ふっと胸があたたかくなった宅配便のお兄さんの言葉 小さな優しさが気づかせてくれたこと
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吉元由美の『ひと・もの・こと』
作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。
たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。
小さな優しさが気づかせてくれたこと
「ワンちゃんの散歩は大変ですね」
35℃を超えた8月の午後、配達に来たいつもの宅配便のお兄さんに声をかけられました。
「去年、亡くなったの」
と言うと、お兄さんは「そうだったんですか」と申し訳なさそうな顔をして印鑑を捺した送り状を受け取りました。
「夏は朝早くにワンちゃんを散歩させているのを見かけていたので、配達はお昼近くに伺うようにしていたのです」
配達員のお兄さんのその言葉に、ふっと胸があたたかくなりました。それは亡くなったワンちゃんのことを思い出したからだけでなく、その配慮の優しさが胸に沁みたのです。
人が本来持っている質に触れた気がしました。人は、優しいのです。
とても優しいとは言えない人でも、自分本位な人でも、残忍な人であっても、深い深いところには優しさという小さな種があるに違いありません。
人は成長する過程で体験し、人と関わり合いながら、その種を育てていく。その学びは一生続きます。
中にはその種を傷つけてしまった人もいるでしょう。心に栄養を与えきらなかった人もいるかもしれません。今、どのような状態になっていたとしても、人の本質は優しいのだと思うのです。
命の尊さ、かけがえのなさ、森羅万象が、私たちの中に組み込まれているからです。それは、「労わる」ということにつながるように思います。
世界では、悲しいことがたくさん起こっている。争い、傷つけあう。憎み合い、いがみ合う。SNSの中では心無い言葉が飛び交うことがある。学校で、家庭の中でも傷つけあう。
そんな状況を前にすると、優しさが失われたなどという次元ではなく、人間がそこまで残酷になれるのかという絶望的な気持ちになります。
時代なのか、教育なのか、人間や国家のエゴが剥き出しになったこの世界に、もう未来はないのではないかとも思ったりします。
でも、人は優しい。この基本に立っていたい。命あるものを思いやり、労り合う。その気持ちがあるから、人間は生きてこられたのだと思います。
人類の歴史は戦争の歴史と言ってもいいほど。でもその中にあっても、お互いに助け合い、支え合ってきたからこそ、生きてこられた。そんなささやかなことは歴史に刻まれないとしても。
少し大袈裟なことを言っているかもしれませんが、今私たちに大切なことは、小さな優しさを交わし合い、心をあたたかくすることではないかと。それなら、今この瞬間からでもできる。
宅配便のお兄さんの優しさが、改めて気づかせてくれました。心の深い深い真ん中にある種を、優しく育てていきたいと思うのです。
いのちを紡ぐ言葉たち かけがえのないこの世界で
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※記事中の写真はすべてイメージ
作詞家・吉元由美の連載『ひと・もの・こと』バックナンバー
[文・構成/吉元由美]
吉元由美
作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。
⇒ 吉元由美オフィシャルサイト
⇒ 吉元由美Facebookページ
⇒ 単行本「大人の結婚」