愛とはとても日常的で、いま、ここにあるもの、自分の中にあるもの
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吉元由美の『ひと・もの・こと』
作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。
たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。
大切な人を、大切にするということ
歌を書くというのは、『生きること』について考えることでもあります。『生きること』というと大げさに聞こえるかもしれませんが、ポップスでも演歌でも、生きている様を物語として、メッセージとして表現しています。
ですから、作詞をするというのは物語を構築するのと同時に、「哲学をする」ことでもあるのです。愛とは何だろう。愛するとはどういうことか。情愛とは? 孤独とは? 自分に対して、そんな問いかけをすることなのです。
主宰している『言の葉塾』では、毎月エッセイを書く課題を出します。あるとき、『愛について』というテーマを出したところ、受講生の中から「むずかしい」という声が上がりました。
愛を抽象的に捉えようとするとむずかしいかもしれませんが、友達や家族や恋人、夫婦、ペットなど、日常でつながっている関係の中で愛を感じることは普通にあるのではないかと思っていました。
あまりにも日常的であるために、それが愛だと認識していないこともあるかもしれませんが、改めて考えてみることで気づくことがたくさんあるのです。愛を表す、これだ!という言葉はあるでしょうか。
ある人は、祖母とのあたたかい思い出について書きました。文章の中に『愛』という言葉はひと言も出てこないのですが、行間から溢れるように伝わってきました。
日常の中にある心の交流を丁寧にすくい取るように感じることで、あたたかさを感じとることができます。この方が日頃大切にしているものが、文章に現れているのです。
さて、愛について。1549年にフランシスコ・ザビエルにより日本にキリスト教が伝えられます。1600年に刊行されたキリシタン教理書の中で「神を愛し、隣人を愛しなさい」というイエスの教え(マタイ22・37〜39)を当時の日本人は次のように訳しました。
「万事にこえてデウス(神)をご大切に思ひ奉る事と、我が身を思ふ如くポロシモ(隣人)となる人を大切に思ふ事これなり」
『愛』を、神に対しては「ご大切」、隣人に対しては「大切」と表現しています。当時の日本語ではキリスト教でいう『愛』に該当する言葉はなく、宣教師たちはその概念を「ご大切」と表現したそうです。
愛とは、大切にすること、大切に思うこと。心から大切に思うこと。
こう捉えてみると、愛とはとても日常的で、いま、ここにあるもの、自分の中にあるものだと気づきます。命を大切だと思うことは、すべての人、命を愛しく思うことにつながる。
大切なものを大切にすること。大切な人を大切にすること。それが、愛するということなのだと、いにしえの日本語が教えてくれました。
※記事中の写真はすべてイメージ
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作詞家・吉元由美の連載『ひと・もの・こと』バックナンバー
[文・構成/吉元由美]
吉元由美
作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。
⇒ 吉元由美オフィシャルサイト
⇒ 吉元由美Facebookページ
⇒ 単行本「大人の結婚」