【エルピス 第1話 感想】覚悟を十二分に感じる第1話 意味深なEDにも注目
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Twitterで人気ドラマの感想をつづり注目を集める、まっち棒(@ma_dr__817125)さんのドラマコラム。
2022年10月スタートのテレビドラマ『エルピス—希望、あるいは災い—』(フジテレビ系)の見どころや考察を連載していきます。
『エルピス』とは古代ギリシャ語の中で『厄災をもたらすパンドラの箱』として残されてきたものだ。
そしてそれは、良き予測としての『希望』と悪き予測としての『災いの予兆』という二つの側面を持つ言葉として位置付けられてきた。
誰も触れられない『パンドラの箱』を開けた彼らに待ち受ける、希望と絶望とは。
スキャンダルで立場を追われた女子アナが行き着いた『墓場』
時は2018年。大手テレビ局・大洋テレビに万年低視聴率を記録し『制作者の墓場』と呼ばれた番組があった。深夜情報バラエティー番組『フライデーボンボン』。
そこでコーナーMCを担当するアナウンサー・浅川恵那(長澤まさみ)もまた、この墓場に追いやられた人間の一人だ。
浅川はかつて同局の看板番組『ニュース8』のサブキャスターを務めた人気NO.1女子アナだったが、週刊誌に社員との路上キスを撮られ、番組を降板していた。
その相手とは現在報道局のエース記者となった斎藤正一(鈴木亮平)だった。
女子アナは干され、社員はそのまま出世街道を進んでいた。
この手のスキャンダルは女性側への社会的制裁が異常なまでに重い。
浅川はそれが原因なのか、睡眠と摂食障がいを患い、吐くことを繰り返していた。
ノドを通っていくのはのみ込みたくないこの現実と、チーフプロデューサー・村井喬一(岡部たかし)から受けるハラスメントばかり。
こんなハラスメントも随分と見なくなったと言われる今だが、軽く受け流し、その裏で身も心もすり減っている人が大勢いるのが現実だ。
そして『フライデーボンボン』の出演者も制作側も、皆業界で生き残るために必死にしがみついていると言えば聞こえはいいが、物事を動かそうともせず、墓場という安全地帯に身を寄せ、上に良い顔使って言いなりになっている。
皆、上に逆らうなんてのは受け流すよりずっと怖いから。そんな浅川の日々が、とあるきっかけで動き出す。
眞栄田郷敦が演じる岸本拓朗の相談とは
浅川は同番組の新米ディレクターの岸本拓朗(眞栄田郷敦)に相談があると呼び止められた。
「僕と一緒に真相、追及してくれますか?」
その真相とは、10年前に八飛市で若い女性が殺され遺棄された八頭尾山連続殺人事件の犯人・松本良夫(片岡正二郎)が実の犯人ではないというものだった。
家出中の女子中学生が松本の家に偶々身を寄せてただけというが、マスコミが誘拐、監禁、そしてロリコン殺人鬼だと騒ぎ始め、世間は松本が犯人だと信じ始めた。
松本は一度は事実を認めたものの、裁判では無罪を主張。その後の最高裁で死刑判決を下された。
いわゆるマスコミによる印象操作が無実の人を犯人に仕立て上げ、冤罪を生んだのだという。
以前『ニュース8』で冤罪特集を扱っていた浅川にこそ力を借りたいと目力で訴える岸本だが、目の色を変えそこまで躍起になるのは事情があった。
岸本はヘアメイクの、チェリーこと大山さくら(三浦透子)に「手出し禁止の出演者を口説いたという証拠をばら撒かれたくなければ力を貸せ」と脅されていたのだ。
弁護士の両親のもと裕福な家庭で生まれ育ち、順調に名門に進学。大手のテレビ局に入所した岸本は、そのルックスもあり、異常なまでに自己評価が高かった。
どれだけ村井にパワハラをされても全く効き目はなく、寧ろ自分を優位に思わせてくれる存在としか考えていないようだ。
そんな岸本に、自分が思い描いたままのエリート人生の危機が急に迫ってきたのだ。
実はその女子中学生こそ、幼き頃虐待を受け家出した大山なのだが、岸本は訳のわからぬまま、冤罪を暴くしかなかった。
