「毎日使ってるよ!」海外から届いたLINE そこには2年前にプレゼントした傷だらけのお弁当箱が【grape Award 2018】
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grapeでは2018年にエッセイコンテスト『grape Award 2018』を開催。『心に響く』をテーマにした多くのエッセイが集まりました。
ここでは、作品の中から『国境を越えたお弁当箱』をご紹介します。
国境を越えたお弁当箱
「毎日使ってるよ!」
LINEで送られてきた1枚の写真。持ち手のほつれた『そら』と名前の入ったランチバッグと、蓋に描かれている顔が傷だらけのスティッチのお弁当箱。
2年半前、ラオス国立大学からの留学生でわが家へ迎え入れた時、彼女にあげたものだった。
21歳だけど、まだあどけない顔の女の子は、朝から笑顔が光る、何でも知りたがる小さな子どものような好奇心を持っていた。そして、底抜けに優しいふるまい。「ママはいつも大変だから…」と、常に一緒に動いてくれる子だった。
国へ帰ってからも大学生活の写真を送ってくれた。
大学を卒業し日本の企業へ勤め、日本人の細かい礼儀や厳しさが分からない…と泣いて電話をよこした時には、『大人の気遣い&マナー』という本を、読めないだろう漢字にふりがなをつけて送ってあげた事もあった。
私には3人の娘がいるけれど、遠く離れているにもかかわらず「ママ!」と頼ってきてくれる。自分の娘同様に可愛くて仕方がない。
私は彼女が来て、初めてラオスという国を知ることができた。ラオスは小学校卒業後の就職率が84%という数字をネットで見たことがある。その国の中で、中・高・大学そして留学まで進んでいるという事は、その子の努力だけでなく、ご両親も素晴らしい教育者で勤勉な方々だという事が読み取れる。
「雪が見たい」とスキーへ連れて行った正月、突然「父親が亡くなった」と知らされた。
慌てて留学先の大学へ送り届け国へ帰ったが、1時間半の車の中…雪が光で反射するようにキラキラした笑顔しかなかった顔が、目一杯ゆがみ、涙は胸を濡らし、その濡れた胸の張り裂ける音が車中に響き渡っていた。
私はただ黙って抱いてあげることしかできなかった。その姿を見て、自分の親へ対する感情がふと出てきた。
「私はこんなに泣けないな」
両親のことが嫌いではないが好きでもない。大人になったらそうなってしまった。そんな自分と重ねたら何だか羨ましく、切なくなったのを覚えている。同時に「親の存在とはこういうもの」という私が抱けない感情を、その姿から教えてもらった気がし、きっと無限大の愛情を貰って育ったのだろうと察した。
その彼女が、血も繋がらない数日しか一緒にいたことのない私を「ママ」と呼んでくれる。
LINEをくれる時はありったけのハートのスタンプと、最後に「Lovely day na mama」と必ず付け加えてくれる。
日本で災害があれば「心配…」と連絡をくれる。
そして、使わなくなったお下がりのお弁当箱の写真を送ってきてくれた時は、胸の奥に感じる何とも言えない温かみのある、周りの空気が彼女の愛情を掴み、私の体にまとってくる感覚は、直接触れなくても分かる抱擁力。
そこに私が感じることのできなかった愛情が見えた。この小さな、何でも知ってる手の平サイズの機械の中から、大きな愛情をも送ってくれた気がした。
日本とラオス。他の国も同様、国が違えば文化も考え方も気持ちさえも違ってくるけど『人間』という器の中身は同じものなのだと実感した。それと同時に、3人の子どもを産み、親になってもまだ親の愛情の足りなさを思ってしまう自分を情けなく思った。
しかし、それは必ず親から貰うのではなく他人からも貰い、親の愛情と重なって体に刻み込まれていくものだと察した。親戚の叔父・叔母・近所の人々、友達の顔が脳裏に浮かんできた。
彼女もそう。同じ人間で人種が違っても、周りの環境に恵まれ育ったに違いない。だから今、お互い与えることができ、それを素直に受け止めることができる。遠い異文化の地からそれを教えてくれた。
窓からの朝日が、視界を遮るほど強すぎてカーテンを半分閉めた時、LINEの通知音が鳴った。「頑張って作ってるよ!」と、私たちが想像する形と違う、切って入れただけのぶっきらぼうに詰めてあるお弁当の写真。
私はそれを横目に、社会人になりたての馴れない初々しさも感じる彼女にも一緒に作ってあげたい気持ちで、子ども達のお弁当を几帳面に詰めていった。
存在する人々・在るもの・見えるもの形は違っても、体の中にある人間の魂に国境は無いのだと、世界中の人に知って欲しいと思いながら…。
grape Award 2018 応募作品
タイトル:『国境を越えたお弁当箱』
作者名:好
『心に響く』エッセイコンテスト『grape Award 2019』
grapeは、一般公募による記事コンテスト『grape Award』を2018年に続き、2019年も開催します。
grapeのコンセプトである『心に響く』をテーマに、エッセイを募集。入賞作品はgrapeの記事として掲載されます。
2018年は約4か月間で、海外を含め13歳から86歳までの幅広い年齢層から、2017年のおよそ3倍となる695本もの作品が届けられました。
今回も、みなさんの『心に響く』素敵な作品をお待ちしております。
『grape Award 2019』に関して詳細はこちら。
特別協賛企業のご紹介
株式会社タカラレーベン
株式会社タカラレーベンは全国で展開する総合不動産デベロッパーです。
「幸せを考える。幸せをつくる。」を企業ビジョンとして掲げ、幸せをかたちにする住まいづくり、街づくりを実現しています。
本コンテストでは、『心に響く』をテーマとした全応募作品の中から特に「幸せ」が感じられる作品に、『タカラレーベン賞』が贈られます。
皆様のご応募をお待ちしております。
[構成/grape編集部]