった同僚の磯ヶ谷(有岡大貴)と五十嵐(堀田茜)との会話で「俺たちは何を信じればいいんですか」と困惑する磯ヶ谷に、当前のように『俺を信じろ』とは言わず、「俺は自分の正義を信じてる。お前らは、どうだ」と静かに問いかける言葉が、志村貴文という刑事を、いやこの作品そのものを象徴しているようで印象深かった。 そして、最後に自らの信念をかけ、キリコを挟んで対峙する志村と猿渡に決着をつけたのは、それまでずっと封じられてきた志村の射撃だった。 これまでは志村の射撃は下手で危険だから所持が許されていないと噂されていたものが、実は上手すぎて躊躇がない分、激高しやすい志村の性格では危険だという理由で禁じられていたということが、オセロの白黒のように明らかになる。 それは善悪、そして見えているものと見えていないものの鮮やかな逆転であり、『インビジブル』というタイトルにふさわしい仕掛けだった。 端正な射撃シーンも素晴らしいが、個人的に高橋一生はこれまでの銃を使わない体当たりのアクションも非常に見応えがあったと思う。 それは格闘として華やかな、形で目を惹くアクションシーンではなかったけれども、ストーリーの中で切れ目なく動きに入っていく独特のスピード感があった。 昭和から刑事ドラマを見続けている知人は、その高橋一生のアクションを「古き良き時代の刑事ドラマのような、いい泥臭さのあるアクション」と称した。なるほどと思ったものである。 きれいはきたない。きたないは、きれい。 志村貴文という男の実直さが、サイコパスの連続殺人鬼を惹きつけ、同じように縋ってでも家族を救いたいと願った裏社会で生きる女を引き寄せ、幾つもの事件を巻き込んだ果てに、濁った霧の夜は晴れて一旦は終焉を迎える。 失われた命もあるから、何が最善だったかはわからない。 だからこそ、自分の正義を信じる気持ちがなければ、志村もキリコも前には進めないのだろう。 ラストシーンで志村の横からキリコは姿を消しているが、これは物理的に距離が離れていても二人の信頼が変わらないことの暗喩(あんゆ)だと思いたい。 恋をする前提でも、家族でもない異性のバディを描く仕事系のドラマは、次期のドラマにも数本見られ、この先しばらくトレンドになるのではないかと思う。 そんな流れの中でも、刑事と犯罪者という異性バディは相当異色ではあるけれど、演者の熱演もあって、その信頼感には揺るぎないものがあった。 楽しかった三ヶ月間の視聴に、心から感謝したい。 この記事の画像(全8枚) ドラマコラムの一覧はこちら [文・構成/grape編集部] かな Twitterを中心に注目ドラマの感想を独自の視点でつづり人気を博している。 ⇒ かなさんのコラムはこちら 快挙を成し遂げた狩野英孝、帰国便の搭乗券をよく見ると… 「さすがJAL」の声ホノルルマラソンから帰国する狩野英孝さんに、JALが用意したサプライズとは…。 ロケで出会う人を「お母さん」と呼ぶのは気になる ウイカが決めている呼び方とは?タレントがロケで街中の人を呼ぶ時の「お母さん」「お父さん」に違和感…。ファーストサマーウイカさんが実践している呼び方とは。 Share Post LINE はてな コメント
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2022年4月スタートのテレビドラマ『インビジブル』(TBS系)の見どころを連載していきます。
かなさんがこれまでに書いたコラムは、こちらから読めます。
捜査一課長の犬飼(原田泰造)が不審死したとき、キリコは「私がここに来たせいで」と青ざめて言った。
犯罪コーディネーターとして暴走しようとしている弟を止めたい一心で警察に協力を名乗り出たキリコ。
一人の信頼できる刑事と協力しあって、それで解決した事件も何件かあったけれども、目立つその動きがキリコの弟・キリヒト(永山絢斗)の更なる犯罪を誘発もした。