問われる報道の『責任』
そんな岸本のお願いを軽く受け流していた浅川だったが、同市で同様の行方不明事件が発生しているニュースを見て、報道に持ち込むことを提案する。それで気が収まればと思ったのだろう。
案の定、ディレクターの滝川雄大(三浦貴大)には聞き入れてもらえず、不服そうな岸本に浅川はこう続ける。
「誰も自分達が報道したことの責任なんて振り返りたくないんだよ。だから報道っていつも必要以上に忙しい忙しいって、時間ないふりして」
浅川はこの事件を報道したことはないと話していたが、本当は死刑判決も、無罪を主張し控訴したことも報道していたのだ。
自分も報道の責任なんて、考えたくなかったのだ。
世間の構図を映し出したかのような『エルピス』
そんな時、岸本は入社当時の研修担当だった斎藤が事件を報道したと知る。
その斎藤が浅川の路チュー相手だと知らない岸本は、凍りつくフロアの空気も読めないまま浅川を半ば強引に誘い出し、話を聞くことに。
二人の関係を知り、非常に気不味い雰囲気の中、斎藤は冤罪特集を組むことを提案する。そして浅川と共に覚悟を決め、村井に企画を出すことに。
しかし、村井から「冤罪を暴くってことは、国家権力を敵に回すってこと」と突き返される。
確かに村井の言う通りではあった。
誰も見向きはしない深夜の情報バラエティー。闇のような暗がりにいる番組で、闇に葬りさられそうになる真相を扱っても、結局闇に他ならない。
世間は平穏を装いながら、今日もまた、真面目に真相を追う者にくだらない正義感だと指をさし、誰かのために声を上げる者を笑い、目に見えない力で捻じ曲げる。
それが今の世間の構図なのだ。
長いものには巻かれたい岸本は相談の本当の訳を浅川に伝え、諦めようとする。保身のために首を突っ込み、無責任に引き返そうとする岸本に浅川は強烈なビンタをお見舞いする。
「惑わされちゃダメだよ、おかしいものはおかしいじゃん。おかしいと思うものをのみ込んじゃダメなんだよ」
足を踏み入れてしまったのは、簡単には引き返せない先は見えぬ暗き沼だ。浅川は今更戻る気はなかった。
「私はもうのみ込めない。これ以上」
吐き気は、のみ込みたくない衝動だ。
のみ込みたくもない馬鹿げた現実を、そこに闇があるのを横目に平然と進み続ける日常を、根強く残り続ける差別を、何も知らない者達の無責任な評価を。
のみ込んでしまった分、吐き続けてきた。そうやって、そこにある権力に縋り、そこにある温かさに身を寄せるだけ頼り、何も動かなかった平凡な自分と、今決別する。
浅川は、透明な水を飲み干すのだ。黒さに惑わさず貫かれる、透明な真実を。
意味深な『エルピス』エンディング映像にも期待
まだ登場人物も闇に包まれたままの初回。
大山の虐待による手の傷跡を見て、岸本が思い出した過去の出来事とは何か。
そして行方不明の少女が山中で遺体で発見されたことで、事件は再び動き出す。
加えて意味深なED映像。ルンルンで料理する浅川を、統制された笑みを浮かべ、虚構を語り並べるメディアに準えるものだとしたら、黒く爛れ、失敗したケーキが闇に呑まれた真実のように感じられる。
そしてそれが入るケーキ箱が、パンドラの箱のようにも見えてくる。
また、1ピース欠けた純白のホールケーキを食べながら、慌てふためく浅川を見守る、チェリーの構図が暗示する未来とは…。
EDまで意味を持たせてくることでも、信頼感が増す思いだ。
そして、冤罪事件という題材を通し、国家権力の圧力や数々の隠蔽、マスコミの報道責任を描く今作。
腐りかけた世の中で、何かに揺らぐことなく、当事者意識が欠乏した私達の背筋を確かに伸ばしただろう。
そのマスコミ側であるテレビ局を舞台に、テレビがこれを放送するという覚悟を初回で十二分に感じた。
プロデューサーの佐野亜裕美さん、脚本の渡辺あやさんが各局に提案するも、断られ続けた企画がついに連ドラとして幕を開けた。
『エルピス』に触れた私たちに確かに芽生えた揺らぎは、希望、あるいは災いか。
[文・構成/grape編集部]