静かに生活を守ることを求められている今、日本語の美しさ、豊かさを知る
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吉元由美の『ひと・もの・こと』
作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。
たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。
「氷が溶けたら春になる」その日へ
「氷が溶けたら何になる?」
40年前、朝日新聞の天声人語に掲載された小学校の理科のこの問題について。
「氷が溶けたら何になる?」
「春になる」
と書いた生徒の答えが不正解になったことについて、筆者は子どもの発想を尊重することも大切なのではないかと述べています。これには各所で賛否両論あったようです。
「水になる」のが正解であり、教育現場ではそれ以外の答えはあり得ないだろう、という批判です。「春になる」と答えるのは理科の答えでなく、『クイズ』の答えでしかない、と。
ある私立小学校の先生と話をしたときに、この問いについての話題が出ました。先生は、「春になる」という発想は素晴らしいと言われました。柔軟な発想を持った子どもの感性は、学力はもちろん、創造性を発揮すると。
もちろん学力をつけることは大切ですが、同時に感性を育むことも人間力を育むためには欠かせないというのです。
東京では桜が八分咲きになった先週、早朝から雪が降りだしました。みるみるうちに屋根も道路も白くなりました。春の雪は牡丹雪。水分を多く含んだ雪が午後を過ぎるまで降り、そして程なく溶けていきました。
3月の終わり、旧暦3月の初めです。この時分に降る雪を『桜隠し』と言います。美しい言葉ですね。満開近い桜の花に雪がふわりと。古の日本人はこの光景を見て『桜隠し』と名付けたのでしょう。
降るそばから消えてしまう春の雪を『淡雪』、春の終わりの名残りの雪を『雪の果』。和歌、俳句、歌を詠む文化がこのような美しい言葉を育んできたのでしょう。
また、季節を表す日本語の豊かさ、自然の姿をその時々に切り取るような、シャッターを押して写真におさめたような表現の美しさ。それは単に言葉の美しさだけでなく、その言葉を使い、口にすることで心に豊かさがもたらされる。これが、本来の言葉の力なのではないかと思います。
私たちは『今』『現代』を生きていますが、同時に未来の礎を日々作っているのですよね。後世にもこの日本語の美しさ、豊かさを伝えていくためには、このような言葉があることを知り、味わい、できたらさりげなくとも使えるようになることです。
静かに生活を守ることを求められている今、「氷が溶けたら…春になる」を実感するのです。
※記事中の写真はすべてイメージ
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作詞家・吉元由美の連載『ひと・もの・こと』バックナンバー
[文・構成/吉元由美]
吉元由美
作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。
⇒ 吉元由美オフィシャルサイト
⇒ 吉元由美Facebookページ
⇒ 単行本「大人の結婚」