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30年で大きく変わった歌 バブル期はラブソング、崩壊後は応援歌 そして今は…

By - 吉元 由美  公開:  更新:

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吉元由美の『ひと・もの・こと』

作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。

たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。

私たちの30年の物語

「恋愛も結婚もしなくなった」 

6月19日の読売新聞のくらし版に『平成の人生案内 男女編』という記事がありました。平成の30年間に『人生案内』に寄せられた相談から、男女の関係がどのように変わっていったかを考察しています。

30年前と言えば、私が作詞家デビューをして仕事が乗り始めた頃です。この30年の男女の関係の変化は、そのまま歌の世界とリンクしています。振り返ってみて、初めてその流れが見えてきます。何か大きな流れ、渦の中にいる感じはしていたのですが、その正体をつかめないまま過ごしていたような気がします。

平成の初期は、まだバブル景気の真っただ中。いわゆるトレンディー・ドラマが全盛の頃です。杏里に書いた『Groove-A-GoGo』が、浅野裕子さん主演の『ハートに火をつけて』の主題歌になりました。その頃書いた歌のテーマのほとんどはラブソング。男女のドラマ、心の機微を描いた作品を多く書きました。

その頃、恋愛にも結婚にもお金の匂いがしていた…というのでしょうか、3K(高学歴、高収入、高身長)という言葉が生まれ、アッシーとメッシー、みつぐ君という言葉が踊りました。。

 『人生案内』にも、「彼はとてもお金持ちで、贅沢な食事に連れて行ってくれますがとても冷たいのです」「高学歴、一流企業に勤めている夫ですが、価値観が合いません」といった相談が寄せられています。

バブルが崩壊すると、今度は正規雇用に就くことができなかった若者の不安が寄せられるようになります。

「ひとりで食べていくのが精一杯。結婚はできない」
「収入が低いので、彼女ができないのでしょうか」

こんな悲痛な相談が多くなります。一方、女性たちは仕事をすることがあたりまえになり、結婚の条件が不安定になるくらいなら結婚しなくてもいい、という価値観が生まれます。

その頃、歌詞のテーマに求められるようになったのは、ラブソングでなく応援歌でした。「大丈夫、あなたならできる」「勇気を持って、負けないで」を繰り返すばかりの歌…。これは明らかに時代のムードが変わったことを示していました。そして、歌詞から物語と情緒がなくなっていったのです。文学的なレトリックも必要なくなりました。バブル期に盛り上がった恋愛、結婚ムードは一気に冷めると共に、ラブソングが少なくなっていったのです。

アメリカの同時多発テロがあり、世界情勢は一気に不穏な動きを見せ始めます。人間の心に寄り添うはずの宗教が、憎悪の根源に。その2年後に『Jupiter』がリリースされました。そして翌年の新潟中越地震をきっかけに、『Jupiter』は多くの人にエールを贈る歌として注目されました。時代の空気を読んだわけではありませんが、いま大切だと思っていることを伝えようと思いました。私たちはみんなつながっていて、ひとりひとり祝福された存在である…このメッセージが、何かしらの安心感となったのかもしれません。

未婚化が進む中で、リーマンショックはさらに若い人たちを経済的弱者にしていきました。格差が広がってきました。草食男子という言葉が流行ったのもこの頃です。女性たちはさらに自立の道を踏み固めていきます。恋愛は面倒くさい…好きな人の手を握るより、アイドルと握手をする…そんな男性が増えていったのです。

そうしているうちに、男も女も人を好きになる、愛するという気持ちをなかなか持ちづらくなってきたような感じがします。そして最近『人生案内』に寄せられるのは「男性とおつきあいしたことがありません」「女性と口をきいたこともありません」「何のために生きているか分からなくなりました」といった相談です。

ひとりで生きていける。でも、それだけでいいのだろうか。

このような悩みを相談することだけで終わらせず、人生の意味を問い直すきっかけにしていけたら、社会に変化をもたらすことができるのではないか。「自分という物語」を書いているのは自分自身。自分が本当に望むことと向き合うのです。次の時代、男と女がそれぞれに孤立せず、素敵な関係を築いていける時代を創っていくためにも。

『自分という物語を生きる〜心が輝く大人のシナリオ』 (水王舎)


[文・構成/吉元由美]

吉元由美

作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。
吉元由美オフィシャルサイト
吉元由美Facebookページ
単行本「大人の結婚」

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