絡み合う価値観の中で何が最善で何が間違いだったのか。霧の中を飛び、時に落下し、這い上がり、問い続けた物語もいよいよ着地の時である。
裏社会の犯罪コーディネーター・インビジブルとして生きてきた女、キリコ(柴咲コウ)と、実直で無骨者の刑事・志村貴文(高橋一生)。二人のバディを描く『インビジブル』(TBS系金曜22時)。
先週のラストで、キリヒトと連携してインビジブルの凶悪化を招いている警察内の内通者『リーパー』の正体がついに監察官の猿渡紳一郎(桐谷健太)であると明らかになった。
猿渡はキリコを庇おうとしたキリヒトを銃で殺害し、更にキリコと志村に一連の事件の濡れ衣を着せて捜査一課に捜査の指示を出す。
なんといってもこの最終回、ドラマを盛り上げた一番の立役者は、代々の警察官一家に育ちながら素顔はサイコパスの凶悪犯罪者である、リーパーこと猿渡を演じた桐谷健太だろう。
これまでも監察官として作品のトーンに絶妙に沈み込んだ演技は見応えがあったが、今回、一転して志村に執着する狂気を爆発させた演技に度肝を抜かれた視聴者は多かったと思う。
もはや執着を超えて恋慕を感じるほどのサディスティックな表情は、いわゆる『兄貴キャラ』では到底収まりきれない、桐谷健太の俳優としてのこれからの大きな可能性を感じさせるものだった。
結果としてキリコと志村は猿渡の罠を振り切り、その正体を暴いて逮捕することに成功する。
その糸口となった同僚の磯ヶ谷(有岡大貴)と五十嵐(堀田茜)との会話で「俺たちは何を信じればいいんですか」と困惑する磯ヶ谷に、当前のように『俺を信じろ』とは言わず、「俺は自分の正義を信じてる。お前らは、どうだ」と静かに問いかける言葉が、志村貴文という刑事を、いやこの作品そのものを象徴しているようで印象深かった。
そして、最後に自らの信念をかけ、キリコを挟んで対峙する志村と猿渡に決着をつけたのは、それまでずっと封じられてきた志村の射撃だった。
これまでは志村の射撃は下手で危険だから所持が許されていないと噂されていたものが、実は上手すぎて躊躇がない分、激高しやすい志村の性格では危険だという理由で禁じられていたということが、オセロの白黒のように明らかになる。
それは善悪、そして見えているものと見えていないものの鮮やかな逆転であり、『インビジブル』というタイトルにふさわしい仕掛けだった。
端正な射撃シーンも素晴らしいが、個人的に高橋一生はこれまでの銃を使わない体当たりのアクションも非常に見応えがあったと思う。
それは格闘として華やかな、形で目を惹くアクションシーンではなかったけれども、ストーリーの中で切れ目なく動きに入っていく独特のスピード感があった。
昭和から刑事ドラマを見続けている知人は、その高橋一生のアクションを「古き良き時代の刑事ドラマのような、いい泥臭さのあるアクション」と称した。なるほどと思ったものである。
きれいはきたない。きたないは、きれい。
志村貴文という男の実直さが、サイコパスの連続殺人鬼を惹きつけ、同じように縋ってでも家族を救いたいと願った裏社会で生きる女を引き寄せ、幾つもの事件を巻き込んだ果てに、濁った霧の夜は晴れて一旦は終焉を迎える。
失われた命もあるから、何が最善だったかはわからない。
だからこそ、自分の正義を信じる気持ちがなければ、志村もキリコも前には進めないのだろう。
ラストシーンで志村の横からキリコは姿を消しているが、これは物理的に距離が離れていても二人の信頼が変わらないことの暗喩(あんゆ)だと思いたい。
恋をする前提でも、家族でもない異性のバディを描く仕事系のドラマは、次期のドラマにも数本見られ、この先しばらくトレンドになるのではないかと思う。
そんな流れの中でも、刑事と犯罪者という異性バディは相当異色ではあるけれど、演者の熱演もあって、その信頼感には揺るぎないものがあった。
楽しかった三ヶ月間の視聴に、心から感謝したい。
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